山形県にご縁ができてうかがうこととなった米沢市。市の教育委員会の方に「ぜひこちらに」と案内されたのが最高級の米沢牛を送り出していることで知られる鈴木壽一さん、鈴木英行さん親子の農場だ。平成9年に全国肉用牛枝肉共励会で雌の部・最優秀賞を獲った。さらに国が認証をするGI(geographical indications=地理的表示)のブランド牛にもなったことから、全国に知られるという。
そして紹介いただいたのが英行さんの妻・純子さん。


最上級米沢牛は餌づくりから生まれる
 鈴木さん一家は、牛85頭を肥育。それに10ヘクタールの稲作を行う農業を営んでいる。いい牛を育てるには餌からということで、鈴木さん一家は稲作から生まれる稲藁を牛の餌にしている。つまり田んぼの大きさは、牛の頭数に比例をしているというわけだ。そして堆肥は、田に戻すという循環型の農業を営んでいる。
米沢牛は、子牛を購入し、それを32か月かけて育て出荷となる。最上の米沢牛を生むために、もっとも気をつかっているのが餌。餌は、たんぱく質を豊かにする濃厚飼料と、粗飼料(そしりょう)がある。濃厚飼料は、鈴木壽一さんが、その配分や内容を業者に指定しているとのこと。麦、トウモロコシ、米ぬかなどをブレンドしたもの。遺伝子組み換えでないものだ。そして粗飼料は、稲作から生まれた稲わらを使っている。食物繊維が豊富で口に入れて飲み込んではまた口に戻して反芻(はんすう)する牛にとって欠かせない食べ物だ。
10数か月の子牛を仕入れる。子牛が今は高くになっている。それというのも子牛を育てる農家が高齢化し、農家が激減。それにともない子牛の価格が80万から90万と高騰しているのである。育てて売ったとしても、いい牛で1頭130万円。それの消費税もかかる。採算ぎりぎりという。将来は、いずれ、自分たちで繁殖から飼育までをすることになるかもしれないとも。

牛の大切な餌となる稲の苗づくりから収穫までを手伝う
  純子さんは、家事はもちろん、田んぼの苗づくりから収穫までを手掛けている。
 「牛舎のことはおじいちゃん(壽一さん)と英行さんがやっています。濃厚飼料はね、鈴木ブレンドで、おじいちゃんが、自分で配合を指定してます。味見もしてますね。稲わらはね、秋になると結束機のついたコンバインで刈って、束になった稲がストンストンと出てくる。倒れたり、くぼんだところに落ちたりする。それを乾くように立てて並べていくんです。人力作戦。私と家族、隣近所の人にも頼んでやる。秋になると言わなくても近所のおじちゃんたちが集まってくる。これ11月までやります。藁は雪が降るまである。それを全部乾燥する」

 「肉牛は藁をちゃんと乾燥しないとダメなんです。肉質にかかわるから。早いと4日くらいで乾く。田んぼに毎日行って、みんなで見る。あれが乾いているとか、あれはまだだとか。倒れていたら立てて、台風がきたら、全部立て直しする。文化祭前までにするのが目標。長雨や台風があると遅くなる。いつも10月20日くらいまでかかる。藁はおじいちゃんが最終チェックして、『よしこれは牛が食べられる』となると、ベーラー(圧縮機)で回収して梱包して、トラックで積んで、牛舎の上にコンベヤーで載せる。牛の餌の1年分を作るんです。稲藁は、その年によって、多くとれたり、とれなかったりする。余分がでるとほかの農家に分けたり、うちが足りないと分けてもらったりするんです。協力しあう。で、稲刈りすると、私の一年間の仕事の大半が終わったようなもんで、もう脱力感で、なんにもしたくなくなる。デーンとしてる(笑)」

