冨士谷あつ子さまより、WANあてに、鹿島光代さんを追悼するお手紙をいただきました。転載許可をいただきましたのでここに掲載いたします。(WAN編集担当)

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WANのみなさま
上野千鶴子さま

冨士谷あつ子でございます。
ドメス出版の編集者、鹿島光代さんの訃報につき 取り上げられ、感銘深く存じました。

私は元来、もの書きであって研究者ではありません でした。30代半ば、新聞のコラムにストでしたが、 行政から依頼を受けて半官半民の女性のための生涯 学習団体の世話をすることになり、その活動に対し 1975年に読売教育賞受賞。『三十歳からの出発』 その他の単著刊行を勧められ、全国各地に講演 に招かれていました。勉強不足のくせに、です。

 講演先で恥ずかしいことに母校の恩師と出会い、 優しく諭され、博士学位論文を執筆することになり ました。還暦手前の挑戦でしたが、いいトシをして からの博士学位取得という事で新聞記事になり、 それを御覧になったドメス出版の鹿島光代さんが 京都の拙宅に来られました。

 どういう訳か私は、思いがけないことに専任 教授として武庫川女子大と福井県立大学に続いて 招聘されていましたが、幸い福井県立大学は研究 環境に恵まれたところで、出版助成が出され、 これによってドメス出版から『日本農業の女性学』 を上梓いたしました。
 一般に女子労働については非農林業の事例研究 が多いですが、1980年代にはまだ農林業での女性 労働が盛んな割に地位が低く、自分名義の収入や 財産に恵まれず、有職者中、女性の自殺が最も多 いのが農業だったのですね。こういう状況の克服 が諸種の生涯学習機会との出会いでした。
 おかげさまで当時、交流のあった女子農業従事 者の方々とは、今も交信があります。オバサン同 士と自認した間柄だったからでしょう。

 非農林業領域の論考が多い出版界ですが、ドメス 出版の鹿島光代さんの着眼に心から敬服いたします。
 私は、日本ジェンダー学会の有志と「ジェンダ ー平等推進機構」という集いを設立し、政治分野 における女性の参画推進に男女共同参画方式で取り組 み、フォーラム『フランスに学ぶパリテ法の成果と 課題』をZOOMと対面で、日仏研究者ともども 開催し、2022年初春に明石書店から共編著者と して刊行します。
 趣旨を理解される編集者が、おられてこそ書籍 出版は成立します。私よりも少し年長であった 鹿島光代さん御業績を、WANの関係者による 彼女への弔いのお言葉から、一層、深く彼女の 業績を理解できました。寄稿者が増えるといい ですね。

京都文化創生機構理事長 ジェンダー平等推進機構理事長 冨士谷あつ子