
世界中が活動停止の数か月を過ごし、やっと経済活動を再開したと思ったら、ここにきて各国でまた新規感染者数が増加しています。ふたたび巣篭もり生活に逆戻りするのではないかと、憂鬱に感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
そんななか、おそらくロックダウン(都市封鎖)が原因と思われる「朗報」が1つ入ってきました。
私が定期的に執筆しているニューズウィーク日本版には「for Woman」コーナーがあり、女性にとってより重要なトピックが扱われています。先日こちらに、ロックダウン中に各国で早産の激減が報告されている件について書きました。詳しくはこちらをご覧ください。
ロックダウン中の今春、新生児集中治療室がいつになく空いていることに気付いたアイルランドやオランダの医師たちが、偶然同時期に調査を開始。過去の同時期のデータを比較したところ、とくに妊娠初期の低出生体重児の数が激減していたことがわかりました。とくにオランダでは例年に比べ90%もの減少が見られました。
他国でも同様の現象が報告されており、今後さらなる研究が行われるそうですが、医師たちは当初、ロックダウンのストレスや感染への不安から、早産が増えるものと予想していたそうです。しかしそれより、通勤や職場でのストレスのほうが、妊婦の体への負担がはるかに大きかったということでしょう。自宅勤務となり休息時間が増えたこと、さらに衛生管理が徹底されたことが早産減少につながったと考えられています。
日本でも同様の現象が起こっていないか、とても気になります。日本の、職場での人間関係の煩わしさ、通勤時間の長さとハードさは、世界でも抜きん出ています。おまけに、妊娠している女性の体への理解がまるでない。自宅勤務が増えたことによるストレス軽減は相当なものではないでしょうか。
私は2度の妊娠中、それぞれ2003年と2005年に東京に一時帰国したことがあります。お腹はすでに一目でそれとわかる大きさでしたが、電車のなかで席を譲ってくれたのはみな同じ女性か、外国人でした。とくに外国の方々は人種を問わず、電車に乗ってきた私の姿を一目見ただけでキュッと腰を浮かせてくれる人が多かったです。
時は過ぎ、2年前の夏、山手線に座っていると、目の前に若い女性が立ちました。その方が下げていた小さな肩掛けバッグが目にとまりました。どこか見覚えのあるそのバッグ、実はカナダのRootsというブランドの定番で、カナダ人なら二人に一人は持っているのではないかと思われるほどの超人気のバッグでした。色や柄が変わっても形はもう何年も一緒で、ペーパーバックの本がすっぽり入るので便利です。私も1つ持っています。
私はその女性のバッグに1、2分見とれており、気づくのが遅れてしまったのですが、そのバッグの裏側に隠れるように、ついていたのです。
マタニティマークが。
飛び上がるように立ち上がり、「気付かなくてすみません」と謝って、その女性に席を譲りました。そして、見知らぬ人同士が会話を交わすことがほとんどない日本の電車のなかで、人目もはばからず彼女のバッグについて尋ねてみました。やはりその女性もカナダに住んでいたのです。それも同じトロント!
まもなく恵比寿に到着し、私は降りましたが、そのときに少し離れて立っていた彼女の夫が何度も何度も申し訳なさそうにお礼を言ってくれました。
見ず知らずの人とちょっとした会話を交わす……そして共通の話題を見つける……そんな、カナダではそれほどめずらしくない体験を久しぶりにした満足感(私は今ドイツに住んでいます)で楽しい気分になりましたが、そのあとふと考えました。妊婦さんに席を譲るというごく当たり前の行為にあれほど恐縮する夫、そしてなぜ、彼女はバックの裏側にマタニティマークを付けていたのか……。
日本では、マタニティマークを付けている妊婦さんにわざと足をかけるなど、信じられない嫌がらせをする男性がいるというニュースを読んだことがあります。そういうことも関係しているのでしょうか。少子化少子化と騒ぎながら、命を育む女性の体へのリスペクトがない社会などに、解決策が見つけられるわけがありません。妊娠は病気ではない? 確かにそうです。でも、妊娠などしたことのない、ポリシーメーカーのおっさんたちに、私たちの体の調子がわかるの?
研究が進んで、自宅待機と早産減少の関連性が究明され、妊娠初期の苦しい時期の女性たちに、特別有給休暇などが認められるようになればいいな、と心から思います。
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