***お知らせ***
フォーラム 労働・社会政策・ジェンダーでは、来る2018年4月7日に以下の会を企画しています。
詳細はこちらから。
「働き方改革をジェンダー視点で斬る~人間らしい働き方と生活( ディーセントワーク)は実現するのか?」
◆ 基調講演 大脇雅子弁護士「働き方改革関連法案を斬る~ 規制緩和の変遷をふりかえって」
◆ シンポジスト 田宮遊子(神戸学院大学准教授)「 シングルマザーと日本の雇用問題」
◆ 報告 働く女性の人権センター いこ☆る「女性労働者の現場から」
詳細はこちらから。
https://wan.or.jp/calendar/detail/4999
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2017年9月10日にドーンセンター(大阪府立男女共同参画・青少年センター)にて開催された、女性労働研究、労働経済学の第一人者、竹中恵美子先生の米寿記念シンポジウム「不平等と生きづらさ―人間らしく働けない社会に挑む」に参加しての感想を、遅くなりましたが書かせていただきたいと思います。

本シンポジウムは、タイトルにも示されているように、現在の日本の労働をとりまく「人間らしく働けない」状況について、これまで竹中先生が論じてこられた数々の内容を振り返り、皆で考える会となりました。会は、松野尾裕先生(愛媛大学教育学部教授)と、北明美先生(福井県立大学看護福祉学部教授)の報告および、会場からの話題提供とディスカッションという形で進められました。現在の日本の労働が、いかに、労働とは本来どうあるべきかをないがしろにし、労働者を差別し、企業の利益を優先し「続けて」きた結果のものであること、そして、早くからそのころを的確に分析してこられた竹中先生の理論に向き合うことが今いかに重要であるかをあらためて感じる機会となりました。ご報告は、竹中先生の長年のお仕事をまとめた『竹中恵美子著作集』(Ⅰ~Ⅶ)の内容をそれぞれ軸にされ、竹中先生の理論の重要な点を現代の視点で読み解かれた大変充実した内容であり、すべての感想は書ききれないので、印象に残った箇所のみ以下に述べさせていただきます。

「竹中理論の戦略:その歴史性と現代性」と題された松野尾先生の報告は、竹中先生が古くから述べ続けられてきた、家事労働と女性の低賃金を中心に、日本の労働市場の問題点と、家事労働の社会化という今後のあるべき戦略の確認についての内容でした。冒頭で述べられた話題ですが、膨大な量の『竹中恵美子著作集』のどの巻から読むのがよいか竹中先生ご自身に尋ねられた際、「時系列に」書かれていること、また「現実的な運動との関わりを含めた問題にも言及した」内容であることなどから、Ⅶ巻を挙げられたというエピソードが印象的でした。これは、これから『著作集』を読まれる方にも重要な情報にもなるのではと思います。竹中先生の理論が、早くからそれまでの労働市場論が、そもそも資本主義社会の労働市場が男女労働者の異なった扱いを前提としたものであること、その背景にある無償労働として家事労働に労働力の再生産を任せている構造を無視したものであることの指摘されていたこともさることながら、その歪な構造の解消にこそ労働組合が取り組むべきであると主張されていたことは、まさに今改めて認識すべきことであると感じました。また、松野尾先生の報告では、現代の女性労働のデータをも交えて進められましたが、重要な竹中先生の主張として、家事労働を生活時間の権利として位置付けるべきであり、だからこそそのためのコストは社会が負担すべき、すなわち家事の外部化、社会化が意味を持つということが挙げられていました。実際はそれどころか労働者の生活時間を軽視し、コスト削減のみに終始する現代の企業社会の生み出す、女性の低賃金や、非正規雇用問題など労働問題全般の根本にこのことがあると納得しました。

「竹中恵美子の同一価値労働同一賃金論とフェミニズム」と題された北先生の報告では、家族賃金、家事労働、といった竹中先生が取り組んでこられた主題から、同一価値労働同一賃金論、また、アンペイドワークとケアの問題が今日的課題として重要であることへの言及がなされました。ご報告では、理論的な展開の軸として2017年7月に『大原社会問題研究所雑誌』に書かれた「竹中恵美子著作集〈全7巻〉を読む」の内容を紹介されながら、これまでの竹中先生のご研究で、批判を受けた内容とそれへの竹中先生ご自身からの反論という形で進められ、より立体的に議論を受け止めることができました。竹中先生の理論の根本として、家父長制的な性別役割および女性労働者の差別的扱いは、人びとの意識の問題ではなくそもそも資本主義の特徴であることが、一貫していることがあらためて確認されました。また、そのことが、近年の「女性活躍」、不安定雇用、さらに低コストな賃労働である外国人労働力(特に女性)の問題にもつながるという、まさに予言のような展開が竹中理論ではなされていました。北先生のお話では、ケアの位置づけについて、竹中先生の述べる、「稼ぎ手」であると同時に「ケアラー」である生き方を可能にすることの重要性、「稼ぎ手」であることにのみ目を向け家族責任や生活時間を考慮した「フェミニスト時間政治」を根付かせることができなかった労働組合の問題点が挙げられていました。そのうえで、労働の権利、ケアも含めた家族責任の権利が自由に行き来できるフレキシビリティの実現が求められているということです。さらには、同一価値労働同一賃金の論理を進めるなどの方法で、家父長制を内包する資本主義の内在的論理を超え、労働力の女性化を可能とする新しい再生産システムの構築が必要になるとすでに竹中理論では示されていました。

その後のコメント、ディスカッションも含め、今回のシンポジウムでは、竹中先生の主張がいかに現在の労働、生活の問題を見据えていたかに加え、その重要なポイントとして、女性労働問題はいわゆる「特殊理論」ではなく、資本主義経済全体のしくみを考える際の重要なポイントとなること、その上で労働の構造の変革を訴えられていたことが再確認できました。

会では、竹中先生の米寿をお祝いし、先生を囲み参加者皆でお茶とお菓子を楽しみました。先生ご自身からのコメントでは、「戦前戦中戦後を経験してきた中で今の日本の状況に非常に危機感を持っている」述べておられたのが大変印象的でした。

あらためて、女性労働は周縁の問題ではなく、労働市場がいかに資本に有利にできているか、変革すべき構造であるかを考えるための重要な切り口であること、無償労働、家事労働、ケア、賃金の節約、社会コストの節約、男性の労働者への補償は女性の使い捨ての表裏一体の事社会を考える上で、竹中先生の理論は、これまでもこれからも大きな意義を持ち続けると感じました(N・A)。