「結婚」について考える最強の一冊

日本では明治民法を踏襲した現・婚姻制度の改革に大きな壁が立ちはだかっている。
婚姻制度は、国が法的・経済的・社会的手当を配分する社会制度である。「結婚」したい人たちがこの制度へアクセスすることに、同姓や異性でないことによる制限を設けることは公正といえるのか。
本書は、「結婚」によってもたらされる公的支援は全ての人にアクセス可能でなければならないとしてブレイクが提唱した「最小結婚」をもとに、7人の執筆者がそれぞれ専門の分野から「結婚」について考察した論集である。
そもそも分厚い『最小の結婚』は読んでいないというという方々に、第1章冒頭の「最小結婚」についての要約を紹介する。

「現代の結婚は、異性恋愛にもとづいて、その延長形態として制度化されているが、それを転換し、結婚を、異性恋愛ではなく友愛を基礎として、人と人とが互いにケアし合う関係性の制度にすべし。異性恋愛ではなく友愛に基礎を置くことによって、結婚における生殖の位置は相対化されるから、結婚においては、(1)パートナーとの関係性と、(2)出産や育児とは、別の要素として分離されるべし。そして、結婚の内容的な多様性が守られるためには、結婚の本質内容の規定は「最小に」留めなければならない(これが「最小結婚」の意味)。そうすれば、同性婚はもちろん、ポリアモリー(同時複数恋愛)もまた「結婚」に含まれるだろう。」

「結婚」を性愛関係(性愛規範性)から解き放ち、ケア関係を中心にすえれば、「結婚」というものが違うものに見えてくる。
さて婚姻制度改革に立ちはだかる壁は崩すことができるのだろうか。2022年夏、元首相が銃撃され死亡した衝撃的な事件で図らずも明るみに出たのは、某カルト的宗教教義にシンパシーをもつ議員達が国会の議席の多数を占めているという現実だった。本書を読了しても永田町の勢力図は変わらないが、「どうしてひとつの宗教集団の感覚から生じた道徳観や神聖な神の定めが私たちすべての選択肢と可能性を制限するのかを問う必要がある」(ファインマン)。
「結婚」について考えるなら本書の議論は最強です。

[目次]
第1章 「結婚」に求めるものは「人それぞれ」──『最小の結婚』の主要論点(植村恒一郎)
第2章 結婚式のデモクラシー──限りあるなかでの平等を求めて(横田祐美子)
第3章 一夫一婦制を超えて/のなかで生きる──米国ポリアモリーの現在(深海菊絵)
第4章 「結婚」はどこまでも必要なのか?──ケア関係からの照射(岡野八代)
第5章 結婚よ、さようなら(志田哲之)
第6章 婚姻制度の廃止か、改革か?──パートナー関係への国家介入について(阪井裕一郎)
第7章 性愛規範を超えて──最小結婚と非性愛的ケア(親密性)関係(久保田裕之)

◆書誌データ
書名 :結婚の自由: 「最小結婚」から考える
著者 :植村恒一郎、横田祐美子、深海菊絵、岡野八代、志田哲之、阪井裕一郎、久保田裕之
頁数 :256頁
刊行日:2022/11/15
出版社:現代書館
定価 :2750円(税込)

結婚の自由: 「最小結婚」から考える

著者:植村 恒一郎

現代書館( 2022/11/15 )