ジェンダー研究を継承する (一橋大学大学院社会学研究科先端課題研究叢書)

人文書院( 2017-09-30 )

「わたしの経験」において、
生きづらさから行き詰まり、やるせなさから怒りとして、
その経験をことばに表し、世の中に問いを投げかける。
そのとき初めて、私に向けて、
それらを解き明かす手がかりが発信されていることに気づき、
道標となる本や人に出会ったことはないだろうか。
思いを仕舞い切れず、漏れ溢れ出る声を
心の底から発したときに引き寄せる知を、
人はむさぼるように学ぶと感じる。
人が紡んできた時代とともに、
先人たちは、あらたな学問を創出し、
必要とする人々とともに切り拓き、
試行錯誤を繰り返しながら、
より大きなうねりと変え、後続世代へと受け継いでいく。

印象に残った上野さんのことばがある。

『学部生は後でどんな分野に行くか分からないので、
メタ知識を教えようと思った。
社会学とか学問そのものよりも、知識を生み出す知恵。
「モノをたくさん知ってることに意味があるんじゃない。
あなたたちは情報の消費者じゃなくて、
情報の生産者になりなさい」、
「どんな未熟な情報でもいいから、
オリジナルな情報の生産者になりなさい」と。
そして「情報の生産者になるってことは、
相手に伝わって何ぼだから、
最後のプレゼンまで、人に伝える能力まで
身に着けなさい」と言ってきました。』
(本文p.103)

これは、東大で教授をされていた当時、
学部生の関わり方を質問された回答。

当事者の「わたし」を取り巻く社会は、
ことば、あるいはあらゆる表現方法を用意、準備している。
相手に伝えながら、ときに闘って勝ち取らなければならないこともある。
人それぞれ固有の違和感、悲しみ、怒りの思いを表現したとき、
つながりに遭遇する。あなたが手繰り寄せた現実が始まる。
■ 堀 紀美子 ■