判決後の記者会見
本日(2022年5月19日)午前11時、順天堂大学に対する損害賠償請求事件の判決が言い渡されました(加本牧子裁判長)ので、取り急ぎご報告です。
弁護団では、東京医大、順天堂大、聖マリアンナ医大の三校に対して、それぞれ損害賠償請求訴訟を提起していますが、本判決は、これら一連の訴訟で初めての判決となります(なお、最近、一人の受験生が3つの大学に対して損害賠償請求訴訟を提起した事件で和解が成立したとの報道がありましたが、これは当弁護団で担当させていただいているものではありません)。
*順天堂大学医学部女性差別入試事件判決出る
この度の判決は、順天堂大学側の不法行為責任を認め、大学に対し、13名の原告それぞれへの受験一年あたり30万円の慰謝料(すなわち3回受験した原告であれば90万円)と実費(受験料、交通費、宿泊費)の支払を命じました(総額8,051,714円)。
なお、東京医大と順天堂大学については、消費者機構日本を原告とする訴訟も起こされ、既に判決が出ていますが、あちらの訴訟では、訴訟の性質上、慰謝料などの支払は命じられていません(詳細は「東京医大の受験料返還義務を認める判決:消費者機構日本の共通義務確認訴訟判決についてーー医学部入試における女性差別対策弁護団日記〈連載13〉」をご覧ください)。
順天堂大学は、合否判定の在り方は高度の裁量権が認められるべき事柄であり、大学の女子寮の収容人数ゆえ、男女で異なる合格判定基準を用いた入試を実施したことも大学の裁量権の範囲として合理性があり、学生募集要項等で明示する必要もない、募集要項やアドミッション・ポリシーで虚偽の事実を述べたこともない、もし男女で異なる判定基準がもうけられていると知っていても受験を選択する女性受験生も多くいたはずだとして、不法行為は成立しない(責任を負わない)と主張していました。
*性別のみで不利益取り扱いするのは不合理な差別的取り扱い
これに対し、判決は、「私立大学であっても、公の性質を有する教育機関として、入学者の選抜に関しても、憲法及びこれを受けた公法上の諸規定の趣旨を尊重する義務を負っている」とし、「本件判定基準がもうけられたことの合理的な根拠は見当たらず、性別という属性のみによって一律に不利益な取り扱いをすることは、本来医学部の入学試験の目的であるはずの医師としての資質や学力の評価とは直接関わりないのない事柄によって合否の判定がされることになるから、本件判定基準は、不合理な差別的取扱いである」と明確に述べました。この点、まさにその通りだと思います。
また、順天堂大学は、本訴訟のなかで女性を不利益に取り扱ったのは女子寮の収容人数のせいだと主張していました(なお、順天堂大学は以前、女子学生の「コミュニケーション能力が高い」ことを理由にあげていたことがありましたが、本訴訟ではさすがに?その主張はしていません)。
しかし、本判決は、収容人数が大きく増加した時期と連動して女子合格者数が増えてはいないことや合格者選考会議や教授会で収容人数のことが説明されたり審理された様子もないこと、収容人数に応じた定員を定める方法が検討された形跡もないことなどから、「本件判定基準がもうけられた理由が女子寮の収容人数の限界という点にあったとは認められない」と断じました。
すなわち、本判決は「なるほど、女子寮の収容人数という問題があったのね。でも残念ながらそれは理由としては合理的とはいえないのよ」とやんわり退けたのではなく、女子寮の収容人数のせいだという大学の主張自体を「いやいやそんなわけないやろ」と一蹴したわけです。結局、順天堂大学がなぜ女子受験生を差別することにしたのか、本訴訟では分からず仕舞いでした。
そして、本判決は、「(入試への応募は)その後の人生や職業に影響を与え得る極めて重要な意志決定に係る行為」であり、大学には「入学試験に応募するに当たり「誤った情報の下に意志決定を下すことがないように必要な情報を提供すべき信義則上の義務があった」として、男女異なる判定基準の存在を秘して原告らを受験させた行為は、この義務に反しており、受験生の意思決定の自由を侵害したものとして不法行為にあたると判断しました。
以上のように、本判決が、性別という属性のみによって一律に不利益な取扱いをした本件判定基準は「不合理な差別的取扱い」であり、このような入試を原告らに受験させたこと自体が不法行為であったことを明示したこと、本件判定基準ゆえに合否を左右されたか受験生であるか否かに関わらず、全ての受験生に慰謝料(及び受験料・交通費・宿泊費)の損害を認めたことなどは、とてもよかったと思っています。
*低すぎる慰謝料
他方、本判決で残念だったのは、ずばり慰謝料額です。
1年度の受験あたり30万円という慰謝料の額は、女性差別に対する評価として低すぎるのではないでしょうか。
上述のとおり、判決は、本件不法行為を受験生の「意思決定の自由の侵害」としていますが、この入試は、単なるイカサマ入試だったのではなく、直接的な「女性差別入試」でした。「女性であること」を理由に平等に取り扱われないこと、直接的な差別をされることがいかに屈辱的であり、差別された者がいかに大きな精神的苦痛を受けるのか、性差別がどれほど個人の尊厳を傷付けるのか、裁判所には、この点にしっかりと向き合い、適正な慰謝料額として評価してほしかったと思います。
また、判決は、不正発覚後、大学が公平かつ妥当な入試になるよう是正措置をとったことをもって「原告らにとっても一定程度その精神的苦痛を緩和する意味合いを持つと解される」と述べ、慰謝料額を押し下げる要素としました。
しかし、発覚したにもかかわらず以後も不合理な差別的取扱いをやめなかったらそれこそ問題であり、是正措置を取るのは当たり前のことではないでしょうか。それどころか、順天堂大学は、将来の入試について是正措置を取ったとはいえ、自分たちがこれまで行ってきた入試はあくまで合理的なものであり不法行為ではないと強弁し続けてきたのです。将来の入試が公平に行われるようになったからといって、原告たちの傷が癒えるものでは決してありません。
また、本件判定基準ゆえに不当に一次試験で不合格とされた原告さんについて、慰謝料額が上乗せされなかったことも残念だったと考えます。
このように、本判決は、性別という属性のみによって一律に不利益な取扱いをした本件判定基準は「不合理な差別的取扱い」であるとはっきり述べ、本件判定基準ゆえに合否を左右されたか受験生であるか否かに関わらず、全ての受験生に慰謝料(及び受験料・交通費・宿泊費)の損害を認めた点などはとてもよかったと思いますが、慰謝料の点が残念でした。
原告側で控訴するかどうかは、これから原告の皆さんと検討させていただきますが、控訴するしないに関わらず、9月に予定されている東京医大判決、まだ続く聖マリアンナ医科大学の事件もありますので、弁護団、まだまだ頑張ります。是非応援お願いします!
