「婦人画報」「dantyu」「クロワッサン」「料理王国」「ミセス」「一個人」など、雑誌の金沢の食特集となると、必ずと言っていいほど記事のクレジットに名前があるのが、つぐま・たかこさん。
 彼女は金沢ではよく知られた存在。ライターだけではなく、加賀野菜のプロモーションを始め、農家のブランディングのアドバイス、農家・レストラン・消費者をつなぐコーディネーターとして活動をする。地元テレビのコメンテーターとしてもレギュラー出演をしている。
 彼女のFacebook(https://www.facebook.com/takako.tsuguma)には、毎日、なんらかの食が登場する。自称「食いしん坊を仕事にした女」。


◆ライターズネットワーク大賞特別賞「地方を盛り上げたで賞」受賞
 フリーライター、エディター、カメラマン、イラストレーターなどクリエーターの集まりライターズネットワーク(http://www.writers-net.com/)。2018年6月9日、総会と受賞式が東京・駒場にある東京大学に隣接した日本近代文学館内喫茶室文壇カフェで開催された。そのなかで特別賞【地方を盛り上げたで賞】を受賞したのが、つぐま・たかこさんだった。  

 ライターズネットワークでは、毎年、参加メンバーの表彰式を行っている。一年間の仕事を通して功績のあったメンバーに賞を贈るというもの。「身内を身内が褒めなければだれが褒める」と提唱をして始まったもの。
 つぐまさんは、満面の笑みをうかべた。この日、和服で金沢から駆け付けた。
 「ちょうど金沢にきて20年。その節目に受賞を受けて嬉しい。見てくれている人は見てるんですね」と挨拶をした。そのあと、金沢の仲間から、多くの祝福のメッセージが寄せられた。

 ちなみに、ほかの受賞メンバーは大賞受賞者【大賞】に棚沢永子さん。『東京の森のカフェ』(書肆侃侃房=しょしかんかんぼう刊)の著作に対して。特別賞受賞は【社会に働きかけたで賞】「全日本おっぱいサミット」実行委員会の光畑由佳さん、竹中恭子さん、ちかぞうさん。それと年間に3冊の本を出版した【次々によく出したで賞】松鳥むうさん。受賞者のすべてが女性だった。

◆農家の人柄、作物の良さを見つけて、消費者につなぐ
「雑誌の記事を書く仕事、特産品の開発。現地に行って話を聞いて、アドバイスをしてプロデュースをする。地域の、例えば加賀野菜の食材のブランディングをお手伝いする。野菜ソムリエとして一般の方に野菜の食べ方の話をするということをしています。
 今、力を入れているのが、農家の方のブランディング。売り方が下手な人が多い。あなたの作っているものの良さはなんで、どんなところに売っていって、どういうふうに消費者に伝え、どうやったら売れるのか、ということを一緒に考えることをしています。何屋さんかわからないけど、地元の食を掘り下げ、発信をするというのが仕事ですかね。」

 彼女は兵庫県出身。1964年生まれ。もともとは編集者。大阪の㈱リクルートで就職情報誌の制作・編集をしていた。仕事は多忙を極めたが、学ぶことも多かった。

「取材や編集についてはもちろん、誰に何を伝えるのか、マーケティングの基礎をたたき込まれたと思います。」

 独立するために退職したとき、たまたま誘わたれたのが食べ物に強い編集プロダクションだった。憧れていた食の雑誌から記事の依頼が来るようになり、食のライターとして先が見え始めた頃、夫の転勤で金沢へ行くこととなる。1998年のことだ。
 ちなみにご主人は、コンピューターシステムの営業マン。一緒に金沢には来たものの、友達もいない、仕事もないということとなった。そこで地元の情報誌の営業へ行き自ら売り込みをした。

「誰も私のこと売ってくれませんから(笑)。そこから少しずつ仕事を始めました。」

 レストランの取材をしているうちに、「よく食べているみたいだから、メニューのことアドバイスしてあげて」「料理上手そうだからちょっと撮影のとき手伝ってちょうだい」と、雑誌や広告代理店から声がかかるようになった。そこから仕事の幅が拡がっていった。そのうちにつぐまさんの食に関する軸足は農業へと移っていった。

「2005年野菜ソムリエの資格を取得しました。野菜のことを改めて勉強したいと思ったからなんです。」

 次第にそこから仕事は食をキーワードにさまざまに広がる。県や市の事業にも関わるようになり、金沢市からの依頼で伝統野菜の加賀野菜に関する冊子やウェブ情報の編纂・執筆にも携わってきた。

