上野千鶴子さんは2019年7月7日、東京で開催された第24回国際女性ビジネス会議のトークショーに登壇した。上野さんがビジネス会議に参加したのはこの会議が初めてである。国際女性ビジネス会議とは、女性ビジネスリーダーたちに学びと交流の場を提供することを目的として、株式会社イー・ウーマン代表取締役社長の佐々木かをり氏が主催し議長を務める国際会議である。テーマはその年のビジネス界のトレンドを反映したものとなっており、24回目となる2019年度のテーマは、企業やNPOや個人が様々な領域でスケールを大きくすることを意味する「Scale Up」であった。1000人を超える参加者のうち、約85%が女性、職業・職種に関しては会社員が圧倒的多数で次が会社経営者、また約50%は管理職についており、参加者の平均年収は834万円と報告されている。
10時間に及ぶ会議日程は、前半の全体会議と後半の円卓会議そして夜のネットワーキングパーティーへと続く。全体会議は3つの基調講演と5つのトークショー、そして1つのスピーチで構成されている。後半の円卓会議は70分ずつ2セッションに分かれており、各セッションには5種類の異なるテーマの円卓会議が設けられているので、参加者は自身の興味に応じて円卓会議を選ぶことができる。使用言語は日本語または英語で、英語の場合は同時通訳のヘッドセットの利用が可能である。
上野さんは「ジェンダー平等が大事な理由」というテーマでトークショーを行った。まず、進行役の大門小百合氏(ジャパンタイムズ執行役員・論説委員)から、最近話題になった東大入学式祝辞の反応に関する質問に対して、上野さんは、賛否両論あった中でもっとも共感を得たのは40代の女性たちだったことから彼女たちが辛い目にあってきたことがわかる、自分は(ジェンダー平等に関して)20年前から同じことを言い続けてきた、変わったのは自分を入学式に呼んだ東大のほうだ、と。そして、ビジネス界でダイバーシティやジェンダー平等が大事な理由について、その前のセッションで使われた「ダイバーシティーを実践している企業は儲かる(経済価値を生む)」、という表現に上野さんは違和感を覚えたようである。そこでトークショーの本題であるジェンダー平等が大事な理由について、上野さんの答えは次のようなものだった。それは、ビジネス界のジェンダー平等実現によって社会の公正、ビジネス効率の向上だけでなく、持続可能な社会への変革が期待できるからである。
ある円卓会議では、まさに自社の企業経営を通して持続可能な社会へと変革を起こしつつある女性社長3人の好事例が紹介されていた。また上野さんは、ビジネス界の現状が可視化できるよう各企業は応募者と採用者の男女割合を公表すべきであると提言した。
私は過去2度ほどこの会議に参加した際、居心地の悪さを経験したのを思い出す。それは、自分がビジネス界の人間ではないというだけでなく、この会議が拠り所とするもの、目指すものが明確に見えなかったからかもしれない。その意味で今回の上野さんのトークショーは、国際女性ビジネス会議の存在理由となる理論的根拠を提供した点で重要であったと考えられる。さらに、上野さんが付け加えて言ったことは、今の社会があるのはこれまでジェンダー平等に向けて奮闘した女性たちがいたことを忘れないで欲しいということと、次世代によりジェンダー平等な社会を引き渡してほしいという願いだった。 (三宅えり子)