WANシンポジウム2018@よこはま・プレ企画として、2018年2月19日、
基調講演の講師―又木京子さん(社会福祉法人藤雪会理事長)のお話しを伺いに、
上野千鶴子さんはじめとするWANの仲間9人が、厚木市へと向かいました。

最後に訪れたケアセンターあさひで、参加者全員で座談会した様子です。
Part4の記事で紹介した制度の課題にも切り込んだ会話が繰り広げられ、大変刺激的な時間でした。

<設立経緯>
又木さん:藤雪会を立ち上げた経緯は、25年前に「働く女性を支援する施設をつくってほしい」と厚木駅前の一等地の土地をご寄付頂いた事がきっかけ。 しかし当時、子育てや介護は義務として女性に課せられてていたため、働ける女性は少なく保育園は余っていて、デイサービスも公設のものが1か所あるだけでした。働く女性を支援する施設を作りたいと行政に言ってもニーズがないと言われ相手にされなかった。 その時、ちょうど市議をやっていてその年の選挙で当選したこともあり、なんとか在宅支援のための社会福祉法人を設立することができた。 政治利権と非難されることもありましたが、利権でも、個人が喜ぶことか、市民が喜ぶことかで意味は違うと思う。

又木さん:施設を建てるために多額の借金をしたが、福祉医療機構(助成財団)や行政の補助などの支援を頂いて、初年度は55万円の返済でよかった。
でもその55万円すら返せなかった時、職員グループができ給与の15%をプールした。その寄付で初年度を乗り切った。
その後もこのプールは続き、次の施設の資金にしている。
今も「きりん」や「こんぺいとう」という希望者のみ加入する職員グループがあり、月々の給与から300円や700円を寄付している。

職員グループの活動はこちら↓
http://www.tosetsukai.com/shokuin.php

<ワーカーズコレクティブ>
上野さん:自分たちの労働条件を下げる事に同意するような事が実際に実現されているのが信じがたいのですが、
ワーカーズコレクティブ(※1)な精神はどうやって浸透しているのですか?
(※1) 働く者同士が共同で出資して、それぞれが事業主として対等に働く協同組合

又木さん:夜勤の人の時給を上げる必要が出たとき、まず最初に施設長などのトップ数人が自己申告で給与を下げた。
リーダーが率先してやることで広がっているのではないか。
また、きりんなどの職員グループでプールしているお金は、話し合いの元で、新たな施設づくりや突然生活に余裕がなくなった職員に使われている。
実際にちゃんとお金を集めて形にしていることで、職員同士の連携が太くなっているし、そうゆうものという文化ができていると思う。
おかげで、社会福祉法人の寄付控除制度ができたとき、わりとすぐに税額控除対象法人(※2)になることができた。
(※2) 税額控除対象法人になるには3,000円以上の寄付者が年100人必要

<人材不足>
上野さん:藤雪会の施設では職員の配置がゆとりのある形で行われていますが、人は集まりますか?

又木さん:福祉施設は日本を代表するような大企業が相次いで参入していて、大量に豪華な採用活動をしているためとてもかなわない。
うちも採用には苦労しているが、既に働いている職員の紹介での採用が一番多い
紹介した職員には報奨金を出すことにしている。
それと、出戻りも多い。
単純な条件で他の施設に転職した職員が、やはり配置のキツさや雰囲気の余裕のなさなどに限界を感じて戻ってくる。
例えば、特養だと基準配置は利用者3人に職員1人だが、
昼間だけのデイサービスならともかく24時間体制の特養だと同じレベルの配置のためには実質1:1が必要になる。
基準通り3:1では実際は1人で9人見ることになりキツすぎる。
ポポロでは19人の利用者に18人の職員、夜勤は8人でゆとりのある配置で対応している。

また、ユニバーサル就労も積極的に取り組んでいる。
精神障害の人が最初はボランティアからアルバイト、社員というように段階的に雇用形態を変えて働けるようにしている。
こうゆうことを受け入れられるのも配置の余裕があるからこそだと思う。

<看取り>
上野さん:藤雪会では看取りもされていますよね? どのようにしているのですか?

又木さん:対応可能な病院と連携しながらやっている。救急車を呼ばないなど、家族の意向を考慮した形で対応している。
グループホームと小規模は看取り加算があるが、有料老人ホームは加算がなく大変だが、地域にとって必要な事なのでやっている。
数は増えていて、今年に入ってすでに10回はあった。
昔は元気な方も施設に入る事があったが。今はほとんどが在宅なので施設に入るのは本当に重度の方。
やはり在宅になると食事が悪くなる人が多く、それが原因で入院してそこからこちらに来る方が多い。
藤雪会はもともと生協から派生していることもあり、食材へのこだわりが強いスタッフが多く、とにかく食事が美味しい。
入院している人が早くこっちに来たいと言われることも多い。
訪問で胃ろうなどの医療介護などもやっているが、最近はびっくりするような重度の方が一人暮らしをしているケースが増えている。

上野さん:やはり最後は施設に入るべきだと思われますか?

又木さん:トイレがまったくできなくなると難しいが、そこそこできるうちは配食訪問介護でなんとかなる。
いろいろなサービスがあるので意向に合わせて選ぶので良いと思う。

感想
又木さんのような方がパイオニアとして開拓してくださったからこそ、
育児や介護があっても女性が働き続けられる社会に近づいてきているのだなと感謝の気持ちになりました。
そして、又木さんはエネルギッシュで求心力のある、やはり凄い方でした。
もし江戸時代に生まれていたとしても、地域の変革者として社会を変えていたのではないかと思います。
施設設立のための多額の資金調達ができたのもそのお人柄があってこそではないでしょうか。

また福祉施設については、大規模効率化の流れで設備の整った大企業系列の施設が増えていく傾向は止められないでしょうが、
一方で、地域密着型でご飯のおいしい藤雪会のような施設も健在し、
自分にあったものを選択できるような未来が良いなと思いました。 価値観が変化してきている今、
設備の豪華さよりも人との繋がりといったものに価値を感じる方は増えていくのではないかと思います。
そして、こういう地域密着型の施設にこそ、職員がより直接的な支援に専念できるためのテクノロジーの活用が進んでほしいと思います。
そのような設備投資がちゃんと支援されるようになっていかないといけないと思いました。

そして最後に、私もそうですが、そんなに長生きできなくてよいから、
できるだけ自由でいたい人には、極力(できれば最後まで)家で過ごせるのがやっぱり理想です。
トイレさえできればという話がありましたが、
様々な技術やサービスを駆使しまくってトイレだけは最後まで一人でできるようにならないものかと節に思いました。

■ WANボランティア 吉野 ■

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移動サービスNPOキャリージョイ車中にて
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★ご案内#1★今年も会いたい!
https://wan.or.jp/article/show/7683
★ご案内#2★チラシができました!
https://wan.or.jp/article/show/7777
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