◆農業は家族経営が中心。男女が協力していかないとできない仕事
 藤木さんは兵庫県全体の農業女子のプロジェクトに積極的に参加をしている。目的はお互いの農産物の生産や販売方法、経営内容、取り組みなどのノウハウを連携して、より豊かな持続できる農業を形にしていくことだ。そして次世代に継いでいけるような経営基盤を築くことにある。とくに農業の場合は、家族経営が圧倒的に多い。そうなると男女がお互いに協力していかないと経営をしていくのが難しい。男女双方がお互いを理解し仕事の配分を考えて、よりよい形の農業の形を目指している。


◆女性が集まりお互いのノウハウを出し連携して経営に生かす活動を展開
 夫が県の農業政策審議委員会の委員をしていたことから農水省から出向の課長と知り合い「女性と若手のフォーラムをしようと思っているが、藤木さん出ませんか」と声をかけてもらった。県内でも参加したい若手女性がいるのでは、と課長がフェイスブックで呼びかけたところ、さまざまな女性が集が集まった。
 その中には国家戦略特区・養父市八鹿町(やぶし・ようかちょう)で養豚、淡路島でレタス栽培、神戸近郊で新規就農など多種多様な女性がいたので、「一度そんな人たちとAKBみたいに集まると面白そう」、という笑い話から農業女子プロジェクトの会は実現した。最初のスタートは7,8名で、神戸に集まった。

「『兵庫アグリプリンセス』の会は3か月に1回、定例会があり、経営指導もあります。おかげでみんな仕事が軌道に乗り始めて忙しくなり、ここから販売先を紹介されて売り先が広がったという子もいる。私のメリットはモチベーションがあがったこと。県庁の経営課の方からの情報提供や、取材、講演依頼の話があったり、販売会、商談会があるので参加しませんかとか。視察においても個人より受け入れてもらいやすいなど、個人ではできない団体ならではのメリットもあります」

 視察では京都の種苗会社・丸種㈱の滋賀県にある丸種研究農場のオープンデーにメンバーと行った。育種の担当の方がいて、普段、作っている作物の特色や栽培法など質問もできる。野菜が料理されて食べられる場所もある。メンバーには新規就農者もいれば大規模のところもあるので、このように個人の能力の差に関係なくだれもが満足できることが研修先の大事な要件なのだという。

 講義をする悦子さん

「ほかの団体の研修に私たちが呼ばれたり、あるいは研修でこういう人を呼びたいということもあります。予算が足りない時にはほかの団体と連携して実現するなど、他団体とも積極的に関わるようにしています。  結局、男性、女性の壁を取り払い農業者を育てるということ。自分だけではない広い視野で観れる人を男性もつくっていかないといけないなと、強く感じてます。」

 農業委員会でほかの農業者と初めて出会い、経営内容や活動を知ることもある。


「うちはどうしても先に進まない、と自分のところの課題を農業委員会で投げかけたら、女性が2、3人増えて、女性の言うことを訊いたらこんな進展した活動になったと言うおじさんが増えてきたとかね(笑)」

 ただ、国が打ち出した農業女子プロジェクトには戸惑いもあったと言う。

「本来はプロジェクトという大げさなものではなく、陰で支えていたり、ちょっとしたアイディアで商品をのばしていたりとかが女の知恵だったり気遣いだったりする。それをもっといかせる機会を女性に与えられたらという思いがあって、そんなことを農水省の人と話しあいながら進めてきた結果、いろんな活動ができるようになったのはプラスなのかな。でも女性、女性といいたくないというのは、男性の中で働く私たちには共通認識としてあるんですよね。つまり農業は男女協力してしかやれない。いちばんお金が残るのは家族経営ですからね。ほんとそう思います」
 

◆若い世代で男性女性がお互いにできることを分担していく形が広がっている
 若い人が変わってきていると悦子さんは感じている。勤めるにしても農業をするにしても、結局、共稼ぎ。新規就農の人は子育ても含め家のことは自分たちで回すので、お互いの健康状態を考え、夫婦共に農業をするのか、片方が外で勤めるのかお互いの働き方を二人で話し合って、納得のうえで仕事して、経営し、生活を築いている。

