史料作成のためのインタビュー調査と資料収集: 日本の第二波フェミニズムにおける当事者主体の女性運動と展開の記録 ―「AKK女性シェルター 」からDV防止法制定へ―

1993年4月、「AKK女性シェルター」という暴力被害女性のためのシェルターが開設され、2004年4月までの12年間活動しました。「AKK女性シェルター」は、AKK(アディクション問題を考える会)の活動から生まれました。AKKは、アルコール・薬物・ギャンブル・ゲーム・買物等種々の依存症の当事者と家族の相談支援、依存の問題の社会的発信、依存症予防のための地域ネットワークつくり等の活動を行ってきた市民団体です。
 「AKK女性シェルター」の開設と運営には被害当事者が中心的役割を果たしました。また、1990年代後半からは、民間の暴力被害女性シェルターの全国ネットワーク化を主導し、さらにDV防止法制定に向けた活動を展開しました。そこに見られる「当事者の主体的参画」や、点(個々の主体の変化)から、点と点のつながり(変化の共鳴・拡がり)へ、そして面(社会の変革)への「エンパワメント」は、日本の第二波フェミニズム運動を特徴づけるものと言えます。
 わたしたちは、第12期WAN基金の助成を受けて、AKK女性シェルターの設立からDV防止法制定への関与に至る一連の活動展開を日本の第二波フェミニズム運動の典型的一事例として詳細に記録し、その歴史的役割・意義を次代に伝承する史料の作成に着手しました。

  【事業全体の計画】
 史料作成全体の計画は次の通りです。
実施期間:2021年11月~2023年3月
実施内容:
1.「AKK女性シェルター」の活動に関する文献資料の収集
2.「AKK女性シェルター」メンバー・関係者へのインタビュー調査の実施
3.収集した情報・データの整理、分析、統合
4.史料の原稿作成
5.史料の公表形の決定、公表準備
6.完成した史料の、WAN、大学の女性学/ジェンダー学研究機関、女性関連施設へ所蔵促進

【第12期WAN基金助成金による実施内容】
 前項事業全体の計画のうち、以下を2021年度WAN基金助成金により実施しました。
1.「AKK女性シェルター」の活動に関する文献資料の収集
2.「AKK女性シェルター」メンバー・関係者へのインタビューの実施
3.得られた情報・データの整理、統合
4. 検討結果に基づく史料の内容構成の決定、原稿執筆開始

1.「AKK女性シェルター」の活動に関する文献資料の収集・検討
 AKK女性シェルターの活動に関する文献資料を可能な限り網羅することを目指し、2021年11月~2022年2月にわたり、次の4種の資源より、AKK女性シェルターに関する文献・資料を収集しました。
・WAN「ミニコミ図書館」
・国立情報学研究所論文・雑誌記事データベース CiNii Articles
・国立女性教育会館女性教育情報センター文献情報データベース
・AKK女性シェルター運営委員、インタビュー対象者からの提供
 これらにより「AKK女性シェルター/AWS女性シェルター」に係する論文・記事を41篇、そのほかに会議・イベントの資料等を収録したファイル15種を収集を収集し、内容を検討しました。

2.「AKK女性シェルター」メンバー・関係者へのインタビューの実施 
 AKK女性シェルターの設立・運営、また、シェルターのネットワーク化とDV防止法制定に関わった健在メンバーに、「調査協力依頼書」、「調査の説明と誓約事項」、「同意書」を送付し、インタビューへの協力を依頼しました。
 「調査協力依頼書」には、プロジェクト全体とインタビューの概要、依頼の旨を、「調査の説明と誓約事項」には、プロジェクトの趣旨、インタビュー調査の内容、調査にあたっての説明事項と誓約事項を記しました。説明事項は、参加と中止の自由、聴取内容の録音と逐語録作成、調査結果の史料化と公表等、謝金の支払いを、誓約事項は、聴取内容と録音データの目的限定使用と管理、録音データと逐語録を扱う者の範囲等を内容としました。
 依頼の結果、AKK女性シェルターの設立と活動に関わった4名、シェルターのネットワーク化とDV防止法制定に関わる活動を担った2名計6名から協力の応諾が得られました。
 文献資料の検討と意見交換を通じて、次のように調査内容を準備し、対象者によって、この中から必要な事項をお聴きすることとしました。

〔インタビュー調査の内容〕
1.AKK女性シェルターの開設
①AKKの活動から女性シェルターが生まれた経緯
②AKK女性シェルターの開設
2.AKK女性シェルターの活動
①活動内容とその特徴
②管理運営と財政
③シェルターの閉鎖と活動の展開
3.シェルター間の連携・ネットワーク化、全国シェルターネットワーク設立への運動展開
①第4回AKK女性シェルター活動報告会+ジョイント・シンポジウム 1997
②女性の暴力・駆け込みシェルターネットワーキング(現NPO法人全国女性シェルターネット)の設立 1997
③女性への暴力・駆け込みシェルターネットワーキング 第1回札幌シンポジウム 1998
4.全国シェルターネットワークからDV防止法制定に係る活動への運動展開 ①法制定への働きかけ
・第2回全国シェルターシンポジウムinにいがた1999
・全国女性シェルターネット2000年東京フォーラム「私の生は私のもの 女性と子どもに対する暴力の根絶をめざして」
・被害者の人権をまもるDV防止法を!「サバイバーは発言する」2000
②国会議員への働きかけ
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 2021年11月7日(日)~2022年2月14日(月)の間に、メンバー3名で分担し、5名は訪問・対面で、1名は電話でインタビューを実施しました。インタビュー終了ごとに、ただちに録音データを逐語録化しました。

3.得られた情報・データの整理、統合
 聴取事項ごとに、インタビュー逐語録から新たな情報を抽出し、文献知見と統合していきました。

4.史料の構成と分担の決定、執筆開始!
 統合された情報を基に、史料の構成と執筆分担を決定し、原稿執筆を開始しました。

5.事業の完遂布へ
 今後、次の過程を踏んで事業を完遂します。
◦史料原稿の分担執筆と統合
◦出版手段の確保、編集その他出版準備
◦出版
◦図書の、ジェンダー研究関係機関・男女共同参画拠点施設への所蔵促進

史料にはWAN基金の助成を受けたことを記し、WANのロゴマークを掲載します。

シェルター運動エートス研究会