*原告からのメッセージ
最後に、判決を受けて原告さんがコメントを寄せてくださいましたので、掲載します。
【原告Aさん】
法の裁きによって不法行為と認められたことはよかったですが、それでも時間は戻ってきません。
順天堂大学の入試の対策に要した時間、授業料や受験料、それらのお金をまかなうために勉強時間を削ってアルバイトした時間や労力、合計すると慰謝料の金額よりも何十倍にもなります。
私立大学の中で学費捻出が可能なため受験校に選びましたが、初めから男尊女卑をする大学とわかっていれば、絶対に受験校から除外していました。
確固とした信念を持って医師を志していた受験生が、医師への道を閉ざされ泣く泣く別の人生を歩んだということを忘れないでほしいです。
【原告Bさん】
このような判決となり、非常に嬉しく思っております。クラウドファンディング下で弁護士の先生方には大変御尽力をいただきました。本当にありがとうございます。
今回の判決で一番嬉しかったのは、「性別による差別を憲法14条1項の趣旨に違反する」という解釈がされたことです。この裁判は性別による差別が主題でした。しかし世の中には、他にも本人の努力以外の要因でさまざまな差別や評価がなされている事例が数多くあると思います。今回の判決が、今後の差別や判断基準のひとつとして前例になってくれると嬉しいなと思います。
また、「本件大学を受験するか否かあるいは他の大学を受験するか否かについて、自由な意思により選択する機会を奪われ、」という言及があったことも嬉しく思います。
個人的な事情ではありますが、理由は二つあります。一つ目は、順天堂医大の受験日がセンター試験明けすぐであるため、センター試験対策から私大対策への切り替えやスケジュールの組み方に非常に労力がかかったということ。
もう一つは浪人1年目の順天堂医大の二次面接の日程が、他の私立医学部Aの二次面接と重なったことです。当時の私は志望順位の高かった順天堂医大の面接に進みました。結局実力不足で順天堂医大は不合格となりましたが、浪人2年目の受験で私立医学部Aに進学することになりました。
順天堂医大を受験することを決めたのは私自身です。そのため浪人したことや順天堂医大を受験したこと自体に悔いはありません。不合格も自分の実力不足だったのだと思います。
しかし、順天堂医大で男性と女性の合格率に差があると事前に知っていたら、順天堂医大を受験していたかはわかりません。とても複雑な気持ちでした。
また本件とは異なりますが、東京医科大の不正入試問題が発覚したのは、私の4年次の夏季CBT試験の頃でした。試験前にとても大きなショックを受けたことを覚えています。
すでに順天堂医大では入試において是正措置が取られていると聞きました。是正措置をとったことで、順天堂医大の受験倍率が上昇したとも聞きました。
順天堂医大で行われている医学教育そのものは優れていると思っております。また、性差別があった上で合格された女子医学生の方々は平均よりさらに優秀なのだと思います。医師ひとりあたりにかかるコストを考慮すると費用対効果を考えたくはなりますが、それはまだ医学部生にもなっていない受験生たちの責任ではないと思います。
今後も未来ある優秀な学生に、歪んだシステムの皺寄せがいかないよう願っております。
【原告Cさん】
女性医師を育成するのは割にあわないと思っているのかもしれませんが、周囲のサポートがあり長時間労働が可能な男性医師が大部分を占める多様性のない職場で、様々な背景を抱えた患者さんに寄り添った治療ができるのか、そういった職場で働き続けたいと思うスタッフがどれだけいるのかかなり疑問です。医師の働き方改革の面からしても、性別に関わらず様々な人が働きやすい病院であることが、これからの医療従事者が働く病院を選ぶ基準になってくると思います。国民の方々にも、医師の長時間労働の問題と女性医師差別の問題が密接に関わっていることを知っていただきたいです。
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