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お母さんたちは超キレイ好きで働き者 ―スペインエッセイ 連載第13回目 中村 設子

2014.05.10 Sat

 スペインのひとたちは時間にルーズで、働くのが嫌い…。一般的に、そんなイメージをもたれやすいが、私が知るかぎり、スペイン人の女性は働き者が多い。特に家をキレイにすることに関しては目を見張るものがあって、掃除というより、「ピカピカに磨き上げるのがあたり前」といった感じさえする。

きちんと整理整頓して、あまり生活感を漂わせない部屋。ベットメーキングもカバーのよじれなどもなく、バッチリと決まっている。わが家のように棚に埃が溜まっている光景など、ほとんど見たことがない。

台所にいたっては、レンジ台やコンロのステンレスには、光の輪ができている。以前にも書いたが(「家政婦さん」に頼るのは贅沢?」)、外で仕事をしている中流家庭の主婦が、家政婦さんを雇うのはスペインではごく普通だ。彼女たちは、通いの家政婦さんに週に何度かお願いし、家事を助けてもらっていても、自分もこまめに掃除をする。

 50代のセニョーラの家を訪ねたときのことだ。

「今、うちの台所は汚れているから」

というので、散らかっている場面を想像していたが、何のことはない。私から見ると、じゅうぶんにキレイなのだ。

「台所は私の城よ」

そう、断言する女性も多い。

 私の友人が部屋を借りていた大家さんのセニョーラは、家政婦さんだ。30歳になる直前に、アルコール依存症でまともに働かない夫に見切りをつけ、離婚してから30年以上が経つ。まだ幼かった子どもたちを、自分の収入だけで育て上げた。60代になっても、三軒の家を掛け持ちしながら働き続けている。

不況の影響で、失業中の長男は自宅でゴロゴロしているが、彼女は特に文句をいうわけでもない。いつも電気や水道の使いすぎに気をつけ、細かいところまで賢く節約しながら、生活をきりもりしている。

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食事はもちろんスペインワインからはじまる

彼女の家で昼食をご馳走になったとき、私の友人に、彼女はふともらした。

「毎日のように、“そろそろ結婚しよう”って、せまってくるのよね~」

家政婦として通う三軒の家のひとつは、70代の男性がひとり暮らしをしている。その彼からいつも口説かれているらしいのだ。かなりの資産家らしく、私と友人は

「ぜったい結婚したほうがいい!」

と、あおりたてるのだが、

「あんなおじいさんなんて、イヤよ!!」

ときっぱりという。彼女は特に美人でもなく、小太りだが、どことなくセクシーで愛くるしい。テキパキと、そして朗らかに家事をする彼女の様子を眺めながら、70代のセニョールが日々胸をときめかせている様子が、私は容易に想像できた。

 街を歩いていても、スペインの女の子たちは幼いときから、自分の魅力に気がついているような気がする。自分の個性を、他の人にはない美しさとして意識し、堂々と振舞っている子が目立つからだ。10代になったばかりの女の子でも、こちらがドキリとするくらい女性的な色気を漂わせる女の子もいる。自分に似合う服や装飾品だけではなく、ちょっとした仕草や話し方など、自分を魅力的に見せる術を身につけているのだ。

自分を女性としてアピールする方法を、彼女たちは母親から自然に学んだようにも思う。母親もわが子の個性や魅力を、日常生活のなかで、言葉にして、いつも伝えきたのではないだろうか。

この国の人たちは、常に自分の意見や感情を表に出すことを良しとし、延々と続くおしゃべりを日常的に楽しんでいるからだ。

面倒見がよく、料理がうまい母親・・・その理想像は今でもしっかりと支持されている。

 スペイン男性にはマザコンが多いといういわれ方もするが、確かに日本人には考えられないほど、男たちはまめに母親に電話をし、連絡を取り合う。

 数年前のクリスマスの日、バルセロナに住む30代の友人が、両親と暮らす自宅に招待してくれた。クリスマスだというのに、私と幼い息子がふたりだけで寂しく食事をするのを気の毒に思ったからだ。

彼は独身だが、ガールフレンドでもない私が子連れで訪ねてきたことに、彼の母親は驚く様子もなく、自分の孫のように私の息子を可愛がってくれた。

そのとき、彼が何かにつけて母親をほめることに、私は驚いた。

「母さんは、何時間もかけて、家族のために、この素晴らしいスープをつくってくれたんだ」

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カタルーニャ人のマリアは手作りのガスパチョで、もてなしてくれた

確かに、魚でしっかりとダシをとったスープはコクがあってうまい。野菜もたくさん入っていて、健康を気遣う母の気持ちが感じられた。

「いつも美味しい料理をつくってくれているから、僕たち家族は元気でいられるんだよ」

その言葉通り、どこの部屋もキレイ過ぎるくらい掃除が行き届いている。彼の部屋には子どもの頃に使っていたブリキのおもちゃが、磨かれた輝きを放ちながら、書籍棚に鎮座していた。これを見たとたん、私は、幼かった頃のわが子の思い出を、母親がずっと愛おしく想い続けているのがよくわかった。

「ボクの部屋まで、いつもキレイにしてくれているんだ」

 いつも家族の中心には母親がいる。そして彼女たちは家族との食事の時間をとても大切にする。食べながらおしゃべりする時間こそ、家族の絆を深め、愛を育むと信じて疑わないのだ。1日5回、食事をするスペインの生活スタイルは今やすっかり知られているが、単に食欲を満たすことだけに執着しているだけではない。誰とどのように食べるかが重要なのだ。

女性たちが台所を「お城」にし、家中を磨くのは、家族から高い評価を得られるばかりではなく、自分の美意識や哲学のようなものを最大限に発揮できるからなのだろう。

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週末の青空市。新鮮な野菜の買出しはお母さんたちの大切な仕事

 高齢の女性でも、近所の市場に行くときは、きちんと化粧をし、ネックレスとイヤリングでおしゃれをしている。ばったりと友達と会えば、そこで長い、長い、立ち話が弾む。会話する声がまた大きいので、通りすがりの私にも内容がだいたいわかってしまうのだが、ほとんどが家族の話だ。

忙しいことを言い訳に、なかなか掃除ができない私は、いつも家中をキレイに保っているスペインのお母さんたちには一目置いてしまう。到底、マネなどできそうもないが、家族との食事の時間を、人生のなかで最もかけがえのないものとして捉える素敵さを、私はこの国から学んだ。

カテゴリー:スペインエッセイ

タグ:くらし・生活 / / / スペイン / 中村設子

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