この本に、このタイミングで出合えてよかった、と思える瞬間がある。
このページ、この数行に書き綴られているテクストを、
いまの自分に重ね合わせ、立ち止まり、思考に集中するとき、
過去を顧み、胸の奥の記憶をさぐり、懐かしんだり悔んだり、
視線を先に変えて、未来の自分からいまを俯瞰したり。
そんな時をプレゼントしてくれる。
もちろん、それらはみんな、「あなたの人生を進みなさい」という
ひとり一人に贈られるメッセージ。
だれのものでも、だれのせいでもない、あなたの人生への贈りものなのだ。
島崎今日子さんが描く16人の女たちの肖像。
個性豊かな〈わたし〉たちが島崎さんをとおしたキャンパスにひろがる。
この本を作る作業が始まった頃に東日本大震災が起こり、
いったんは、取り止めようかと思われたそうだ。
『だが、編集者に背中を押されて原稿を読み直してみると、
なぜ私が彼女たちを書きたかったのか、取材時の思い入れが蘇ってきて、
再び「対象」に夢中になった。なんて大した女たちだろう。
それぞれの人生は当然のごとく違っていても、
踏み越えてきた障害や抱える悩みや葛藤は相似形である。
私が書いたのはたまたまであって、そこにこだわるべきではない、
むしろこの人たちの姿を知らせなくてどうするのだと素直に思えたのである。』
(あとがきp.250)
島崎さんが描写する上野さん、日本一ケンカが強い学者。
ご本人の愛くるしい笑顔のポートレート入り。
「もちろん、フェミニストの看板はこれからも降ろしません。
それは主義主張というよりも、自分の思想を作るのは他人の言葉だから。
フェミニズムを作ってきた女たちの言葉が私の思想を支えている。
だから、私は彼女たちに借りがある。
借りがあるから返さなきゃいけないと思っているのよ。」
(本文p.143)

いつもどんなときも愛すべき自分を、足元から照らすたくさんの人との出会いや別れ。
それらを繰り返しながら、他人に支えられながら、私を形づくっている。
なにが嬉しくて楽しくて、どんなことが辛くて悲しいかを、ひたすらに感じながら、
こころ模様を映し出すキャンパスは、
いつでもあなた次第、描き替え自由に準備されている。
■ 堀 紀美子 ■
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