書 名 新聞記者
著 者 望月衣塑子
発行所 角川新書
刊行日 2017年10月12日

 望月衣塑子は、一日にしてならず。
 望月衣塑子に会って話した途端、機関銃のような語りとその面白さにいっぺんで魅了された。そんな人は少なくないだろう。
 彼女のまっすぐさ、正義感、何事にもひるまない強さがどこから来ているのか。中学生の時に吉田ルイ子の『南ア・アパルトヘイト共和国』を薦めてくれた母、業界紙の記者として信念をもって仕事をする父の姿からいつしか彼女はジャーナリストという仕事を目指していった。彼女の記者魂は両親の姿勢を見てきたからだ。しかし、それだけでなく彼女自身の並外れた好奇心があったからだろう。
   記者になってからも、ほとばしる思いをぶつけながら自分がターゲットと決めた相手に食いつくように取材をしていった。まさに今の彼女の新聞記者としての原点だ。怖いものなしの彼女に狙われたら、取材される人間はさぞかし恐ろしかっただろう。
 しかし、そんな彼女の食い下がる質問にのらりくらりと言い逃れる人物がいた。菅官房長官だ。
 森友問題を追いかけるうちに内閣官房というまがまがしい伏魔殿に彼女は入り込んだ。内閣官房長官の記者会見なんて、当たり障りのない質問がほとんどで、「これは!」というような質問にお目にかかったことはない。すべてとは言わないが、同じ記者クラブ内でなあなあの体質がそうさせていたのだろう。2013年安倍番記者たちが安倍首相にそろって誕生日プレゼントを渡したというニュースに面食らったが、今や新聞社や放送局などのメディアのトップたちは安倍首相と会食するのが当たり前になっている。日本のジャーナリズムはどこに行ったのだろう。
 そこに彼女が登場したのだ。面くらったのは菅官房長官だけではあるまい。しかし、ここからがこの彼女にとっては苦難の道だった。裏工作や根回しなどとは無縁に生きてきた彼女。そんなことは大っ嫌いだったろうし、当然やろうとも思ってなかっただろう。同じ記者仲間からも疎んじられたのは想像に難くない。彼女も家に帰れば、娘であり、母だ。母親の病気の時も付き添えず、子どもとの休暇の時間すら取れない、病魔に襲われたときもある。
 それでも彼女はあきらめない。彼女は、自分が社会を変えられるなんて不遜なことは思っていない。でも、彼女は聞く、そして記事にする。それが新聞記者の仕事だと自負するからだ。講演などでは、むずかしい話も彼女にかかれば爆笑の渦だ。機関銃のようなスピーチで、笑顔あり、時には怒りの形相も見せる。役者を目指していただけある。
 人間・望月衣塑子、だてに新聞記者をやってない!
 この本からは望月衣塑子の肉声が聞こえる。大ヒットしている映画「新聞記者」とダブルで楽しんでほしい。

■平井美津子(ひらい・みつこ) 1960年11月30日生まれ、大阪府大阪市出身。現在、大阪府公立中学校教諭、奈良教育大学大学院教育学専修在籍、大阪大学・立命館大学非常勤講師。
大阪歴史教育者協議会常任委員、子どもと教科書大阪ネット21事務局長。
専門研究は、アジア太平洋戦争下における日本軍「慰安婦」、沖縄戦研究。
著書に、『「慰安婦」問題を子どもにどう教えるか』(高文研)、『原爆孤児 「しあわせのうた」が聞こえる』(新日本出版社)、『サンフランシスコの少女像 ~尊厳ある未来を見つめて~』(日本機関紙出版センター)、『教育勅語と道徳教育 ~なぜ今なのか~』(日本機関紙出版センター)、『「日本国紀」をファクトチェック』(共著、日本機関紙出版センター)。
望月さんと対談した『しゃべり尽くそう!私たちの新フェミニズム』(梨の木舎)もある。

◆10月19日に、日本婦人問題懇話会会報をテーマに、ブックトーク「女性解放をめざした先輩たちと出会う――シリーズ・ミニコミに出会う③」を開催します。
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https://wan.or.jp/article/show/8508
みなさまのお出でをお待ちしております。

◆ブックトークに登壇される方々の著書を、シリーズでご紹介しています。すべての関連記事は下記のタグ「ミニコミに学ぶ・日本婦人問題懇話会会報」からご覧になれます。

新聞記者 (角川新書)

著者:望月 衣塑子

KADOKAWA( 2017-10-12 )