モイ! (Moi!はフィンランド語で「こんにちは」という意味)
森屋淳子です.

 フィンランドでは,2月に1週間のスキー休暇があります.日本から遊びに来てくれた母や息子のお友達親子と一緒にフィンランド北部のラップランドに行ってきました.
私たちが住んでいるヘルシンキは地球温暖化の影響なのか? 前代未聞の暖冬らしく,一年で一番寒いハズの2月に雪がない!状態でしたが,ラップランドでは綺麗な雪景色を楽しむことができました.

ハスキーサファリ.想像以上の迫力と美しい景色に,子どもも大人も大興奮でした!



日本では新型コロナウィルスの影響で日常生活に大変な制約が出ているようですね…涙
フィンランドでもまだ少数ですが感染者が報告されており,様々なニュースを不安に見守る毎日です.

今回の記事では,新型コロナウィルスと直接の関係はないですが,フィンランドで働く医療従事者に私がインタビューして,日本と一番違うな~と感じた「休むことに対する考え方」についてご紹介します.

*フィンランドには「病児保育施設」がない!?
 フィンランドは大多数が共働き世帯です.私たち夫婦も日本在住時は,共働き,かつ,どちらの両親も遠方であったため,子どもの急な発熱時には,区の病児保育施設に大変お世話になりました.
共働きするためには,病児保育施設が必要不可欠である,とすら思っていました.そのため,フィンランドには「病児保育施設」がないと知って,とても驚きました.
 祖父母に孫の世話が頼めないフィンランドの共働き世帯/1人親世帯は,子どもの急な発熱時にどのように対応しているのか?というと,主に以下の2つの方法で乗り切っているようです.
1. 一時的な育児休業の利用
2. 病児のためのベビーシッター派遣サービスを利用

以下,一つずつ紹介していきます.
1.一時的な育児休業(tilapäinen hoitovapaa; temporary child care leave)
 フィンランドには育児休業(hoitovapaa; child care leave)とは別に,一時的な育児休業(tilapäinen hoitovapaa; temporary child care leave)という制度があります.
これは10歳もしくは12歳以下の子どもが急な発熱,病気などでケアが必要となった場合には,3日間は医師の診断書なしで,被雇用者の自己申告だけで,仕事を有給で休むことができる制度です(有給休暇とは別に取得できます).
この制度は両親がそれぞれ分担して利用してもよく,たとえば,午前中は父親が病児を看て,午後は母親が病児を看る,というふうに,臨機応変に対応することも可能だそうです.
また,水痘(水ぼうそう)などのように3日以上休まないといけない場合には,父親が前半3日間を休んで,母親が後半3日間を休むといったこともできるようです.

「子どもが急に熱を出す/感染症になるのは当たり前」という認識は職場で共有されており,そういった事態は「お互い様」であるため,「子どもの急な発熱で仕事を休んだからといって周囲に罪悪感を抱く必要はない」と聞いて,ビックリしました.

 これは医療従事者であっても同様で,「医師であっても子どもや自身が急に病気になることはある」という認識が共有されており,仮に急に診察予約(場合によっては手術)がキャンセル/延期になったとしても,患者側にも「体調が悪い時に休むのはお互い様」と不便を受け入れる寛容さがあるようです.(もちろん,急を要する患者さんは別の医師が担当する,などのサポート体制も「お互い様」で構築されています.)
また,「長い目で見ると,体調が悪いのに無理して働いた方が,社会的損失が大きくなる」と長期的かつ広い視点で物事をみる習慣もあるようです. 日本にも「子の看護休暇」という制度はあり,子ども1人につき,年間5日間は有給で休めるようですが,周知率や実際の利用率は,どれくらいでしょうか??

2.病児のためのベビーシッター派遣サービス(Karhunpoika-lastenhoito; Bear’s son-child care)
 基本的には,親のどちらかが仕事を休む,もしくは祖父母に頼る,ということで対応できることが多いようですが,たとえば1人親で祖父母も遠方で頼れないとか,両親ともに休めないなどの場合には,Karhunpoikaという病児用のベビーシッター派遣制度も利用できます.
Karhunpoikaとは,保育資格を持った看護師が自宅に来て,病児の面倒を看てくれる制度です.
利用料は,被雇用者でなく,職場が負担します(たとえば,ヘルシンキ大学病院勤務の場合は,1回4日間,年4回まで無料で利用可能とのこと).
制度を利用するためには,当日の朝に連絡して,対応可能な看護師がいるか確認します.
ヘルシンキ市内ではほぼ対応してもらえるようですが,近隣の市では人員確保が難しい場合もあったり,子どもに自宅で与えてもらう昼食の準備が必要なこともあり,「休みを取った方が楽」と考える人が多いようです.

日本にも病児のためのベビーシッター派遣サービスはありますが,費用は自己負担であることがほとんどですよね?
フィンランドの「職員に仕事をしてもらうために,職場がお金を出して,ベビーシッターを家に派遣する」という発想には驚かされました.  

ラップランドで泊まったコテージより



*「休むこと」が前提のシステムづくり
 フィンランドでは,残業はほとんどなく,年間30日以上ある有給休暇の消化率もほぼ100%と言われており,皆が「残業はしないこと」「休むこと」を前提に様々なシステムが構築されている印象を受けます.
日本のように「早く帰ること」「休むこと」=「周囲への罪悪感」という意識はなく,「定時で帰ること」「休むこと」=「仕事ができる人」「労働者の権利」という認識が広く共有されています.

 それは医療従事者も同じで,医師であっても,1ヶ月以上の夏休みをとります.
フィンランドに来た日本人ははじめ,「1ヶ月も休んだら,患者さんや同僚に申し訳ない」と思いがちだけれど,思い切って休んでみると「自分が休んでも社会は回っている」ということを体感するそうです.
そういったことを何回か繰り返すうちに「自分が休んだら,社会は回らなくなる」といった“妄想”からは抜け出せるようになるそうです.

*「仕事を休むことはむしろプラスである」という発想
 「勤勉」を最良の価値のように考える日本社会では,「休む」と「怠ける」が同義語のようになってしまっています.
しかし,クリエイティブかつ生産性高く働くためには,むしろ,「長めに休んで“浦島太郎状態”を体験することが大切」とのこと.
休みなく同じ仕事を続けることで,その仕事をこなすのは早くなるけれど,新しい視点や発想を取り入れるには、「仕事から離れて,休むことが大切」と「仕事を休むことはむしろプラスである」と捉えているのが,「目からウロコ」でした.

 今回のような緊急事態においては,「労働者の権利/健康」と「プロフェッショナルとしての使命」のバランスが難しいな,と感じます.
しかし,日本人は,無理して働き過ぎて,心身のバランスを崩してしまう傾向があるため,「休む」=「怠ける」ではない,という発想の転換がとても大切だと思います.
今回のコロナウィルス騒動も一つのキッカケとして,「体調が悪いときには無理せず休む」「休むことをお互い様と許容する」考え方が少しでも浸透していくと良いですよね.
一日も早く,日本での事態が収束に向かいますよう祈るとともに,フィンランド政府/国民の感染症対策も注視したいと思います.

念願のオーロラも,うっすらでしたが見ることができました!