本書を、日本のスーパーマーケット店舗という日常の労働現場を舞台にして、主婦パートタイマー、企業、労働組合、という、パートタイム労働市場の主な行為者が展開する行為戦略の内容と相互作用に関する、フェミニスト労働研究者による現場調査報告、といいたい。
近年、日本ではパートタイム労働市場が急速に拡大した。そのなかで、パートタイマーの熟練度の上昇や企業内での定着と並行して正社員との賃金格差が広がり、「職務と処遇の不均衡」が拡大している。つまり高熟練の労働力がより安く利用できるようになった。なぜ日本のパートタイム労働市場ではこのような矛盾した現象が安定的に再生産されるのか。筆者はこの質問への答えをジェンダーの視点から探るために、1999年から10年間、スーパーマーケット企業10社を対象に店舗調査と面接調査を行った。
研究課題と分析の視座、そして資料に関して紹介する序章と結論である終章を除くと、本書の本論は4つの章で構成される。 第1章では、この研究の対象であるスーパーマーケット産業を中心に、パートタイム労働の量的、質的な基幹労働力化の現状について分析すると同時に、それに影響を与える要因を明らかにする。また、7つの事例企業や店舗の現状を比較分析し、パートタイム労働者の基幹労働力化の類型化を図る。 第2章から第4章までは行為者の戦略的行為の具体的内容を考察する。これを通して行為者が置かれている家族および労働市場の状況が、行為者の戦略的行為にどのような影響を及ぼしているか、また、行為者の戦略的行為がどのようにパートタイム労働市場を再生産するかに関して分析した。パートタイマーは家族責任の専担者である主婦労働者であることを前提として、パートタイマーに仕事より家庭を優先するように保障する代わりに処遇は低くても良い、または仕方ない、という考え方に暗黙のうちにも同意した「主婦協定」に基づいて、行為戦略を展開する。しかし、主婦協定の限界によって、職場ではパートタイマーの非公式権力が成立し、企業側が労務管理制度を変更せざるを得なくなる最も重要な要因になる。
本書が誰かに、日常の労働現場における労働者の生の声、女性や社会的弱者のさまざまな形の抵抗、表面に出てこないひそかな抵抗に目を向けるきっかけになるであれば幸いである。
2018.03.18 Sun
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