
慶應義塾大学出版会 (2004/12/1)
長い間、自衛隊研究にジェンダーの視点はなかった。日本のフェミニズムでも、軍隊ではない自衛隊の女性を論じることを警戒してきた。佐藤文香さんは、これまで日本の研究者がタブーとしてきた領域に踏み込んだひとである。そのすぐれた研究成果は、『軍事組織とジェンダー――自衛隊の女性たち』(慶応義塾大学出版会、2004年)である。
11年後の2015年、米国歴史学者メアリー・ルイーズ・ロバーツの労作『兵士とセックス 第二次世界大戦下のフランスで米兵は何をしたのか?』が、佐藤さんの翻訳で明石書店より出版された。
同書は、その4か月後に岩波書店から出版した『戦場の性――独ソ戦下のドイツ兵と女性たち』(姫岡とし子監訳)とともに、戦時性暴力を比較研究する上でかかせない本である。

明石書店 (2015/8/27)
『兵士とセックス』が翻訳されたのは、2013年5月に橋下徹大阪市長が「慰安婦制度ってのは必要だということは誰だってわかる」という持論を正当化するために、橋本市長が持ち出した本が『兵士とセックス』だったことに端を発する。
「優れた研究成果がこのような形で使われることに陰鬱な気持ち」(同書p343)を抱いた佐藤さんは、すぐ同書の翻訳にとりかかった。
佐藤さんは『兵士とセックス』を、心を込めて翻訳した。読者のひとたちが、性的搾取・暴力に苦しんだ人びとへの共感を育むこと、世界中で苦しむそうした人々を支えているさまざまな運動の輪に加わるように(同書p354)。
佐藤さんのこうした思いは、自衛隊の女性たちを研究テーマに選んだ思いと響き合う。その思いとは、「彼女たちを、切って捨てるのではない道を探りたい。「男になった女」として片づけるのでもなく、かといって、「フェミニズムの英雄(ヒロイン)」として言祝ぐのでもない道を探りたい」(『軍事組織とジェンダー』p6)。
11月11日(土)上智大学2号館401号室(13:30~17:00)のブックトーク、『こうして戦争は始まる――孫世代が出会う「銃後の女たち」』に佐藤さんが登壇する。
佐藤さんならではのお話、みなさま、どうぞお楽しみに!
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