  ◆加賀野菜の生みの親でもある、松下種苗店会長・松下良氏の著書「加賀野菜 それぞれの物語」の10年後を追った
   「新版 加賀野菜 それぞれの物語」の編集・執筆。
   https://www4.city.kanazawa.lg.jp/17051/kagayasai_book/shinban.html
  ◆加賀野菜の篤農家の話をまとめた冊子「産地からのストーリー」の取材・執筆。
   http://www.kanazawa-kagayasai.com/kagayasai/interview_menu.php

「加賀野菜を使った若い人向けのレシピ冊子の制作、全国伝統野菜サミットの進行というものでした。篤農家(トクノウカ)のノウハウを形として残したいというのでそれを記録したり、東京にある金沢のアンテナショップで、農家とのトークショーも行いました。
 加賀市には、坂網鴨という江戸時代からの伝統の猟がある。残さないといけない。東京の富裕層に食べに来てもらいたいというので、そのために毎年、冬にイベントを行っています。鴨料理を出すのは2軒。隔年交替で使われています。
 東京のメディアに声をかけ、取材にきてもらいたいが、広告を出す予算がない、つてもない。というので、私が企画書を作り仲介をしました。平松洋子さんにも来ていただきました。
 また東京のフレンチレストラン『Narisawa(ナリサワ)』で食事会を開催したり、地元でも、鴨料理を出す2軒が、この日だけの特別コースを用意し、普段は見ることのできない猟を見学する食事会を開催しています。
 能登の農家民泊での朝ご飯を開発したいと県から言われ、そのときは、シンポジウムのファシリテーターをしました。このときは向笠千恵子さんが講演されました。」

東京での野菜農家とのトークショー(右端・つぐまさん)


◆畑を開放しシェフを呼ぶ「青空レストラン」を開催
 個人的に声をかけられたものも手掛ける。今、力を入れている一つに加賀野菜の伝統野菜「ヘタ紫なす」の応援がある。名前のとおりヘタの下から紫になる卵型の小ぶりの可愛らしいナス。

「ヘタ紫なすを作っているのは3名しかいない。一人は20代の女の子が、あとのふたりは高齢者。20代の彼女はおじいちゃんが亡くなり、よし、と、3年前に後を継いだ。
 これまでのヘタ紫なすは、昔からお漬物に使われている小さいナス。ところが今は若い人でお漬物を作る人がほとんどいない。食卓にあがるのさえ稀になっている。『伝統を守りたい』と彼女は言う。では食べ方をいろいろ考えたらという話をしました。」

 つぐまさんと若いヘタ紫なすの生産者が挑んだプランは『青空レストラン』。ヘタ紫なすの畑を開放して、そこで畑のナスの様子をみてもらい、食べてもらい情報を発信して、広く知ってもらうというもの。

「金沢でいちばん若くて活きのいいシェフがいるので、彼に声をかけて来てもらったんです。ワインもあってソムリエもサービスの人もいる。」

 畑のレストランは形になった。会費は1万円。ネットワークを駆使し、食のアンテナの高い人たちに声を掛け、20名が集まった。コンセプトを明確にすると意識の高い人やメディア関係者が集まる。具体的に畑から知ってもらい、そこから彼らを通して情報が発信される。会費のほとんどはシェフの人件費や材料費にあてられる。

「『青空レストラン』をすると、キッチンカーを貸しましょうという社長さんが現れたり、仮設トイレを提供しますという建築会社の社長さんが協力してくださっています。」

 そこからメディアに売り込んだり、販路の開拓で、規格外のものを活用できる方法のひとつとして、ピクルスに使ってもらえないかピクルスの会社に売り込みにいったりということを一緒に手掛けるようになった。

畑のなかのレストランを手掛けるつぐまさん(右端)

 
 またトレビスを栽培している農家からも相談を受けた。トレビスはチコリの仲間。イタリアではラディッキオと呼ばれる。紫キャベツに似ているがまったくの別もの。金沢にはトレビスを栽培する農家が10名いる。つぐまさんは、金沢農業大学校の運営委員にもなっていたことから農家から声がかかった。

トレビスの会で、農家(左)とシェフ(中央)を紹介するつぐまさん(右端)


