
WANでは、性差別の撤廃・ジェンダーバイアス解消の課題認識を含む、または反差別の立場からセクシュアリティに関する新しい知見を生み出している博士学位論文の情報を収集し、「女性学・ジェンダー研究博士論文データベース」(WSGSDDB)に登録・公開し、広く利用に供しています。同データベースに登録されている論文を、多様なバックグラウンドをもつWANのコメンテイターが読み、コメントし、意見を交わす機会を設け、執筆者に、大学や学会とは異なる、研究発展の契機を提供することを目的に「WAN博士論文検討会」を立ち上げました。
その第1回を、WAN女性学・ジェンダー研究博士論文データベース担当と上野ゼミが、以下の通り共催しました。
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日 時:10月9日(土)13:00~15:00
開 催:オンライン
参加者:28名
内 容:
第1部
報 告 福村 真紀子(茨城大学大学院理工学研究科工学野助教)
生活者のLifeを支える「ことばの学び」を促す地域日本語教育とは何か -結婚移住女性のエスノグラフィーから見る理念と方途- . 博士(日本語教育学). 早稲田大学. 2020
対 話 福村 真紀子×亀田温子(WAN女性学ジャーナル編集委員)
意見交換
第2部
報 告 真野 孝子(WAN会員)
戦後女性詩にみるセクシュアリティのトラウマと山姥の表象―吉原幸子と白石かずこを軸にして. 博士(文学). 法政大学. 2020
コメント伊藤 比呂美(WAN女性学ジャーナルコメンテイター)
意見交換
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第1部では、はじめに執筆者福村真紀子さんが、研究の概要、日本語教育学の研究である本研究のジェンダーイシューとしての側面、今後の実践について報告されました。
報告を受け、コメンテイター亀田温子さんが、論文には表されていない執筆者の意識を引き出すことを意図して、福村さんと、「結婚移住女性」を対象とした理由、「学習者」ではなく「生活者」という対象設定での今後の研究展開、日本語教育学研究における「母語話者支配のイデオロギー」に関する議論、社会教育や成人学習の実践・研究との交差、自身にとっての博士論文の意味、について対話されました。対話を通じて、本研究が、男性パートナーの生き方・選択に自らを合わせていくことで多くの変更・断念・逸失を余儀なくされる女性の当事者性から発意されたことや、博士論文の構想から執筆まですべてが地域日本語教育実践者としての自身との徹底対峙の実践であったこと、本研究が文字通り女性学研究であったこと等が明らかにされました。
意見交換では、依拠した理論、研究方法の概念、知見の解釈等について質疑が行われました。
第2部ではまず、執筆者真野孝子さんが、参加者が事前に配布された論文概要資料を予め読んでいることを前提に、論文執筆の経緯、論文の政治的位置、今後の展望について報告されました。
次いで、コメンテイター伊藤比呂美さんが、吉原幸子と白石かず子という対象選択、女性詩人の系譜における吉原幸子と白石かず子、山姥という表象等についてコメントするとともに、詩作者としての所感を述べ、真野さんが応答されました。
意見交換では、吉原幸子と白石かず子の時代および詩壇における位置づけの必要、意図や定義の明確化の必要、執筆者にとっての、中年期以降からの研究キャリア開始や博士論文の意味等についてコメントと質疑が行われました。第1部同様、博士論文の構想から執筆まですべてが、フェミニスト、文学研究者としての自身との徹底対峙の実践であったことが語られたことが印象的でした。
参加者アンケートでは、回答者の86%が、十分または概ね「参加目的が達成された」と回答し、次のような感想・意見が記されました(順不同)。
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*学ぶことが沢山あり、充実した時間を共有させていただいた。「解釈実践は暴力になる」の言葉に胸をつかれる思いがし、論文の影響力と責任を再認識した。
*コメントにあったように、博論は大量に作成され、読まれずにいることを実感しており、WANでこのように博論が登録され取り上げられることはありがたい。コメントされた方々の貴重で迫力のあるコメントをうかがうことができて一応満足だった。ただ一点、私は、アカデミズムは起源的・歴史的に女性を排除することによって成立して来、そのために女性学を立ち上げる必要があったと理解している。だからWANでは、多様なバックグラウンドをお持ちの方のいろいろな意見・感想を得られることが良く、その意味で、一般参加者の自由な発言を聞く時間があればなお良いと思う。
*論文執筆者の発表時間をもう少し長くしていただきたい。仕事をしながら自分の研究分野以外の博士論文を読むのは時間的制約があるので、要旨程度は発表に含めていただきたい。
*時間通りに進んだこと、発言者の皆さんのお話が非常に聞きごたえがあったこと、論文を提供して下さった皆さんの熱意、素晴らしかったと思う。企画されたことに感謝する。
*論文を読み、質問を1つずつ用意して臨んだが、やりとりに圧倒され、また、コメントの中で問は解消されてしまったので言わなかった。私も、今年度中に提出予定の博論をやがてこの場で発表したい。
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ここからまた新たな展開やつながりが生まれるに違いないことを確信するひとときとなりました。引き続き、12月12月(日)に第2回、3月13日(日)に第3回を開催の予定です。第一歩を踏み出したWAN博士論文検討会が、WANらしい/WANならではの事業として鍛え上げられていくことを願ってやみません。
文責:WAN博士論文データベース担当 内藤和美
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