第36回 上野ゼミ
「引き揚げ・追放をどう伝えるかードイツ人女性の戦後史」 Fuchs Mariko
仲井則子
戦争は、終わっていない。
なぜなら、今も心と体に傷跡を残し、苦しんでいる人がいる。口を閉ざし語ることもできない人がいる。
「引き揚げ・追放をどう伝えるか」
ドイツ人女性の戦後史は、遠い星の話ではない。
ここからは離れてはいるけれど、今、この時を共有している女性たちの話だった。

追放女性同盟プロジェクトのアンケートにより、沈黙を破る女性達がいた。忘れてしまいたいほどのことなのにアンケートやインタヴューに応じてくれたのである。
語ることで、解放されたという人もいた。しかし、その動機は未来のためだった。戦争は決して起こしてはいけない。私たちと未来の子どもたちのために。

避難中の家族の喪失・別離、度重なる強姦被害、餓死、凍死、過酷さが伝わってくる。
強制労働、収容所では、食料不足、厳しい寒さ、劣悪な衛生環境の中での建築・運搬・鉱山・伐採など、休日なしの肉体労働。
強制…。声も出せず、体も見えない鎖につながれている状態。
傷つけ合い、思考も体も命も何もかも全てが奪われ奪い合う。戦争。
しかし、ドイツでは、過去を無かったことにするのではなく、未来につなげようとしている。
それは、教育。
自分が思ったこと、考えたこと、意見を述べ合うことを、小さい時から練習するそうだ。
議論の方法を学ぶのではなく、本当に議論する。印象的だったのは、民主主義かどうか、弱い立場の人たちに対して包含しているかということを確かめ合いながら、その姿勢を大切にしながら議論するということだ。
近隣国との共同作業も大切にしている。
戦争のない未来を、積極的につくろうとしている。
戦争は、人が起こすもの。ならば、起こさないことが出来るはずだ。

どんなに悲惨で、どんなにつらく苦しい体験だったか…。
アンケートに答え、インタビューに答えてくれた女性たちを、同じ女性として心より尊敬します。

人は忘れてしまう。
戦争を起こさないために、私はこれから何度でも、語られたことを思い出さなければならない。