ひとり親支援の柱はEmpowerment

 日本でも韓国でも、生活困難なひとり親世帯を支援するための公的支援策があり、民間の支援団体がさまざまな支援を行っています。しかし、韓国のひとり親支援策やひとり親支援団体の理念は、日本と大きく違っているのです。
 10年ほど前に、ソウルで、全国未婚母家族協会の代表であったモク・キョンファさんと出会って、当時の韓国においては未婚で妊娠することや未婚母になるという選択をすることの厳しさを知りました。同時に、未婚母の当事者である彼女が、仲間とともに、全国未婚母家族支援協会を立ち上げて、未婚母が子どもとともに元気に暮らせるようにと、パワフルに活動されている様子に強く感銘を受けました。今では、韓国におけるひとり親支援の中心は未婚母支援となっており、全国各地に未婚母支援のグループホームが設置されるまでになっています。
 ソウル市のひとり親支援策について担当者から話を聴かせていただいた時に何よりも印象的だったのは、ひとり親と子どもたちへの差別や偏見をなくすために啓発に力を注いでいるという点でした。
 また、複数の民間支援団体の訪問では、30代、40代のスタッフたちが、労働者の権利や女性の人権を当たり前のこととして強調されていて、日本における支援のあり方との違いを再確認しました。
 私たちは、日本と韓国のひとり親支援について学ぶうちに、ひとり親当事者ひとりひとりが自分の意思と選択によって、自らの生活を構築できるようになる支援、さらには、だれか他者を支援する存在になったり、理不尽な世の中を変えていく担い手になりえたりするような支援、すなわち、当事者のエンパワメントの支援が、支援の柱ではないかと考えるに至りました。
エンパワメントとは、まず一人ひとりが本来持っている力を発揮し、自らの意思で自らの生き方を選択できることを意味します。しかしさらに、人々が繋がり、より良い社会への変革をめざす主体になることもエンパワメントの重要な目的です。韓国の支援団体においては、ひとり親当事者のエンパワメントが、自覚的に支援の目的として掲げられています。
 本書では、ひとり親当事者のエンパワメントを支援する具体的な取組を紹介するとともに、支援における課題について提起しています。
 第1章では日韓のひとり親家族の現状を、コロナ禍のもとでの変化を含めて紹介します。第2章から第4章までは、日韓の支援制度と団体の比較を行っています。第5章は、日本の公的機関である男女共同参画センターにおける支援について解説しています。第6章では、日本における移民女性のひとり親家族支援について現状と課題を提起しています。第7章では、韓国の取組を主に紹介しながら、エンパワメントとしてのひとり親の起業支援の現状と課題を紹介しています。第8章では、日韓の非婚母/未婚母へのインタビューから、現状の問題点と、支援がもたらすエンパワメントについて考えました。
 本書が紹介するのは、日韓の当事者の経験、そして支援者の方々の取組の一端です。それでも、類書のないユニークな内容であり、これからの様々な可能性を指し示すものとなっていると思います。本書が、お隣同士の日本と韓国と、ひとり親当事者の方々、そして支援なさっている方々にとりまして、さらなるエンパワメントのお役に立ち、家族の多様性とリプロダクティブ・ライツを尊重する社会への変革につながればと願っています。

◆書誌データ
書 名:ひとり親のエンパワメントを支援する-日韓の現状と課題
編著者:神原文子・田間泰子
頁 数:208頁
刊行日:2023/2/22
出版社:白澤社
定 価:2,420円(税込)

ひとり親のエンパワメントを支援する: 日韓の現状と課題

著者:神原 文子

現代書館( 2023/02/22 )