『職務格差』大槻奈巳著(明石書店、2015年)

今回のフォーラムは、ブックトークが中心。
読書会で何カ月かかけて読み込み、討論してきた本の著者さまからもお話が聞けると聞いて、楽しみに出かけました。

午前中は聖心女子大学教授・大槻奈巳先生の「職務格差 女性の活躍推進を阻む要因は何か」(勁草書房)について。
細かい内容の羅列は控えますが(ぜひ読んでみてください)、印象に残った点をいくつか挙げます。

まず、最近よく目にする「女性の活躍推進」という言葉について。
女性の活躍推進が話題になるとき、しばしば
・女性の視点を活かした~
・女性ならではの感性で~
という言葉とセットで語られることが多いですね。

けれどこれらの言葉の危険性については、あまり語られていません。
女性に向いている仕事って、いったい誰が決め
たのでしょうね?
サポート役や細かい単純作業が得意、って本当に?

「女性の視点」「女性ならではの感性」なんて言葉に縛られて、「この仕事は女性向きだから」と仕事を振り分けられる危険性。
今回は具体的な事例から、そのデメリット(女性性のイメージと仕事のイメージが結びついて仕事が割り当てられ、それにより昇進のタイミングが遅れたりスキルが身につかなかったりすること)を学ぶことができました。

何気なく使っている、
女性らしさ
やっぱり女性だから
女性にしかわからない
女性の視点
などの言葉がもたらす空虚さと弊害を、私たちはもっと知るべきではないでしょうか。
実際に、そうした言葉のイメージは、明らかな賃金差別・昇進差別にはっきりと結びついているのです。


私も既成の「女性らしい」イメージに縛られたり左右されたりすることなく、好きか嫌いか、得意か不得手か、など、主体的な判断基準で自分のスキルを評価していけたらと思います。

また、他の事例で挙げられていた、雇用における差別的な女性の年齢制限について。

「女性の魅力は若さにある」と考える女性が、全体の三割もいるという事実。
信じられないかもしれませんが、事実なのです。

無理もないかな、と思う例の一つを身近な例ではコンビニの雑誌コーナーにも見て取れます。
女性誌の9割近くが、ファッション誌で埋められている一方、男性誌の方はそのほとんどがゴルフなどのスポーツ・ライフスタイル、お酒などのカルチャー・マネープランなどの経済などをメインとした雑誌で埋められており、ファッション誌は2割ほどといったところでしょうか。
つまり、
・女性の魅力はファッション、メイクを含む見た目に重きが置かれる(そしてロールモデルとして雑誌の表紙を飾るモデルは、おしなべて年齢より「若く」見える美しい女性たち)
・男性の魅力はビジネスに役立つマネー、ゴルフ、カルチャーなどの知識量に重きが置かれる(雑誌の表紙を飾るロールモデルの男性は、年齢が若く見えることや美男子であることは条件ではない)
という明らかなジェンダーギャップが、毎日目にするコンビニにおいてさえはっきりと示されているのです。
これはあくまでも一例ですが、私たちの「価値観」を左右するマスコミや文化的な規範の多くがそもそも歪んでいるということは、私たちが知っておくべきことだと思います。

ちなみに当然ながら、私は女性の価値を見た目の美しさや若さでは判断していません。
深い知性、気遣い、健康な心身、豊富な話題、金銭感覚、生きる上での逞しさなど、様々な側面から個々人の魅力を感じ取っています。
そして私の周りにいる方々は皆、それぞれ違った魅力に満ちていて眩しさを覚えます。
そしてその魅力の基準は、あたりまえですが男性と全く同じです。

他にも印象に残った項目としては、

①雇用の不安定のなかの男性の稼ぎ手役割意識 …男性側に「妻に家計を助けて欲しい」という意識の変化が生じている中でも、男性が一家の稼ぎ手という立場から「おりずに」「社会的成功」や「昇進」を目指さざるを得ない環境の過酷さ

②競争社会における親の子どもへの期待 …「男らしく女らしく」を期待されているのは女の子ではなく男の子。競争社会の中で「子ども(男の子)にちゃんとした人生を歩んでほしい」という期待。

などがありました。
①のように、一家の稼ぎ手は男性と捉えている母親が、②のように育てている男児を「競争社会でたくましく生き抜ける人間に」と育ててしまうのは、流れとしては全く無理のないことです。
逆に、金銭的な稼ぎ手を男性に求めながら、自身の息子だけは「嫁と共働きで、無理なく働けるように」というふうに育てたいというのもまた困難があるかもしれません。
子は親の言うことではなく、親のすることをよく見て、真似するのだと以前上野千鶴子教授がおっしゃっていましたが、それは当たり前のことです。
少し過激な表現かもしれませんが、親の生き方、夫婦のあり方を、経済的観念も含めて子どもはよく見ているのですよね。
だからこそ、私自身が、自らを振り返り反省すべきことばかりです。
これからも、子の生き方に少しでもポジティブな影響を与えていけるように、自らがフラットで差別のない視点を忘れずに生きていかなくてはと思います。

誤解なきよう述べるならば、誰が稼ぎ手になるかならないかは、善悪で判断することではなく、それぞれの家庭で効率の良いやり方を選択すれば良いと私は考えています。
ただ、その判断基準の中にジェンダーギャップがないのか。
そうした視点から、公正な思考を持つことは大切だと私は感じています。
経済状況などから、旧態然とした家父長制は破綻しつつある現代において、冷静にリスクヘッジできる立場でありたい、そう考えています。

そんなことを感じつつの、午前中のフォーラム。
とても有意義な時間でした。 ■ 松竹 梅子 ■ この事業は、「きんとう基金」から助成をうけ実施いたしました。