2010.08.17 Tue
『恥と名誉』(原題SHAME, 2007)は、イギリスのインド人移民コミュニティに生きる女性の半生を綴った実話である。主人公ジャスはインドから労働者として渡英した両親の下に生まれ、ダービーの同胞コミュニティで育つ。だが、同胞の強固な結びつきとイギリス社会からの隔絶により、そこにはインドの伝統的慣習も堅持されていた。それが強制結婚—15歳ともなると親が娘の結婚相手を決め、学校が長期休暇に入ると家族旅行だと言って国外に連れ出し結婚させる—である。ジャスも突然、母親から見知らぬ相手との結婚を告げられるが、受け入れられず、家族の監視をかいくぐり15歳でボーイフレンドと駆け落ちし、家族の名誉を傷つけたと絶縁される。相手がアウト・カースト出身であったことも家族の怒りを増幅させた。
本書には、ジャスが家族の絆を断ち切られた痛みを、男性との親密な関係によって埋め合わせようとしたために、男性からの精神的・肉体的暴力を引き受けてしまう姿と、二度目の離婚に踏み切る頃から、自分の足で回復への道を歩み始める姿が描かれている。15歳で中断したハイスクールの勉強を再開し、夢だった大学入学を果たしたジャスは、自分の個人的な経験を社会的な文脈の中で読みとくようになり、在学中に自分と同じ境遇にある南アジア出身の女性たちを支援する団体「カルマ・ニルヴァーナ」を立ち上げた。
本書は、女性と家族・文化、人権との関係を深く問う。「女性差別の文化」(強制結婚や暴力)を受け入れ難いと感じながら、家族や同胞社会の中にしか居場所がない女たちは、その価値観を拒否できない。自分の意志を通し自由に生きれば、家族やコミュニティから絶縁され、慣れ親しんだ家族や文化から断ち切られてしまうからだ。
それは、特に異郷の地で暮らす移民女性には耐えがたい。女性は、伝統の抑圧から逃げ出しても、それに従っても、結局は苦しみを味わうことに変わりない—だから主人公は、掟を破り逃げてき女性たちの支援を、自分の慣れ親しんだ故郷の町の一角で開始した。それは愛着のある暮らしや人とのつながりを奪われた女性たちが、自分自身を根こそぎにされないよう、文化に根ざした環境と、女たちが相互の親密なネットワークを紡ぎあう場なのである。(訳者、阿久澤麻理子)
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