こんな見かけです

友人の杉原豊弘さんが、自費出版ですてきな本を出しました。
「心友たち」。かれが出会った魅力的な友人、34人を紹介したもの。
わたしもそこに登場します。頼まれて「まえがき」を書きました。
こんなご時世ですから、かれの人柄に触れた、ちょっといい話、を。

糸とじの3冊本

赤、白、青の3色です

上野のまえがき

本の外観と製本。手作り感にあふれた、糸とじの3分冊に分かれています。
清潔で静謐な佇まい。

おや、どこにもうえのの「まえがき」がない?と思ったら、カバーにはさんだ封筒のなかに、ひとつは「まえがき」が、もうひとつは著者の「あとがき」が、手紙スタイルで挟んでありました。心憎い演出です。

この装幀はデザイナーの藤田理代さん。

まえがき 「心友たち」に寄せて

 心友。
 よいことばです。
 親友、と言われたら、おしつけがましい感じがします。それに親友って、お互いの距離を測りながら、駆け引きしてる感じがあります。あなたは親友と思ってるかもしれないけれど、わたしはそう思ってないよ、って。
 でも心友は、わたしの心の中の友。あなたの同意は要りません。わたしの心のなかに、あなたを住まわせています、という宣言。そういえば、英語にはI think of you.というすてきな表現があって、これを聞くとほっこりします。「あなたを思ってるよ」と言ったって、何をしてくれるわけでもないんですけれど。

   杉原さんの心の中にはたくさんの人が住んでいます。男も女も、老いも若きも、近きも遠きも。しょっちゅう顔を合わせる人もいますし、めったに会わない人もいます。心の容量は無限大だから、心にはたくさんの人が入ります。
 そのひとりひとりがとても魅力的です。いえ、とても魅力的に描かれています。その人に実際に会ってみたら、ほんとに魅力的かどうかはわかりません。が、杉原さんが受けとめたその人の魅力を、うまく描き出しています。
 あるアート作品に「わたしのことなら、彼に聞いて」というものがありました。自分のことは存外、自分自身は知らないもの。他人の目を通して、それも一番親しい異性の目を通じて、はじめてわたしが何者かわかる、というコンセプチュアル・アートでした。他にも「あ・な・た・た・ち」というアート展示もありました。自分の自画像を描く代わりに、自分にとって大切な人たちの群像を描き出すことで、「わたし」の輪郭を描こうというアイディアです。
 この中に登場する人のだれかれに会いたい、とか、会わせて、とか、思ってはいけません。その人はきっと杉原さんが描く人とは別人ですから。
 この本を読んでわかるのは、これだけの魅力的な心友を、自分のうちに住まわせている杉原さんというひとの魅力です。あたたかく、おおらかで、好奇心がつよく、ひかえめに見えてしぶとく、いつのまにか周囲の人たちを巻きこんでいる台風の目のような存在。それが杉原さんです。
 その証拠に、この本はこんなに心のこもった「作品」に仕上がりました。こんな本、見たことない。率直な印象でした。誰がこんな装本を思いついたのでしょう。そして紙質から挿画、エディトリアル・デザインのすみずみまで配慮の行き届いたこの本には、きっと多くの人の目と手とアイディアが入っていることでしょう。そして何より、この本の中に34人もの人たちが、登場を同意してくれたのです。かれのためなら、何かをしてあげたい・・・杉原さんは、まわりにそう思わせる人です。
 「自分史」を書く代わりに、自分にとって大切な人たちを描くことで、自画像を浮かび上がらせる・・・何よりもこのやり方そのものが、杉原さんてひとを、雄弁にものがたります。自分語りよりももっと豊かでぜいたくな、こんなやり方があったのか、と。
 この本に、どんなまえがきも要りません。が、かれに頼まれるとイヤと言えない者のひとりとして、かれが人生の節目にこの「作品」を送り出すことを喜び、そのなかに登場する者のひとりであることを、心から誇りに思います。

著者のあとがき

奥付