
外国人記者クラブの会見
1.
日本は世界のGDP(国内総生産)ランキングはアメリカ(1位)、中国(2位)に次ぐ3位の経済大国である(https://www.globalnote.jp/post-1409.html。)しかし世界経済フォーラムの「The Global Gender Gap Report 2018」によれば各国における男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数(以下「GGI」)について日本の総合スコアは0.662、順位は149か国中110位でありOECD諸国で最低レベルである。GGIは、経済、教育、健康、政治の4つの各分野から構成されるが、教育分野において日本は65位である。
注目すべきは日本の女性は識字率第1位、初等教育就学率1位、中等教育就学率1位であるが、大学・大学院レベルの高等教育就学率となると一気に103位に転落する点である。
シカゴ大学の山口一男教授(社会統計学)の調査によれば、米英韓の有名大学における男女学生比率(男性:女性)は、ハーバード大学(男性51:女性49)、イエール大学(51:49)、スタンフォード大学(52:48)、MIT(56:44)、ケンブリッジ大学(51:49)、オックスフォード大学(53:47)、ソウル大学(60:40)といった世界トップレベルの大学でいずれもほぼ半数である。理工系の大学であるMITでさえ学生の44%は女性である。一方、日本の有名大学である東京大学(81:19)、京都大学(80:20)、一橋大学(73:27)、東京工業大学(89:11)、早稲田大学(68:32)、慶応大学(68:32)と女子学生の比率は男性の20~30%の割合に止まるという結果が明らかになっている。
客観的なデータから大学等の高等教育課程で何らかの性差別的な対応ないし作用が働いているであろうことは容易に想像できる。少なくとも、大学入試において性差別的な得点調整をおこなっているのは、今般、文部科学省の調査(「医学部医学科の入学者選抜における公正確保等に係る緊急調査・最終まとめ」)で名指しされた東京医科大学や順天堂大学、昭和大学、聖マリアンナ医科大学、北里大学など少数の大学の特殊かつ例外的事例とは言えないであろう。
東京医科大学の性差別的な不正得点調査が明らかになった直後に文部科学省が実施した「医学部医学科の入学者選抜における公正確保等に係る緊急調査」(平成30年9月4日付)、の最終まとめによると「各年度の入学者選抜における合格率(合格者数/受験者数)について、男性が女性より大きい大学数及び割合」は平成30年度入試については81大学中57大学(70.37%)、平成29年度については81大学中46大学(56.79%)、平成28年度については80大学中57大学(71.25%)である。この中には東京大学や京都大学などの国立大学や今般、名前の挙がらなかった複数の有名大学が含まれている。
男女の合格率に不自然な差があるにもかかわらず、多くの大学は調査や原因の検討さえ行っていない。東京医科大学をスケープゴートにすることにより、多くの大学、文部科学省は一次的に盛り上がる社会の批判の嵐が過ぎ去るのをほっかむりして待っているだけなのだろう。
2.
日本は法治国家である。男女差別や男女間の暴力を禁止する法律の数も多い。
憲法14条1項は性別による差別を禁止し、教育基本法4条は「すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない」と定める。日本が批准している女性差別撤廃条約2条fは「女子に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し又は廃止するためのすべての適当な措置(立法を含む)をとること。」と規定し、10条b(教育の分野において、女子に対する差別を撤廃するために取るべきすべての適当な措置の一つとして)「同一の教育課程、同一の試験、同一の水準の資格を有する教育職員並びに同一の質の学校施設及び設備を享受する機会」を与えることを規定している。さらに、女性の医師が圧倒的に少ない現状(2016年度21.1%)を改めるため、男女共同参画基本法・第4次男女共同参画基本計画のもとで理系女子学生の育成推進の取組などが進められている。
これら多くの法律や施策にかかわらず、唖然とするような性差別が高等専門教育機関で長年にわたり漫然と行われてきた。歴然とした性差別が暴露されると「女性の医師は出産・育児でやめてしまう。夜勤や長時間労働といった医療現場に対応できない」とあたかも差別される「女性」の側に原因があるかのような言い方で正当化しようとする。
3.
