東京新聞に「本を楽しむ」というコラムがあります。著者が自著を語るコラムです。そこに新刊『上野千鶴子のサバイバル語録』について書いたのが以下のエッセイ。わたしは話コトバより書きコトバが好きな人間なので、インタビューのまとめではなく、自分で文章を書きました。
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武器になるコトバの数々(東京新聞2016年4月4日付け)
『上野千鶴子のサバイバル語録』(文藝春秋・1350円)
「口から先に生まれてきた」と言われてきた。学問という男の世界に入って、男ことばを学んで、相手の急所を突くことを覚えた。女の世界にあとから入って、女に母語がないことをつくづく哀しんだ。それでも男ことばと女ことばのバイリンガルとして、通訳を任じた。男社会のしくみのどこがどう問題なのか、男にわかるように伝えた。ああ言えばこう言うと、女が生き延びるための知恵を、女たちから学んだ。たくさんの本を書いた。いろんなところで話した。そうやってたまりにたまった発言のなかから、自分でもとっくに忘れていたコトバを、わたしの娘世代にあたる若い女性編集者が、選びぬいて合計140の語録が生まれた。産婆役は、文藝春秋社の衣川理花さん。かつての東大上野ゼミ生である。この本は、彼女の作品と言っていい。
それにしても自分が忘れたコトバを相手が覚えている...のは怖い。本書にはわたしが書いたことのないコトバがひとつだけ入っている。タレントの遙洋子さんが上野ゼミに通っていたとき、彼女が聞いたというせりふ、「相手にとどめを刺さず、もてあそびなさい」である。彼女の著書『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』(ちくま文庫)に入っている。ケンカを教えていたわけではない。記憶にないが、いかにもわたしが言いそうなせりふではある。
コトバは無力な者の武器になる。力で負けても、理で勝ち、義でまさる武器になりうる。だから無力な者たちはコトバを求めてきたのだ。
他人のコトバをまねぶことを恥じる必要は毫もない。わたしもわたしの先に生きた女たちからたくさんのコトバをもらってきたのだから。どんなに評判が悪かろうと、わたしが「フェミニスト」という看板を下ろさないのは、フェミニストを名のった女たちから、わたしが学んだ恩義を忘れないためだ。
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