「夫婦でトレビスを栽培している農家さんがいて、食べ方を教えてくださいと頼まれた。いろいろ試してみて、これは一般の主婦じゃむつかしい。なかなか使いこなせない。
 これはシェフに使ってもらおうと。お洒落な食卓、クリスマスとか、だれか来た時の演出にとか。ロースビーフとかチーズにあわせるとか。まず知ってもらおうと。シェフであれば、横のつながりもある。シェフの中にも金沢トレビスのことを知らない人もいるだろう。そこで野菜の使い方のうまいフランス料理のシェフに頼みました。」
 

 トレビスの会はつぐまさんが呼びかけ、有料の会を開催した。食通の人やメディアが集まった。そこで農家がトレビスを語り、シェフも登場してコース料理と、トレビスの特徴や、その持ち味を料理とともに紹介した。

 ちなみに金沢は、新幹線ができたことで、観光客が増加。食が豊富なこと。美しい旧来の町並みも残っていることから人気が高い。同時に若いイタリアン、フレンチの開業が増え、食のレベルが確実に上がっているという。

 つぐまさんは、新しい店や、評判の店にもよく食べに出かけ、フェイスブックにアップをする。同時に、リサーチも欠かさない。そこからネットワークも広げてもいる。


 ◆農家・料理家・消費者をつなぎ、双方向で求められる形につなぐ
 つぐまさんは、農事組合法人ラコルト能登島の洲崎邦郎さんが2016年に立ち上げた「NPO法人アグリファイブ」(http://agri-five.com/)の「生産者と消費者をつなぐ活動」にも参加している。

 このNPOの参加メンバーの農家は、マルシェに出店したり、レストランと連携したり、耕作放棄地の活用をしたり、新しいニーズにあったイタリア野菜やオリーブの栽培をしたりということを積極的に行っている。NPOでのつぐまさんの肩書は「副理事長・青果物ブランディングマイスター」となっている。

 ちなみに洲崎さんは、元ホテルマン。働いているときに食材の向こう側を知りたいと脱サラをして2010年から農家になった方。ラコルト能登島をつくったが、農業を行うなかで、もっと農家を消費者と繋げないといけないと思いアグリファイブを立ち上げ、ぜひ、一緒にやってほしいとつぐまさんが声をかけられたのだという。
 つぐまさんが洲崎さんと知り合ったのは、県が農ビジネスを支援するために立ち上げた「農商工連携アドバイザー石川」(https://acic-ishikawa.jimdo.com/)での勉強会から。つぐまさんは、会の会長を務めている。

 NPO法人アグリファイブでは毎月テーマを決めて食の発信を行っている。例えば、旬のズッキーニ。若い3人の農家がいる。それぞれの畑の土壌条件が違うので、野菜の個性も異なる。
 この会では、プロジェクターで農家の畑の様子とそこでできた作物を農家自身が紹介し、またその野菜を農家がイタリアレストラン『ラ・フォレスタ』に持って行ってシェフに料理を作ってもらい、同時にシェフの料理も披露される。
 農家は新たな食べ方を学ぶ。そして農家と消費者が直接話をする。それが発信されてより多くの消費者が農家を知り、農家が出品をするマルシェにも訪れる、という農家と消費者の新たな関係が生まれている。

「ズッキーニは、花も摘んできてもらい、花にチーズを入れて、料理として出しました。消費者の方は、花が食べられると知らなかったようで、『お花も食べられるのね』って言われました。
 アグリファイブでは、このほかに農家へ行って収穫体験や草取り体験をしています。意外とみんな喜ぶんですね。これはお弁当付きで、年に2、3回かな。そんなことやっています。」

アグリファイブの野菜売り場。たまプラーザ「マルフード」内。


◆商品開発には女性の目線が大切
「農家さんって、お話していると売り方をどうしていいかわからないという人がいっぱいいるんです。すごい経営コンサルタントの人が入れば、もっと違うことをいろいろ言うんでしょうけど、私ができることといったら、食べ方をお伝えするとか、みんなに知ってもらうとか。それによって農家さんの魅力とか青果物の魅力が伝わればいいのかなあと思っています。
 志の高い若い農家さんが多い。20代、30代、40代かな。気が付いたらみんな年下。昔はそうじゃなかったのに(笑い)。」

 農事組合法人ラコルト能登島(http://raccolto-ishikawa.com/index.html)からは、特産の米から栽培をしてお酢をつくりたいと相談を受けた。つぐまさんは、昔からのお酢やさんを紹介し、パッケージのデザインから販売先を一緒に考えるまでのプロデユースを手掛けた。