私は、こうした差別を平然と正当化しようとする思考回路や正当化することができる社会の背景や原因がどこにあるのかを大分長い間、考えている。その一つの原因として、日本社会は欧米の社会に比べ「法の支配」の原則の意識が決定的にかけているのではないか、ということである。法律は建前であり、現実は法律どおりに行かないことが許される「雰囲気」がある。特に差別や暴力については極めて寛大であり、ジェンダー平等の意識の欠如の問題は高等教育機関はもとより政治や司法、メディアをはじめ日本社会全体の問題である。
差別や暴力は基本的人権の侵害であり、法律を通じて、被害者が実効的に救済され、加害者が実効的な責任を負担する必要がある。しかし、教育基本法は「性別によって差別されない権利」を明記するものの差別をしたことに対し、一切のペナルティーを科していない。
例えば、アメリカは連邦法で雇用における包括的差別禁止規定を定めているが、法の実効性を確保するための手段としては、行政機関である雇用機会均等委員会(EEOC)に苦情申立をすることができ、EEOCが調査、あっせんするのみならず、直接、加害者に対して訴訟提起する権限を有している。少数の原告が同様の差別を受けている多数を代表し、その判決の効力が原告以外にもおよぶ集団的訴訟制度(クラスアクション制度)もある。これらの制度は、差別された被害者本人が経済的・時間的・手続的な負担を負うことなく法的権利を行使できる制度である。
さらにアメリカには懲罰的損害賠償制度があり、差別に対して高額の制裁金が課される。差別をしたことによる経済的・社会的なダメージの大きさが差別の抑止力となっているとも言える。コーネル大学のAlexander Colvin教授による全米の労働事件の賠償金認定水準に関する調査によれば、州裁判所約32万8000ドル(1ドル100円として3280万円、連邦裁判所約14万3500ドル(1ドル100円として1435万円)とのことだ。これは日本の裁判所における解決金水準より相当に高い。
https://digitalcommons.ilr.cornell.edu/articles/577/
一方、日本においても雇用の分野においては男女雇用機会均等法等により労働局雇用環境均等部に相談したり、雇用環境均等部が調査やあっせん、是正指導をする機能がある。今後、入試等で差別を受けた受験生の被害回復や差別を行った大学、教育機関への指導是正措置として、教育の分野においても同様の制度の導入の検討が必要であろう。
今回の訴訟で差別的な入学試験の受験を強いられたことへの慰謝料として200万円を請求した。しかし、主に海外のメディアや学者らから「差別」の慰謝料として低額ではないか、という指摘を複数、受けた。日本の司法は明らかな男女差を合理的な取り扱いの差異として「差別」を認めず、仮に認めても極めて低額の慰謝料しか認めない傾向が強い。今回の東京医科大学の裁判においては、日本の司法におけるジェンダー平等の意識も注目すべき点である。
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6月22日(土)には,シカゴ大学教授・山口一男さん、憲法学者・辻村みよ子さん、医師・吉野一枝さんをパネリストにお迎えしてシンポジウムを開催する予定です。こちらも,ぜひ足をお運びいただければと思います。詳細はこちらをご参照下さい。https://peatix.com/event/655909/view?k=7be45db4cdd1c93748f855be76d3f0b026355ab1
関連イベント:「 公開シンポジウム「横行する選考・採用における性差別統計からみる間接差別の実態と課題」
http://www.scj.go.jp/ja/event/pdf2/273-s-1-2.pdf
主 催:第一部社会学委員会ジェンダー研究分科会
日 時:平成31年6月8日(土)13:30〜17:00
場 所: 日本学術会議講堂
参加無料、申し込み不要
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