「あっ、変わってきているなあ、学ぶことが大きいなあと思います。それで喧嘩になるんですけどね、ダンナと(爆笑)。というのは勉強会で話を聴いて『若い人、夫婦で分担して仕事をしているんだって』と話すと『じゃ俺に洗濯物を干せってことか』と言う。『いや、べつにそんなこと望んでないから』って(笑)。うちの旦那は50代。今の30代の人たちの感覚は理解できないと思う。そういうふうに育ってないから。させるのは可哀そうだと思う。今日から、あなたがご飯の当番ですとか、私、言わないからって。させる気もないんだけど、お互いに仕事をして夜は配達がある。そこのフォローはしていかないと、どっちかがつぶれてはしょうがない。考え方をちょっとずつ変えていくのはしようよ、と相談しています(笑)。おかげでだんだん夫も理解して協力して
くれるようになりました。」
 

長女と次女に囲まれる悦子さん

 悦子さんには家での働き方を変える大きなきっかけがあった。それはインショップの配達を始めたころ。配達が夜になるから荷造りや出荷準備で両親や家族の夕食に手が回らない。家事と仕事が重なると精神的にも家庭内の雰囲気もよくない。ストレスにもなったという。

「ぎりぎりまで荷造りして配達して帰ってくるのは夜の10時か11時。出荷に間に合わせるのに片方が野菜をパックに詰めている間に、どうにかして食事を作らないといけない。収穫量が多い時や稲刈りの時期と重なると、パック詰めの時間もかかる。両親にご飯を待たれると、すごいプレッシャーになる。いらいらして『なんでもあるもの食えよ』と自分で思い始めるのが嫌になった(笑)。こりゃ私が崩壊するぞと思った。ちょっと悪いけど二人分でいいから作って早く食べて片づけて寝てと。両親は、朝早い。生活時間帯が私たちと違う」

 悦子さんは、イヤイヤ台所に立たないと決めた。そのきっかけは長女から言われたこと。「お母さんさ、このまま我慢して無理してこなせると思っているかもしれないけど続かないよね」

 最初は少なかったインショップへの集荷もだんだん増えてきて、ほぼ毎日配達に出るようになり自分たちもまともにご飯を食べていなかった。
 長女はさらに、「これでご飯作る意味あるん?」と畳みかけた。「うん?」と返す悦子さんに、「こんな状態でも作ってくれる人がいるからこうなってるのであって、よその家では自分のことは自分でしてるよ。じいちゃん、ばあちゃんにも少し自分のことは自分でさせないと無理だよ。こんなこといつまでもできると思ったらそれは違うで、見直してください」と言ってくれた。

「長女ははっきりモノを言う。長女は中西恵子さんのところで仕事をさせてもらったことがあって、中西さんも似たようなところがあるそうです。でも上手に息抜きをしていて、ここはする、ここはしないんだというのを横で見ていて、『お母さん全部自分が背負うのは辞めた方がいいよ』と言ってくれたんですね」

◆顔のみえる範囲での商売を目標として成り立つようにしていいきたい
 インショップに出すのは大変だが、始めてよかったことが一つある。
 インショップの商品を観ていると遠くから来たものには鮮度の悪いものもある。それを見て自分たちの売りたいと思う信念と違う、と再確認ができたことだ。「せいぜい50キロくらいの顔のみえる範囲で商売するということを目標として、それが成り立つようにしていきたいと思う。
 今後の展開を見直していきたいとも思っている。

「両親が、餅、赤飯、おはぎ、団子、柏餅などの加工品を創って、直売所で販売をしている。ただ、年老いてきたので、加工の部分を次にだれに引き継ぐかが問題だったのが、最近、長女がしたいと言って、今手伝いながら作り方をおじいちゃん、おばあちゃんに教えてもらっているところです」
でも、このままの形でできるのか。加工場をすべて見直して機械の更新なり、建設を改築し採算があうようにしていくか、今、その見直しをしているところだ。

