2014.06.17 Tue
第20回上野ゼミレポート
「『日本人の文革認識』と「翻身」概念を通して考える日中関係」
日時:6月12日 午後6時~
会場: デモクラTVスタジオ
■対象文献: 『日本人の文革認識――歴史的転換をめぐる「翻身」』(新曜社、2014年)
■報告者: 福岡愛子(WAN上野ゼミスタッフ)
■コメンテイター: 岡田充(共同通信客員論説委員、桜美林大学非常勤講師)
飯島幸子(東京大学大学院人文社会系研究科研究員)
WAN上野ゼミも2011年夏の初回以来今年で4年目に入ります。思えば今回は第20回という節目にして、三鷹界隈を離れ御茶ノ水のデモクラTVスタジオで開催する初の試み。参加者は、『日本人の文革認識』のインタビュー対象者とその同世代の当事者、中国関連の研究者・ジャーナリスト(そのうちお二人は中国人)、大学院生、それにちょうど来日中だった上野先生のゲスト(ジュネーブ大学のアジア研究者)などを含む、多彩な顔ぶれで、総勢26人でした。
これまでの書評セッションと異なり、著者自身がコーディネイターと報告者を務め、本来のWANの枠を超えて関係者に呼びかけコメンテイターをお願いして、自著のブックトークを開催する(しかもゼミ・レポートまで自分で書いてる)というのですから、自作自演もいいとこです。が、著者の思惑など超えて話が止まらなくなるのは想定済みで、開催時間は「午後6時~ 」のオープンエンド、司会者不在、という無謀さでスタートしたのでした。
スタッフの事前ミーティングでは、日中関係への憂慮や関心がうかがわれました。WANには珍しく中国関係者の参加が多いことに、期待も高まりました。なので、今の日中関係をどう考えたらいいのかを念頭におきながら、文革の時代を知ることや「60年代」を今に結びつけることと「翻身」概念の可能性を評価することをめざしました。
案の定(!?)そんなにすんなりとはいきませんでした。参加者からは熱心な発言が続き、上野先生のツッコミも期待に違わず厳しく、議論は延々10時まで続きましたが、「今の日中関係」にはたどり着きませんでした。しかし皆さんは、上野ゼミ始まって以来の最長記録にも呆れた様子はなく、4時間が「あっという間」だった、「こんな場がまさかあろうとは想像もしなかった」「なんとも楽しいひとときだった」といった感想が目立ちました。不満があったとすれば、むしろ「話し足りなかった」という方だったかも。
実際の成り行きは、いずれ録画映像を編集した上で公開できると思いますが、それに先駆けてとりあえず、進行の概要とゼミ後に寄せられたレスポンスを中心にお伝えします。
★報告・コメント概要(当日のレジュメから)
(1) 福岡愛子
研究の位置づけ/分析対象/出版後の評価/「60年代」を「今」につなげる試み
(2) 岡田充「脱国家の思考回路を」
主体は揺らぎ変わる/圧巻の新島淳良評/カサブタを剥ぐ痛みを快感に 脱亜意識と国家に抗えぬ情緒
(3) 飯島幸子
本報告の主旨/比較対象の事例研究(旧東ドイツ社会科学者が経験した「統一」)
「翻身」概念の比較・検討
★参加者の感想(当日のレスポンス・カードから抜粋・要約)
福岡報告に対して
・わかりやすかった。自著を対象化していることに新鮮な感動。
・「翻身」という概念は私にはいまいち納得できない所があるが、私自身日本人の中国観を、自分を含めて見直していくことはこれからも続けて行きたい。
・「転向」ではなく価値判断を含まない「翻身」とすることに優しさを感じるが、疑問もあった。翻身「後」にどんな社会的影響があるのか、次なるアイデンティティーに共通項はあるのか、「歴史認識」形成につながるのでは…。
岡田コメントに対して
・同時代を生きた者として共感するところと、学生運動や文革へのスタンスの差とがあって、おもしろく聞いた。
・時代を生きた岡田さんの言葉はドキドキした。まっすぐ鋭く分析されて興味深かった。
飯島コメントに対して
・東西ドイツの統一がもたらしたことが、大学改革にもあったことに驚いた。事例を整理して比較する力強さに感心した。難しい比較だが、それによって「翻身」の意味がまたみえる気がした。
・東ドイツの知識人は、体制のいい位置にいたとしても、文革時代の中国人(そして登場する日本人)のように体制にidentifyしていなかったのではないか。
全体の感想
・上野先生のコメント、すばらしく勉強になった。
・自分のこととして話を聞きながら、自分自身をどう折り合いをつけて生きることが「翻身」と読んだ。
・中国の人の発言がおもしろかった。日本の若い世代の発言も聞きたかった。
★追加コメント(後日、福岡宛てに寄せられたメールから抜粋・要約)
コメンテイターの飯島さんには、東西ドイツ統一という社会変動を経験した東ドイツの研究者の事例と比較して「翻身」概念を検討する、という課題を引き受けていただいたのですが、その課題自体の難しさについて、ゼミ終了後にもあれこれ考え続けて下さった方々もおられました。
後日、以下のような追加コメントが届きました。
・飯島さんのケースが翻身に合致しないことの一つの理由として、「日本のなかの文革」がある種のマイノリティを扱ったケースであることがあるのでは。 つまり、社会的にナラティブの変化した東ドイツでは個人の意識上はさほど混乱せずにアイデンティティーの再形成ができるのに対し、福岡さんのケースでは内省的な「アイデンティティー選択」の過程が重要になったのでは。
・旧東ドイツでの「翻身」は全ての人が否応なく新システムへの順応を迫られたのに対し、文革支持者の問題は、左翼陣営の中の少数部分の主体的選択の問題だったから、双方の比較は飯島さんにとって少し酷だという気がした。
酷なことを引き受けて下さった飯島さん、著者の期待以上の読みとコメントをして下さった岡田さん、どうもお疲れ様でした。
また、今回の会場を提供して下さり、設営から撮影まで惜しみない協力をして下さったデモクラTVの渡辺さん、本当にありがとうございました。
B-WAN(ブックワン)に投稿した著者紹介文が、本ゼミ開催日の前日に、WANのサイトにアップされました。
福岡愛子
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