書 名 日本婦人問題懇話会会報アンソロジー 社会変革をめざした女たち
著者名 日本婦人問題懇話会会報アンソロジー編集委員会・編
発行元 ドメス出版
発行年 2000.09.25
「日本婦人の地位も昔にくらべれば向上したものの、根本的には未解決の問題が多く、それらはみな今後、私たち婦人の手で解決されていかなければなりません。」
これは今から60年近く前の1962年に発会した「婦人問題懇話会」(84年から「日本婦人問題懇話会」)の山川菊栄の手による趣意書の文言である。「婦人」を「女性」に変えれば、残念ながらいまだに通用することばである。
○日本版女性学の誕生
パンフレット型の12号の会報に続き、1965年から雑誌型で刊行され続け、1999年まで続いた全58号の『会報』に詰まった、その時代時代の女性問題の解決に向けた調査・研究に基づく論考のアンソロジーである。1974年にアメリカの女性学を日本に初めて紹介した論文も収録されているが、それ以前からの、研究を踏まえた諸論考自体が、いわゆる研究者に限らない教員、会社員、ジャーナリスト、評論家、弁護士、官僚、行政関係者その他幅広い立場の女性たちが自前でつくりあげてきた日本版女性学そのものであったと言える。
巻末の会報総目次によれば、雑誌型第1号の特集は「主婦の就職」で、その後の「婦人の働く意義について」「婦人と社会保障」などの特集のあと、1971年には「現代の婦人解放」としてウーマン・リブ運動にいち早く関心を寄せ、その意義を論じあっている。
○時代の先をゆく
本書に収載されている論考のテーマをみると、無償の家事労働の評価(1978)、初めての民間「パートタイマー調査」(1966)、女性の雇用増と不安定雇用の深化の同時進行(1981)、母性保護と差別(1972)、「機会の平等」か「結果の平等」か(1982)、保育所運動(1985)、優生思想、生殖技術(1987)、夫婦同一氏(1974)、女性の政治参加(1990)など、時代に先駆けて問題を提起し、現在にも通用する議論を深めたものは枚挙にいとまがない。教育についても60年代から家庭科教育を中心に繰り返しとりあげられ、いち早く教科書の男女差別チェックの分析を行ってもいる。
字数の関係で、著者名は省略したが、執筆当時の年齢が記載されているものを見ると、その後の日本の女性運動を引っ張ってきた人たちの若き時代の熱い思いが伝わる。
懇話会は、運動体ではなく、研究団体という位置づけだったが、会員には田中寿美子ら国会議員もいて、雇用機会均等法にさきがけて議員提案された雇用平等法案の議論(1977、1982)も行っていた。また、分科会や定例会で議論を進める一方、高齢化社会問題、家庭科の男女共修問題などシングル・イシューで運動する団体をスピンオフさせ、会と表裏一体で運動にコミットした。
○運動を継承するために過去を知る
2000年に刊行された本書は、研究・調査に基づく論考で、時代に先駆けた問題提起を続け、変革をめざした20世紀後半の日本の幅広い女性たちの活動の貴重な記録である。
女性の運動の次世代への継承は多くの団体で課題であるが、団体の持続を目的化するのではなく、次世代がそれぞれの時代にふさわしい活動を展開することによる運動の継続が大事と私は思っている。しかし、その際に先人たちが行ってきた議論の多くが今も十分通用することを学び、さらなる展開につなげるためにも一読の価値ある歴史的な書籍である。
■村松泰子(むらまつ やすこ)
(公財)日本女性学習財団理事長
『エンパワーメントの女性学』(共編著、有斐閣、1995年)、『メディアがつくるジェンダー:日独の男女・家族像を読みとく』(共編、新曜社、1998年)、『学校教育の中のジェンダー:子どもと教師の調査から』(共編、日本評論社、2009年)
◆10月19日に、日本婦人問題懇話会会報をテーマに、ブックトーク「女性解放をめざした先輩たちと出会う――シリーズ・ミニコミに出会う③」を開催します。
詳細は以下からご覧ください。
https://wan.or.jp/article/show/8508
みなさまのお出でをお待ちしております。
◆ブックトークに登壇される方々の著書を、シリーズでご紹介しています。すべての記事は下記のタグ「ミニコミに学ぶ・日本婦人問題懇話会会報」からご覧になれます。