2017年3月20日、なごや人権啓発センターで主題の研究会が行われました。私は、NPO法人参画プラネット主催の【読書会あいち】のメンバーの一員ですが、その読書会の課外活動の一環としてこの研究会に参加させていただきました。
研究会は大阪府立大学教員の伊田久美子先生、法政大学教員の堅田香緒里先生のお二方からなる講義を中心に、ディスカッションの時間も設けられた構成となっており、テーマ「新自由主義の両義性と女性」について聴講者も主体的に参加しながら学べるよう工夫されていました。
私はテーマに関心はあるものの専門的な知識は持っていないため、講義の内容がどこまで理解できるか不安はありましたが、両先生の分かりやすい資料と噛み砕いた解説に助けられ非常に楽しく聴講する事が出来ました。
その中でも特に印象的な点、興味深かった点に付いて以下に述べます。
まず、伊田先生の「新自由主義とフェミニズム:女性主体の視点から」の講義についてですが、講義の中で先生は近代のフェミニズムの動きと新自由主義の流れに付いて時代的な背景を絡めながら現代に至るまでの過程を丁寧に解説してくださいました。
特に新自由主義の経済政策が労働者に対する無関心を促してきたという下りは、一人の労働者として働く自身の体感的な印象と相俟って、納得できるものとなりました。いつの間にか「労働者」という言葉が「人的資本」「人材」という言葉に置き換えられた現象に付いてはとても興味深く、「人」が「資材」として見られている、つまり労働者の顔が見えづらくなっているという点に於いて、現代の労働のあり方を再考するひとつのヒントになったように感じました。
また、ブラックな共働き世帯の増加や、貧困リスクを省みない離婚率の増加など、女性にとって選択の自由が広がっている一方で、それが必ずしも幸福感には繋がっていないという現象についても共感する点が多く、女性の自由が少なかった時代にも、また、自由を「勝ち取った」はずの現代に於いても、女性が生きやすい社会になっているかどうかについてははっきりしないと言う、複雑な社会状況を改めて感じさせられました。
堅田先生の「対貧困政策の新自由主義的再編とNPO —再生産領域に於ける「自立支援」の諸相」の講義では、対貧困政策と新自由主義の関係について分かりやすい具体例とともに解説していただきました。
生計費を直接支給するのではなく人的資本に投資するという考え方は、ケースによっては生活困窮者自らの自己肯定感を高める有益なやり方になる可能性があると個人的には感じていますが、本来個人の自由であるべき思想にまで国家が介入するあり方、「ふるまい」や「モラル」への焦点化の部分については、個人のライフスタイルやアイデンティティに行政が権限を持つ危険性、違和感を孕んでおり、果たして貧困者という存在を一人の人間として尊重しているのか、彼らを単なる「解決すべき問題」としてしか捉えていないのではないか、という疑問を持ちました。
また、貧困問題を個人の問題として帰結させ当事者の「自己責任」を問うよりも、それらを社会全体の問題、構造的な問題として捉える必要がある、という主張について、こうした視点は貧困問題のみならず、労働問題、女性に関わる問題、全てに共通化できる視点だと私は感じています。一人ひとりが抱える問題を個人的なものとして切り捨てるのは簡単な事ですが、その問題に至るまでの背景に少しでも目を向ければ、多くの人は目の前の問題は個人の資質の問題ではなく社会的な問題として捉えなければならない、ということに気づかされるでしょう。自分自身についても、目の前の善悪だけを問うのではなく、社会の構造全体に目を向けられるような視野を忘れずに行動していきたいと思います。
なお、ベーシックインカムの必要性については今後も様々な議論があるかと思いますが、私は「誰もが」「生きているだけで」認められる社会の実現の一環としてそのような給付があるというのも良い考え方だと思います。条件付きの承認ではなく、存在を丸ごと肯定できるような、人に対してそんな温かい視点を持った社会づくりを、今後も目指していきたいものです。
講義の後のフリーディスカッションでは、参加者全員が話す機会を得て、それぞれの自己紹介や質問事項、感想等を述べ合いました。
講師の先生がたのユーモア溢れる回答にも心温まり、参加している方々全ての意見を聞く事によって、様々な立場からの視点を知る事が出来たのは非常に有意義な体験でした。
最後に、講義全体を通じて学んだ多くの問題について、さらに理解を深めていけるように今後も学びの機会を持ちたいと思います。また、自分の生活や仕事の中で、学んだ事を活かしていきたいと感じています。学びと実践の繰り返しの中から、より良い社会づくりに向けたささやかなきっかけが生まれていく事を期待しています。
今回の研究会の参加のきっかけをいただいたNPO参画プラネットの皆様、講師の両先生および主催者の皆様に感謝を述べるともに、今後また様々な学びの場を通して皆様とお会いできることを願っています。
■ 森 智香子 ■

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