 
 石川県白山麗にある「ねんがじ」という木の実と米粉を使ったお菓子をおみやげにしたいと相談を受け、パティシエに頼んで来てもらい、パッケージから名前も考える。そんなことも手掛けた。
 素材を活かし、どう売っていくかまでをコーディネートするのがつぐまさんの役割だ。
 

 
「ライターをしているから、ブランディングをするときには話を聞く。それで大事なものが出てくるのが面白い。例えばヘタ紫なす。小さく小ぶりの綺麗なものしか売れない。大きいものは安い。でも大きいのがおいしいと聞くと、大きいのは違うブランドで売り出せばいいよねとか、セッションしているときにいろんなアィディアが出てくる。
 レストランなら大きいナスを使ってもらえる。ほちゃナス、として売り出すとか。ほちゃは、金沢で大きいという意味。直売所では、20代の女性がつくるヘタ紫なすは他と区別するように、ちょっとパッケージを考えてとアドバイスをする。そんなことが嬉しい。」

 農業の現場では市場出荷をする場合、厳格な規格があり、大きすぎたり、小さすぎたり、ちょっと傷があったりすると、規格外となる。すると価格が付かなかったり、破格の低価格になることもざらで、売れたとしてもほとんどお金にならないために廃棄されてしまうものもある。
 そうした規格外のものも売り方、食べ方、加工の仕方を上手に工夫し、ニーズにマッチさせれば、農家の安定収入にもつながる。新たな活用も広がる。

 石川県白山市に拠点を置く農業法人㈱六星(https://www.rokusei.net/)の新しいファンを創り、ロイヤリティを高めたいという要請で、つぐまさんは、月1回のイベントを1年半ほど手掛けた。

「ファンを創るマーケティングをしながら、そこで六星の商品を紹介するとか、扱っているお茶を紹介するとか、あとお米でパエリア、韓国料理など、いろんな料理を作ってもらい食べてもらいました。それを若いコメ担当のお兄ちゃんにお米ができるまでを語ってもらうとかしました。」

 そのなかで六星のお弁当「まごわやさしい弁当」を消費者も巻き込んでみんなでリニューアルする「お弁当ラボ」を開催した。 ちなみに「まごわやさしい」は、食バランスのとれた食事のこと。豆、ゴマ、ワカメ(海藻)、野菜、魚(さかな)、シイタケ(キノコ類)、芋(いも類)の、頭文字からとられたもの。
 
 六星は、稲作農家が中心に始まった法人。農家だけでは新しい展開ができない。そこで若い世代に事業を任せ、そこから米、野菜を作るだけでなく、直売所、レストラン、和菓子店までを展開し、集客販売につないで多くの若い人を雇用するまでになったところだ。

「お客さんを集めて、お弁当をみんなで開発をする。惣菜の担当がヒアリングをしながら進めていく。そうすると絶対、お弁当を応援するじゃないですか。
 参加者の女性から『くじびきがあるといいね、当たり券がついたりとか』なんてアィディアが出たりもする。女性が作り、女性の目が入る。
 でも、すごい商品開発をする必要はないと思った。もともと六星さん自体に商品開発力があるから。だけどロイヤルティを高める必要があるかなと。
 だから、お客さんも一緒に参加してもらえれば、私、あそこのお弁当を作ったのよと、私が考えたのよとか絶対人に言うだろうし広がるし応援をするし、お弁当を買うだろうし、そういうのをやりたいと話したんです。」  

 六星の店頭には、「まごわやさしい」のほかにもカラフルで、野菜も豊かな弁当が並んでいる


「一般の人に、すごい商品開発のアイディアがあるとは思っていないです。面白いことも言うけど、好き勝手なことも言うじゃないですか。また言いたいことも言われる。ファンを創るためにやりましょうって言いました。」

 六星のお弁当は、野菜がたっぷりで見た目もカラフル。よく研究もされている。生産者で自分のところで野菜も作っているからだ。そしてここは、お惣菜、お弁当を最後にまとめる役は女性が担っている。

「商品開発には必ず女性を入れましょうと言ってます。おじさんたちだけでやるとロクなことない(笑)。いきなりジャムだけになったりとかね。」

 つぐまさんは、とびきりの笑顔で答える。「金沢にいるのが幸せです。」


◆NPO法人アグリファイブ http://agri-five.com/
◆農商工連携アドバイザー石川 https://acic-ishikawa.jimdo.com/
◆ 農業法人㈱六星 https://www.rokusei.net