2014.03.11 Tue
私たち日本人は、夕食でお酒を楽しむとき、だいたい何品かの料理をつまみにする。そして最後に、ご飯か麺類でしめるというひとが多いはずだ。
まだ冷え込むこの時期、鍋料理の最後に入れるのは、雑炊にするための「ごはん」。これで満腹中枢を十分に刺激し、完璧なフルコースとなる。最近では米離れがすすみ、消費量も減る一方だと聞くが、「ごはん」なしでは語れないのが、日本人の食卓だ。
スペインの代表的な米料理といえば、「パエリア」を思い浮かべる方も多いだろう。「パエリア」は日本でいう、炊き込みごはんだ。日本人にとっては、ヨーロッパにいながら「ごはんもの」を味わえる嬉しい料理である。
しかしこの「パエリア」、レストランで注文するときには、主食ではなく、なんと前菜扱いなのだ。
スペインでは日本と違って、昼食が一日の食事のメインであり、質と量にこだわる。レストランやBAR(バル)の「お昼の定食メニュー」では、まずワインかビール、あるいは水を注文した後、第一と第二の皿、つまりふたつの料理を決める。
第一の皿ではサラダ、スープ、スパゲティとともに、「パエリア」がメニューに並んでいることがよくある。このなかから、ひとつ食べたいものを選び、次の第二の皿で、メインディッシュとなる肉や魚の料理を選択する。
食事には必ずパンも付いてきて、その後、デザートやコーヒーで終わる。要するに「パエリア」は野菜と同じ扱いで、肉や魚料理の前に食べ、あくまでも主食はパンなのだ。
そもそもこの「パエリア」、実はスペイン人が頻繁に食べる料理ではない。週末に家族や友人たちが集まった時や、何かのイベントで出される場合が多いのだ。
地元の野菜や魚介類、肉などといっしょに専用の大鍋で炊き上げる「パエリア」は、ワイワイ、ガヤガヤと、気の置けないひとたちとお喋りしながら調理し、分けあって食べる。
以前、知り合いのカタルーニャ人女性の家に、昼食に招かれたときのことだ。前菜は「パエリア」ではなかったが、色とりどりの生野菜に「白米」をトッピングした「ライスサラダ」をたっぷりと出してくれた。
「私は高血圧で中性脂肪も高いから、肉や魚を食べないで、お米を食べたほうがいいのよ」
医師からもそうアドバイスされているらしい。芸術家の夫(再婚相手)ともに来日した経験もある彼女は、健康にはずいぶん気を配っている。夫も同じカタルーニャ人だが、ベッドのうえに布団を敷いて寝ているほどだ。そのほうがからだにも良く、安眠できるのだという。
ワイン片手に、いかにお米がヘルシーなのかを熱く語りながら、「ライスサラダ」ばかり食べていた。
「お米は野菜だからね~私にはお米が合っているのよ」
日本では「ごはん」がダイエットの大敵のように扱われることも結構ある、と私がいったら、彼女は信じられないという表情をした。
私は「ごはん」で育ち、人一倍からだだけは大きくなった。スペインで日本の食卓を想う時、子どものころのことが浮かんでくる。日本の高度成長時代を底辺で支え、一途に働き続けた両親は、どんなに家計が苦しくても、「ごはん」だけはお腹いっぱい食べさせてくれた。お菓子を買ってもらえるのは、遠足の前か、縁日の日ぐらいだった。
スペイン語で「食べる」を意味する単語は「コメール=comer」。「さあ、今から、いっしょに(私たちで)食べましょう」という場合は、「コメーモス=comemos」となる。
ダジャレではないが、この言葉を聴くたびに、「コメ」を食べることは生きることなのだと感じる。そして、こうして毎日、食べられるありがたさも・・・。
カテゴリー:スペインエッセイ
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