「メロンも増やしたい。もっとメロン自体を知ってもらう機会をつくれたらいいなあと思う。銀座の有名なバー・ミスティのマスターと農業者の集いで知り合って、メロンの話になってお送りしたら次の注文がきたんです」

 自分の幸せは、自分で作るもの。農家は家族経営が中心なので女性も含めて対等に経営のことをしっかり話しあうべき、と悦子さんは考えている。

「いま、いちばん気になっているのは、次世代にどうバトンタッチしていくかということ。  よく農家の子弟とか息子って親父が倒れたから継がなきゃならなくなってという苦労話を語る人がたくさん出てくる(笑)。」

 多くが違う業種にいて戻ってきた人たちだ。ほかの企業だと、40代、早い人だと30代に経営を次ぎの人に渡したりする。ところが農家の若手経営塾を開き経営や戦略の話をしても、決定権が親父にあるので参加できませんということがよくある。

「農業はいつまでもやれていい職業ではあるけれど、自分がやりたい経営とかをきちっと子供たちが考えて、実現するところまで手伝えるとか、黙って見守るとか、それができるだけの基盤を残してバトンタッチするとか、そういうことが農業でもできればと思っています。
 少しずついい形の変化があって、みんなとこれからの農業の話をしているんです」


◆学校給食の取り組みから大学の学生との連携に広がる
 学校給食への給食センターに届ける取り組みを、もう10年以上前から行なっている。国も地産地消の推進を行っている。

「地元のものを食べてもらいたい。その思いは栄養士さんにもあった。自分の子供もちょうど給食を食べている時期でもあった。いちばんおおきかったのは、トウモロコシが普段食べているのと全然違って美味しいと子供たちや給食センターの人から聞いたこと。楽しみにしている子供がいる。だったら微々たるものでも出して食べさせたいと思いました。でも主人は給食大嫌い(笑)。お弁当の世代だから。嫌いなものをがまんして食べるという思い込みがある。でも、今、給食はとても良くなっている。主人に食べさせたら『おいしいなあ』と、言っていました」

 学校給食でよくありがちなのが栄養士と農家のすれ違い。栄養士が農家の現場を知らないことから、地域の農産物がうまくレシピに反映されない。
 また逆に農家が給食の仕組みと流れが分からないことから食材の利用に繋がらないというケース。うまく生かすためには、主体となっている行政と、栄養士、農家との十分なコミュケーション。それにお互いの現場の活動を理解することだ。

 悦子さんたちも、これまでに行き違いを経験したことから交流をする活動を行っている。
 
「今、主人たちのグループ「つちのこクラブ」の農業メンバーで給食の玉ねぎは作っています。保管できれば一年中使えるというので冷蔵庫を設置してもらった。小学校の子と一緒に栄養士さんも植え付けや収穫の体験活動もしていますね。
 私たちが立ち上げた「アグリプリンセス」では、青年農業クラブや農協青年部などと一緒に農業の担い手を育成する「たべるをはじめる」(県との連携事業)の活動をしている。甲子園大学の栄養士を目指す学生への講義、収穫体験と料理をするのが主な活動です。大学と連携していくのも面白いんじゃない、というので始まって5、6年になります。」

 悦子さんは大学の講義では中山間地域での農業経営や、地産地消の旬と鮮度ということが、食べるうえでのご馳走のひとつであり、それが田舎のいいところだという話しをしたという。

 大学の収穫体験は神戸の近くの兵庫楽農生活センターで行われている。学生たちと畑に出るのはとても楽しいと言う。
「まったく農業の現場を知らない栄養士さんだと給食の献立のときに旬が反映されないとか、白菜の高いときに献立に入れるとか、すれ違いが起こる。食材を調整すれば違うものにお金かけてもらえるというのもある。地元の食材の旬がわからないと献立をたてるときに困るという話しも聞きました。お互いにあるのは、子供たちに美味しいものを食べてもらいたいという思い。それで一緒に取り組もうという話しになったんです」

 藤木農園の家族の農業経営は、着実に、次世代へ、未来の子供たちのために、健康な食を手渡す活動へと広がっているようにみえる。

◆藤木農園
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