移住連の方たちからのご意見にあらためて回答いたしましたので、その内容を、WANで公開いたします。

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稲葉奈々子さま 高谷幸さま 樋口直人さま

 2月22日付けメイルで、連名での意見書を受け取りました。
 熟読いたしました。研究の蓄積にもとづいてじゅんじゅんと説きおこしてくださる文面は説得力があり、専門家の力を感じました。「排外主義に陥らない現実主義の方へ」というタイトルにも好感を持ちました。

 I部「リプライ」の1について。わたしは人口問題についてはいくらか知見がありますが、移民問題についてはしろうとです。安部政権の人口政策、人口1億人規模の維持と希望出生率1.8がどのくらい根拠のない数字かは指摘できますが、その代わり「移民1千万人時代」がどのくらい現実性のないシナリオであるかも、ご指摘を受けてよくわかりました。人口現象はふくざつな要因連関の帰結であり、政治的に管理することはできないし、介入すべきでもないことを論じるにもいくつもの前提が必要ですが、同じように移民という現象についてもふくざつな要因があり、1国の政治的選択だけで容易に変わるものではないことも理解できました。ここまでに移民先進国における研究の蓄積があることも、教えていただきました。こういう複雑な議論を、「人口の自然増か社会増か?(出生率向上か移民増加か?)」という二者択一の議論に単純化した(のは保守派ですが)論調にのせられてしまったことは、うかつでしたし、反省すべき点だったことを教えられました。 その点でご指摘の1には、同意します。
 ご指摘の2にある「経路依存性」についてはまったく同感です。「これから」がフリーハンドであるとは思ってもいませんし、そう言ってもおりません。「これまで」の日本の移民の処遇をめぐる「経路依存性」があるからこそ、「これから」も日本が(他の移民先進国にくらべても)移民処遇について適切なふるまいをするとはとうてい思えない、という悲観的な「蓋然性」の予測については、むしろ経路依存性から説明できるのではないでしょうか。

  II部はわたしがブログで公表した論点に対する新しい「懸念」のご指摘でした。
 1は「福祉ショービニズム」について。あらゆる福祉国家が多少なりとも福祉ショービニズムを持っていることを現実に否定することはできません。が、それにも程度の差があります。日本の国民健康保険と国民年金はその名称どおり、成立当初「国民」を条件としましたが(後になって国籍条項は廃止されました)、介護保険は、成立の当初から加入者を「国民」に限定しませんでした。介護保険に国籍条項がなかったことをわたしは評価していますし、それは過去の闘争や改革の成果でした。とはいえ、「保険制度」が非加入者を対象としないことは制度設計上の制約条件です。その限界を伴いつつ、わたしたちは少なくとも1900年代に介護保険という再分配制度に合意形成をしてきたことになります。
 2の「新しい人種主義」との近似性のご指摘は、「結果として排外主義的な効果を持つ」ことへの懸念と受け取りました。「悲観的」な予測の持つ、政治的効果については、もっと慎重にならなければならないと肝に銘じます。
 3の「国民主権」の全能性は、ご指摘のとおり、あたかも日本政府が「全能的国民主権」を行使するかのようにふるまっているというこれも「経路依存性」を前提しています。難民の取り扱いひとつとってみても人権無視の処遇が継続しています。そしてわずかな改善も、それに抗議する当事者と支援者の闘いの結果にほかならないという事実認識は、全くそのとおりです。「全能的国民主権」を所与として見ることに、警告を与えておられると理解しました。とはいえ、みなさま方の努力にもかかわらず、この国家の態度を変更することがこれほど難しいことは残念ながら事実ですが。
 4のケアワーカーについては、誤解があります。日本のケア労働市場に日本人配偶者や在留許可を持った外国人(主として女性)労働者がすでに参入していることは承知しております。が、介護保険が要請する資格要件を満たした人たちだけが、同じ資格を持った日本人と同じ労働条件で働いており、この人たちに介護福祉士資格の受験条件を緩和せよといった議論は起きていません。ですがEPA協定で参入した外国人については、資格試験の合格率が低いことを予想して、帰国が予定されていた不合格者に「准介護福祉士」資格をつくるという脱け道を政府は用意しました。資格が細分化されれば、処遇も細分化され、序列化します。こういうかたちで介護現場の職位のハイラーキーが強化され、ただでさえ低賃金の介護職の下位に、さらに低賃金の「准」資格ができます(結局、これは実現しませんでした)。それだけでなく、介護保険下の準市場のもとで資格職として成り立っている現在の介護労働市場に加えて、保険外の家事・介護・育児の(無資格)自由労働市場が一定の規模で成り立てば、介護保険下にある(すでに問題だらけの)介護労働市場に、さらにネガティブな影響が及ぶであろうことは、想像に難くありません。違いは日本人か外国人かではなく、保険内労働市場か保険外労働市場かであり、新規に参入する外国人労働者が後者に参入する蓋然性は高いでしょう。

 もういちど最初の問いにもどりましょう。わたしが提示したのは日本の人口問題の将来でした。人口の自然増に現実性がなく、それを移民で補完しようとするのは姑息なだけでなくこちらにも現実性がないとなれば、結論は人口減少を受け入れるしかありません。そして人口減少社会で再分配を強化しようというのが「平等に貧しくなろう」という提言でした。この見通しについては、今でも考えは変わりません。

 移民に関しては精緻な議論をなさるみなさま方が、ジェンダーに関しては単純な一般化や極論をなさることにはいささか困惑しました。ご提言にあるとおり、「今ここにある現実の複雑さを引き受けた上で、ありうる選択肢を模索する」態度を、互いに持ち続けたいと願います。周到に用意してくださったご指摘に、多くを学ばせていただいたことに感謝します。