
書名 平和をつなぐ女たちの証言
編者 安保法制違憲訴訟・女の会
版元 生活思想社
発行日 2019年5月24日
定価 1620円
○平和を希求してきた女たちが織りあげた布
「シスターフッドの闘いがここにある」。安保法制違憲訴訟・女の会がつくった本書を読み終わったとき、わたしの心の中に大きな興奮が走った。同時に掲載されている各陳述書に描かれた原告らの経験が、母方の曾祖母や祖母、そして母の三代にわたる女の物語と重なるような感覚をおぼえた。母はわたしの生きざまを投影している研究や平和活動を文句ひとつ言わず一心に支えてくれた。そんな母の心の底には常に、二度と戦争の加害者や被害者になりたくない、という確固たる思いが横たわってきた。原告に共通する思いと同じだ。こうした気持ちを抱きながら、各所でジェンダー正義に基づく人権(それは家父長的な社会の否定、またジェンダーに基づく各種の暴力からの解放などを意味する)と軍事に依拠しない平和を希求し続けてきた原告一人ひとりの物語が糸となり、『平和をつなぐ女たちの証言』という布が織りあがった。今後この布がどのように使われるのか、また、どのような形で次世代に手渡されていくのか。その一つは、原告らが提起した安保法制違憲訴訟を通して明らかになっていくだろう。
原告から証人になることを打診されたとき、わたしは即時に引き受けることをきめた。何ら迷いをおぼえることはなかった。法学研究者として安保法制が憲法前文や9条に抵触する明々白々な違憲立法であると認識してきたことに加え、非暴力な社会の構築にはジェンダー視点から同法制に挑むことが不可欠だと考えてきたからである。また、それを前提にして、原告らが過去から現在まで主体的にかかわってきたさまざまな闘いの延長線上にあるこの訴訟につながることが、わたしなりのシスターフッドを示す証になると強く確信したからである。そうした確信とともに必死に書きあげた証人陳述書が本書の最後に掲載されている。
○日本のさらなる軍事化を阻止するために
原告らの陳述書は、各々が過去に経験した出来事や、日本社会のジェンダー史を形成してきたこれまでのとりくみ、現行憲法への思いなどを単純に述べたものではない。痛み、怒りや憤り、不条理さ、喜びなどの複合的な感情がぎゅっと詰まったこれらの陳述書は、経験から得た学びを未来に向けて発信したものになっている。例えば、「安保法制は少しも安全保障ではなく、戦争の危険を増し、命の危険を感じさせるものでしかない。本当の安全保障とは、戦争の元になる、貧困や抑圧、差別などの社会不安を政治の力で解消することではないか。」(森本孝子、160頁)、「少子高齢化による社会保障費の増加が見込まれ、そちらに税を振り向ける大転換を行わねばならないこの時期に、安保法制によって対外戦争への歯止めを取り払ったことは、女性の家庭内の負担を大幅に増やし、憲法に明記された男女平等の実質化を阻む結果を招くことは明らかです。」(竹信三恵子、283頁)などである。
未来を生きる人々への発信の意味があるからこそ、わたしたちはこれらを参考にしながら、自分がいかなる社会に住みたいのかということを具体的に考えることができるのである。「個人的なことは政治的なこと」。本書に目を通せば、第二波フェミニズムが唱えたこのスローガンの意義を再確認することができるだろう。さらなる社会の軍事化を阻止するためにも一読をおすすめしたい。
■清末愛砂(きよすえ・あいさ)
現在、室蘭工業大学大学院工学研究科准教授。
近著として、『公文書は誰のものか?』(共編著、現代人文社、2019年)、『自衛隊の存在をどう受けとめるか』(共編著、現代人文社、2018年)、『右派はなぜ家族に介入したがるのか』(共著、大月書店、2018年)などがある。
*この評は安保法制違憲訴訟・女の会が訴訟の証人として依頼した清末さんにお願いして書いていただいた。
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