田植えが終わるとさくらんぼの直売所のお手伝い
 純子さんは、稲作の種まき、苗づくりも手伝う。育てている米は、つや姫、ひとめぼれ、美山錦、もち米、そして新品種の山形95号。稲づくりの種もみ消毒、育苗は、英行さんと純子さんの仕事だ。田植えは英行さんが行う。
 「苗づくりハウス3棟。育苗はほとんど私と主人がやります。とれた米は農協には特別栽培米沢牛堆堆肥使用のプレミアム米として販売されている。それと、米屋さん。何軒かの農家が集まって「リベラルファーム米沢」として、市役所の近くの富士屋商店にだしています。美山錦は、2軒の農家で酒米として酒井商店に出荷され「上長井」という日本酒として販売される。約3、000本ができる。その新種発表会が年1回行われ、それも私手伝うんです(笑)」

 富士屋商店は、古くからの米屋さんだが、米だけでは、購入する人が少なくなってしまった。量販店に客が流れてしまったからだ。そこで、お店を改装して、おにぎりや、お団子など出して、食べてもらえるスペースを作った。そして、鈴木さんたちの、特別栽培のお米をブランド米として販売もしている。ここで出たおにぎりの味わいが豊か。握らないようにして、ふんわりと包む感じのおにぎり。粒が引き立ち、お米の味わいと香りの個性を生かしたものだ。
 田植えが終わると、近所のさくらんぼの直売所で手伝いをする。「手伝ってって頼まれるんです。4週間あまり」。サクランボの仕分けをして、パックに詰める。
 「米沢の夏は意外に暑く、34,35度になると日中は動けなくなるので、5時におきて、掃除、洗濯、高校生のお弁当を作る。34、35度になると日中が動けない。9時から3時までサクランボの直売所のお手伝い。選別をする。家に帰ると掃除とか夕飯の支度になりますね。夫は、米沢牛出荷組合長、米沢牛振興部会副部会長といろいろ肩書がついて、ほとんど家にいない。忙しいですね」。
 彼女の生きがいは子供の成長と稲がうまく育つこと。


超多忙、けれど豊かな暮らしぶり
 純子さんは、米沢市の、農家の生まれ。三人兄妹の末っ子。英行さんと結婚したのは、1998年だった。英行さんは、当時、冬場の農村の仕事として板金の手伝いをしていたという。実直なところに惹かれたという。いまでは、子供が女の子3人。高校三年生、中学三年生、中学一年生のお母さんでもある。純子さんの生きがいは家族と子供たちだ。
 
「上の子と下の子とは、アルペンスキーをしているんです。12月後半から3月いっぱいある。平日もナイターがある。スキー場への送り迎えは夫がコーチなので、子供と一緒に行く。下の子が小学校の頃は、スキー場の場所が別で送迎が大変でした。夏は子供たちは陸上をしている。自転車で通っています。運動会は6月。家族で出かけます。やはりうれしいのは、子供の成長。去年は、子供が小学校、中学校、高校だったので、学校の3つの行事があるので大変だった。参観日、家庭訪問などと、なんでも3つある。学校の対応はほとんど私ですね。旦那は農業の現場第一。頼めば行ってくれるけど、学校のことは私がやっている。クラスの保護者会とかは、主人がやっている」。
 子供たちが運動熱心かと思うと、純子さんもママさんバレーをしているのだという。9人制。水曜日の夜8時から10時まで週一回。年2回、試合にもでている。

 家の会計を預かっているのも純子さんだ。
 「大変だったのが、家の会計。青色申告会に入っている。去年、多忙のあまり、一年間、ためてしまったことから年度末はたいへんなことになってしまった。ためないようにしないとと反省しています。忙しくて予定が組めない。体が3つほしい。稲刈りが終わって、ほんと、動けなくなった。更年期かと思ったんです。でもママさんバレーにはゆく。するとしゃんとする。バレーそろそろやめようかと思ったけど、やっぱり、続けようと」という純子さんだ。
 彼女の願いを聴くと「受験生が二人いるので、うまくいってほしい。稲刈りがうまくいってほしいということかなあ」と語る。全国に知られる米沢牛。その飼育には家族のチームワークが欠かせないのだということを知った。家族があって農業が営まれる。それを支える純子さんの姿があった。「うーん、農業好きですよ(笑)」その笑顔が飛び切りに素敵だった。


富士屋商店

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