エッセイ

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新エッセイ第1回 「乳がん」を寄せつけないために~ 中村設子

2015.05.10 Sun

私ができることは体験を伝えること

 近年、「乳がん」の疾患者数は増加の一途をたどり、すでに日本では女性の十四人にひとりが発病している。働きざかりであり、子育てにも忙しい四〇代~五〇代の女性が最もかかりやすい病気だ。若い世代の女性にも増えていることから、年齢に関わりなく、すべての女性が「乳がん」を意識し、早期発見につとめなければならない状況になっている。
 私も自分が「乳がん」になってはじめて、いかに多くの女性がこの病気に苦しんでいるかを知って驚いた。がんのなかでも、「乳がん」は自分で見つけられる唯一のがんだといわれている。私は医療機関が勧める通り、毎月一回、お風呂に入ったついでにチェックしていたが、右胸にできていたこり・・には気づくことができなかった。だが、毎年、検診を受けていたおかげで、私の「乳がん」は早い段階で見つかった。
  一週間後に、乳房の部分切除手術を受けた。これですむのかと思ったらものの、そう甘くはなく、がん細胞が乳房全体に広がっている可能性があったため、結局は、右乳房を全摘することになった。手術後の検査の結果、幸いなことにリンパ節への転移がない、早期発見だということがわかった。思いもよらなかった「乳がん」の告知と手術は、これまでの人生のなかで、もっとも厳しい経験となった。

 「がん」という病気は他の疾患と異なり、自分自身の細胞が変異して起こる病気だ。いい方を変えれば、自分が生み出した病ともいえる。
「何をやったって、がん・・になるひとはなるのよ」というひともいる。確かに、自分自身のからだといっても、細胞レベルまで、すべてをコントロールすることなどできない。しかし、がんになりにくいからだにすることはできる、と私は信じている。

 私は手術後、がんに負けないために、からだに良い影響を与え、がんを遠ざけることができる暮らし方をしていこうと考えた。そのために、専門家が書いた本や、がん経験者の方々が綴った本をかたっぱしから読んだ。身に付けた知識をもとに、試行錯誤しながらいろいろと試し、自分のからだの調子がどのように変化するのかを見つめてきた。その結果、食生活や生活スタイル、仕事のやり方まで少しずつ変えていくことで、今では病気になる前より格段に体調はよくなり、病気に対しての不安もほとんどなくなった。

「乳房再建」が生きる力となる

 今は、こんな強気な発言をしているが、実際は、「乳がん」になった直後から、決して前向きな気持ちになれたわけではない。片方の乳房を失った喪失感から、無気力でひきこもり状態が半年間も続いた。ようやく私が立ち直れたのは、「乳房再建」への希望を抱き、実際に実現できたからだ。
 三年がかり、三度の全身麻酔による手術を経て、自分のお尻から採った脂肪を胸に移植するという、医学の偉大な力によって、私の新しい乳房は誕生した。私にとって「乳房再建」は、再び自分の胸に乳房・・生まれた・・・・という想いがある。乳房を全摘したことで、生きる気力まで失ってしまった自分自身を再生させるためには、「乳房再建」が、どうしても必要だった。

 「乳房再建」には、大きく分けて二通りの方法がある。人工物を胸に入れてふくらます方法と、私のように自分のからだの一部(=自家組織)を使う方法だ。手術法の違いはもちろん、からだへの負担や、出費の額などを比較すると、どちらの方法にも、メリットとデメリットがある。
 こうした情報は、広く知られるべき情報であるのにも関わらず、日本では一部の医療機関を除いて、患者側に対して十分に提供されているとはいえない。そもそも根本的な問題として、この国では、乳房の摘出後に新しい乳房をつくる形成手術が、「乳がん」治療の一環として位置づけられていないのだ。
 当然、乳房をつくるかどうかは、当事者本人の意志による。乳房をつくらない選択があってもいい。だが、私自身は「乳房再建」によって、新しい人生が開け、生きる気力ばかりか、女性としての自信も取り戻せたことを、多くにひとに伝えていきたい。

「乳がん」にならないために、そして万が一のときの備えとして

 「乳がん」にかかる女性が、ひとりでも少なくなってほしい。そして万が一、「乳がん」にかかってしまったとしても、治ることを信じて一歩一歩、がんを遠ざける暮らしをしてほしいと心から願っている。
 一家の中心である女性が、「乳がん」で苦しむことになってしまっては、親子の関係や、支えあってきた家族の関係も壊れてしまいかねない。「乳がん」にかかりやすい世代は、就学中の子どもを育てている女性が多いだけに、絶対に、幼い子供たちから母親を奪う結果にはなってほしくないのだ。

スペイン・バルセロナで発表した「書」作品より

スペイン・バルセロナで発表した「書」作品より

 今回からスタートした新エッセイは、1年半前に電子図書で発刊した『生きるための乳房再建』を踏まえ、病気を寄せつけない暮らし方に焦点を当てた。個人的な事情を説明するために、前作の中ですでに記述した事柄も、第一章には含まれている。そこからさらに発展させた形で、私の体験や失敗談を加え、日々、どのように「乳がん」を遠ざけるための工夫を実践しているのかを綴らせていただいた。私の想いを伝えることで、微力ながら誰かの力になり、何かの手助けができれば、これほど嬉しいことはない。

カテゴリー:乳がんを寄せつけない暮らし

タグ:身体・健康 / 女の健康 / 乳癌 / 中村設子 / ピンクリボン