書 名 前向き長持ち 人間関係の知恵
著 者 樋口恵子
発行元 海竜社
発行年 2019年4月7日


「婦人問題懇話会」は、女の生き方を考え、女たちの時代を切り拓いてきた樋口恵子さんにとって、ご自身のキャリアの原点となる出会いだったのではないか。山川菊栄や田中寿美子など、先達の女性たちの思想を引き継ぎ、「婦人問題懇話会会報」に何度も執筆している。1982年、樋口さんが立ち上げた「高齢化社会をよくする女性の会」の事務局に、翌年、「婦人問題懇話会」も、同じ事務所に同居することになったという。

 この本は読売新聞生活面「人生案内」(2008年~2018年)に、10年に渡って著者が回答したものからの抜粋。母と娘、妻と夫、嫁と姑、職場や世間との関係など、身近な人間関係をめぐる悩みに、一話ずつ、樋口さん一流の、歯切れのいい的確な答が出される。読んで、スーッと胸のすく思いがする。

何より「見出し」がいい。たとえば「ムズカシイ母親」には「思いを口に出し、行動で示そう」とアドバイス。「母娘関係」の悩みには、ご自身の母娘関係とも重ね、「盛大にケンカして、あとは笑い飛ばそう」と。「長期介護」に疲れた相談者には、その苦労をねぎらい、「家庭に他人を呼び入れよう」と介護保険サービスの利用を呼びかける。「ダメな夫」には「自分が変わらないまま、相手を変えることはできない」と説く。それでも、もし解決がつかなかったら「恨みはあの世で言いましょう」とサラリと結ぶ。うん、気持ちがいい。

 悩みは時代とともに変化していく。もう、「嫁」なんて言葉、死語になったと思っていたら大間違い。まだまだ役割意識にとらわれる女たちの、なんと多いことか。それでも女は変わった。自分の生き方は自分で決めると気づいてしまったから。
 そして人生100年時代がやってくる。「家族」の関係期間も長期化してきた。非婚化・少子化も広がっている。世に悩みのタネは尽きまじ、ということか。

 先頃、WAN「女の本屋」に<往復書簡>『百まで生きる覚悟』(春日キスヨ著)をめぐって――「ヨロヨロ期」の発見 樋口恵子vs春日キスヨ、がアップされた。読んでプッと吹き出してしまった。
 86歳になる樋口さんは今、「ヨロヨロ期」の真っ只中とおっしゃる。「きのう」のように「きょう」がないのです、と。「百年の旅」を歩む人々のために「ヨロヨロ期」を、もっと「見える化」し、必要なサービスや支え合いの仕組みを創りだしましょうと。
 そのとおり。95歳の母と92歳の叔母と、50歳のシングルマザーの娘と9歳の孫娘と暮らす、75歳の私にとって、この本は身に沁みて参考になることばかり。樋口さんにあやかり、これからも女四代、ゆっくりと賑やかに暮らしていこうかな。

やぎみね(WAN理事)
1943年、北京生まれ。1967年、大阪大学文学部哲学科社会学専攻卒。出版社勤務後、結婚のため中断。1990年~2001年、女性問題の企画会社フェミネット企画勤務。退社後、自営でパソコン業務。2009年、女性のためのポータルサイト「ウィメンズアクションネットワーク(WAN)に参加。以来10年間にエッセイ「旅は道草」シリーズを連載(現在114回)。視点論点、おすすめの一冊など。
著書『女(わたし)からの旅立ち――新しい他者との共生へ』(批評社・1986年)、『関係を生きる女(わたし)――関係への他者論』(批評社・1988年)。共著「不平等のすすめ」(ノーマライゼーション研究)。「女たちは天皇制社会を変える」(同時代批評)、「関係と表現の狭間で」(同時代批評)など。

◆10月19日に、日本婦人問題懇話会会報をテーマに、ブックトーク「女性解放をめざした先輩たちと出会う――シリーズ・ミニコミに出会う③」を開催します。
詳細は以下からご覧ください。
https://wan.or.jp/article/show/8508
みなさまのお出でをお待ちしております。

◆ブックトークに登壇される方々の著書を、シリーズでご紹介しています。すべての関連記事は下記のタグ「ミニコミに学ぶ・日本婦人問題懇話会会報」からご覧になれます。

樋口恵子の人生案内 前向き・長持ち人間関係の知恵

著者:樋口 恵子

海竜社( 2019-04-04 )