*K女を離れて*

2020年春 T女子高校 離任 

 2020年3月31日をもって私はK女を離れた。他に2人のプロジェクトメンバーも私と一緒のタイミングで異動となり、立ち上げに関わった5人のうち3名がK女を去った。3月に予定されていた上野先生との読書会は、新型コロナ感染症拡大の影響により一度は延期になったが、8月にオンラインで実施され、秋には2回目の講演会も行われたと聞いている。

 たった1年で「K女の女性学」をここまで順調に進めることが出来たのは、当時のH校長の存在が大きい。教頭である私の提案を受け入れてくれて、全てを任せてくれた。どんな企画でも、校長のゴーサインが出なければ実行することはできない。H校長の後ろ盾があったからこそ、私たちは迷うことなく計画を遂行できたのである。
 現在、3年目を迎えた「K女の女性学」は、残った2名と新しい担当者により、ますます充実した取組が進められており、初年度は1年生だけで組織されていた女性学実行委員会にも、翌年4月、翌々年4月にそれぞれ新入生が加わり、全ての学年に委員が揃った。K女の挑戦は続いている。「女性学」という言葉が無くなる日まで「K女の女性学」には頑張ってほしいと願ってやまない。 

 
  *チャレンジ再び*

2020年春 O高校 着任1年目 

   2020年4月1日、私はO高校に異動になった。今度は共学で普通科の単位制である。クラス数は1学年3クラスの小規模校であるが、創立120年の伝統校であり、M市唯一の高校として地域に根差した教育を目標に掲げていた。生徒たちは市内とその周辺から集まってきており、卒業後の進路は約半数弱が就職で、4年生大学に進学する生徒数は1桁、短大も同様、進学者のほとんどが専門学校である。
 2020年4月、コロナ禍の臨時休校中に新任校長として着任した私は、当初はとにかくコロナ対応に追われていた。このような状況の中で、新たな取組を立ち上げるべきではないし、コロナが収束したら少しずつ着手しようと考えていた。

 しかし、結果的にこの考えは間違っていた。私が着任して1週間も経たないうちに、ある1人の教員が校長室にやってきた。「探究学習を担当しているOです。今年度の探究をどのようなテーマでやっていくのか、校長先生の方針を教えてください。」40歳くらいであろうか。昭和の学園ドラマに出てくる熱血教師そのままという感じの中堅教員であった。本当に不思議に思うのであるが、K女のときも、今度の学校においても、私の周りには、私以上にやる気のある人間が何故か集まっている。その探究チーフは自分のことを「熱血で突っ走る男」と称していた。
 それならば、校長である私が二の足を踏んでいる場合でないと、早速私は自分が思い描いている取組について話し始めた。さすがに共学の探究学習に「女性学」と名付けることは憚られたので、「SDGs」が入ったネーミングにしようと考えていた。

  「SDGs」は世界のリーダーによって決められた、国際社会共通の目標であるから、これから教育の場において扱うことが支持されていくであろう。「SDGs」をテーマとして、その中のゴール5「ジェンダー平等」を徹底的に扱えばよいと考えたのである。そのことを探究チーフに伝えると、「エス、ディー??な、何ですか?」と、目を丸くした。
 当時、「SDGs」はG県の学校現場ではあまり知られていなかった。全国を見渡せば、すでに熱心に取り組まれていた学校は存在したが、G県においては、まだまだ認知度は低かった。学校現場だけでなく、多くの自治体や民間企業、大学においても同様であったと感じる。しかし、私は、もう少し後に「SDGs」が急上昇ワードになるであろうと予測していた。2019年の11月、知事が会見でSDGs認知度が全国でほぼ最下位であることを挙げ、G県はSDGs先進県を目指す、と宣言していた。そうなれば、県政や教育においても必ずその方針が出されるし、自治体、企業はSDGsを前面に出し、様々な取組を始めるであろう。ジェンダー平等も推進されると期待したい。すでに取り組んでいる企業もあったが、多くは環境に関することが多く、ゴール5の達成を掲げているところはほとんどないと感じていた。
 SDGsの看板を掲げている企業では、女性管理職の割合はどのくらいなのだろう、給料の差はないのだろうか、男性が育休を取得しているのだろうか、女性だけに制服を着させていないだろうか、聞いてみたいことはたくさんあった。「あのね、もう少ししたらみんながエスディージーズ、えすでぃーじーずって言い出すから、その前に本校が先頭切って取組を発信していきましょう。キーは5番のジェンダー平等ね。女性活躍、選択制夫婦別姓、LGBTQ、課題は山積していて、日本が取りかからなければならないところはそこ!っていうメーセージをどんどん発信する!大人が後回しにしているところを高校生が先に取り組んで社会に投げかける。そこに意味があるのよ~!」黙って私の話を聞いていた探究チーフは、私の顔をマジマジと見て「いや~、校長先生ってシタタカですね~」と呟いた。