
「慣れ親しんだ自宅で自分らしい幸せな最期を迎える方法」を提案した本書。上野さんはあとがきでこう語っている。
「わたしには家族がいませんので、基本、ひとりで暮らしています。現在72歳。このまま人生の下り坂をくだり、要介護認定を受け、ひとり静かに死んで、ある日、亡くなっているのを発見されたら、それを『孤独死』とは、呼ばれたくない。それが本書の執筆動機です」
全国を飛び回って取材を行った介護・看取りの最前線も紹介される。介護現場は予想以上に進化しており、「在宅ひとり死」を可能とする経験やスキルが蓄えられているという。「おひとりさまを何人もご自宅で看取りました」というカリスマ在宅医さんも登場。編集過程で私自身、介護・看取りを担う方々にもお目にかかったのだが、ひたむきに取り組まれる真摯なお姿に、ただただ頭が下がるばかり。『ブルシット・ジョブ』(デヴィッド・グレーバー/岩波書店)でも指摘されているが、エッセンシャルワーカーへの報酬はまだまだ低い。尊いお仕事にみあう相応のお給料を支払うべき、そのためにはどうすればよいかについても上野さんは書かれている。
団塊世代向け社会保障費の負担増にもはや国は耐えられないという(世代間対立へとリードされがちな)テーマには、どう答えているか。上野さんによると「在宅ひとり死」という選択肢が増えることで、病院・施設利用のコストを減らせる。そのため、社会保障費削減にも(結果的に)貢献する。シニア世代よし、若い世代よし、行政よし、となる解決策なのだという。
当事者となるシニア世代の方々はもちろんのこと、介護を担っている世代の方々にも、また若い世代の方々にも、介護について考える入門書として是非とも手に取っていただければ幸いです。
きぬがわ・りか(文藝春秋・編集者)
◆書誌データ
書 名:在宅ひとり死のススメ
著者名:上野千鶴子
出版社:文藝春秋(新書)
刊行日:2021/01/20
定 価:880円(税込)
慰安婦
貧困・福祉
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