解説を目当てに買う本がある。
巻末のそのページが待ちきれなくて、本編より先に読んでしまうこともある。
それほどに、誰かの「読み」を読むことはたのしい。
作品への手放しの賛辞、読後のひそやかな興奮、著者と気のおけない仲ならば、多少の毒気。
気持ちのこもった解説は、本編を背後から輝かせる。
アンヌ・ヴィアゼムスキー『彼女のひたむきな12か月』は、
まさにそんな解説あっての一冊だと思う。
ゴダールの二番目の妻、モーリアックの孫、ブレッソンに見出された女優。
この本は、これら堂々たるプロフィールで語られることの多い「彼女」が、
ゴダールと出会い、生活をともにした19歳の一年を綴ったエッセイである。
であれば、解説は名うてのゴダーディアンか仏文学者と思いきや、
抜擢されたのは作家・山内マリコ。
映画ファンで、パリジェンヌを愛するマリコのこと、
テンション高めの絶讃を予想していたら、
それはゴダールへのこんなコメントで気持ちよく裏切られた。
ー感じるのは、自分より子供を相手に
恋愛し支配しようとする、愚かな年上男への強い軽蔑だ。
情熱的にアンヌへの愛を語ったかと思うと、
その彼女の目の前で警官や看護師に暴力的に喰ってかかるゴダール。
天才シネアストのそんな言動を指して、マリコは「完全にちょっとヤバい人だ」と一刀両断する。

「これって…?」と、多くの読者が抱いたであろう違和感を、キレのよい言葉ですくい取ってくれたことへの快感。
すっきりした後で本編を読み返すと、当事者である著者の、感情を抑えた冷静な筆致がより際立って感じられるのだ。
しかしそんなアンヌも、ゴダールをして
「天才だけど、結局はculture のない人だったわねえ」と語って逝った*1。
「彼女」たち二人の辛口な対談がいつか実現したらと思っていたが、それはもうかなわない。
カンヌ映画祭に #MeToo が揺さぶりをかけた今、あたらしい文脈で読まれるべき一冊だ。
*1: webふらんす「追悼 アンヌ・ヴィアゼムスキー」四方田犬彦 2017.11.23より
https://webfrance.hakusuisha.co.jp/posts/216

※この本の続編『それからの彼女』(Un an après)は2018年6月刊行予定、
解説は真魚八重子さん。
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筆/北村 咲
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