21世紀に入り、差異や多様性をめぐる議論はますます活発になっている。ジェンダーやフェミニズムへの関心が高まる今、ジェンダー研究の動向を振り返り、差異や多様性に対して開かれた社会をどのように創造していくのか改めて考えることが、ますます重要であると思われる。
本書は、その試みの一つである。2019年に開催された明治大学情報コミュニケーション学部ジェンダーセンター設立10周年記念シンポジウム「21世紀の多様性と創造性――学術・アート・ファッションにおける新展開」を基に、差異・多様性に関する議論をリードしてきたジェンダー研究の新たな展開やジェンダーをめぐる社会動向を振り返るとともに、ジェンダー研究を通して、またその枠を超えて差異・境界について考える試みとして、ジェンダー研究者以外の専門家の論考も収めた内容となっている。
「今世紀転換期のジェンダー研究」と題された第一部は6つの章から成る。雇用、社会運動、歴史、人種、インターセクショナリティ、スポーツ、セクシュアリティ、暴力・ハラスメントなど、多岐に渡るテーマについて各分野を代表する研究者が執筆している。無論ジェンダー研究の全てを網羅してはいないが(またそれは不可能であろうが)、ジェンダー研究の今を知る上で、また初学者にとっては「入門書」として貴重な資料となるであろう。
「デジタル社会における多様性とメディア、アート、ファション」と題された第二部では、ジェンダーに関する章もあるが(デジタルテクノロジー、ファッションメディアに関する二章)、その他はアート、ファッションといったジェンダー研究以外の領域における差異や境界に関する議論を取り上げている。一見、ジェンダーと関係がないようにみえるかもしれないが、ジェンダーだけでなく様々な差異・境界にまつわる実践・過程について知ることが、ジェンダーについて考える上で、また今後のあるべき社会の姿を構想する上で、重要だと考えた。
そのような営みに、本書が少しでも貢献できれば幸いである。
---
◇目次
序文
第I部 今世紀転換期のジェンダー研究
第1章 日本におけるジェンダー研究の新展開――非正規化と多様化の中で(江原由美子)
第2章 フェミニズムにおける過程的インターセクショナリティと闘争――ドイツと日本の比較(イルゼ・レンツ/訳・加藤穂香)
第3章 歴史学におけるジェンダー研究の展開――アメリカ史の場合(兼子歩)
第4章 スポーツ・ジェンダー学における新展開(來田享子)
第5章 日本における性的マイノリティ受容の陥穽(風間孝)
第6章 セクシュアル・ハラスメント研究のこれまでとこれから(高峰修)
第II部 デジタル社会における多様性とメディア,アート,ファッション
第1章 メディア論と芸術の変容(大黒岳彦)
第2章 メディアアートの過去・現在・未来――キュレーターの軌跡から(四方幸子)
第3章 デジタルテクノロジーとジェンダー――ソーシャルメディア,データ,人工知能をめぐる権力論に向けて(田中洋美)
第4章第 デジタル社会におけるファッションメディアとジェンダー表象(高馬享子)
5章 社会現象としてのファッション――デジタル化により加速する記号化(小石祐介)
対談1 生命・身体・社会へ――境界を問うアートの新地平(森永邦彦/シャルロッテ・クロレッケ/岩崎秀雄/シュー・リー・チェン/四方幸子)
対談2 日常,アイデンティティ,メディア――境界を問うファッションの新地平(アニエス・ロカモラ/小石祐介/門傳昌章/高馬京子)
明治大学情報コミュニケーション学部ジェンダーセンター沿革・活動記録
◆書誌データ
書名 :デジタル社会の多様性と創造性――ジェンダー・メディア・アート・ファッション
著者 :田中洋美・高馬京子・高峰修(編著)
頁数 :274頁
刊行日:2023/2/14
出版社: 明治大学出版会
定価 :3,080円(税込)
2023.04.18 Tue
カテゴリー:著者・編集者からの紹介