2021年の国際女性デーには「生理の貧困」が注目されました。ところで皆様は、月経と女性の労働生活を論じるに欠かせない労働基準法の「生理休暇」は、戦時中の女性の労務動員を経て、敗戦直後に制定されたことをご存じですか?
 本書は、戦時期日本の女性労務動員についての歴史的・実証的研究から、現代日本にも通じる、女性労働者の生計を立てるための稼得労働と妊娠、出産、育児に関する課題を照射した書籍です。以下の8章立てになっており、読者の皆様の気になるところから読み始めていただいても、内容をご理解いただきやすいように工夫しました。

序 章  戦時期日本の働く女たちに関する研究のこれまでとこれから
第一章  一九二〇年代から一九三〇年代の女性の就業状態
      ――労働運動の指導者と研究者の視点から見た働く女たち
第二章  未婚女性の労務動員のための「戦時女子労務管理研究」
      ――労働科学研究所の古沢嘉夫の視点から
第三章  既婚女性労働者の困難
      ――妊娠、出産、育児期の女性たち
第四章  女性たちの労務動員に対する態度の多様性と政府の対応策
第五章  赤松常子の主張と産業報国会の取り組みとの齟齬
      ――既婚女性の労働環境をめぐって
第六章  戦時体制が残した女性労働者の健康への視点
      ――生理休暇の現代的意義
終 章  戦時期日本を生き抜いた働く女たち

 本書は、激動の時代である戦時期日本における女性労働者の多様性を把握するという視点をもっています。先行研究では「女性」として、ひとかたまりにして論じられがちであった戦時期の女性たちの多様性に光を当てたことに、本書の独創性があります。一面的ではない戦時期日本の働く女性像を明らかにした本書は、保育所の待機児童問題や、仕事と家庭の両立に関する課題、労働環境と健康との関係性に関する問題など、現代日本にも通じる女性労働者の労働環境の課題を浮かび上がらせました。
 戦時期の日本政府は、現代と同様に既婚女性には稼得労働と世代の再生産の二重の期待をかけました。これら既婚女性の労働環境の考察に手がかりを与えるものとして、本書では現代にも続く研究機関である労働科学研究所の研究者や、産業報国会指導者であり戦後は初の女性参議院議員のひとりともなった赤松常子などの女性指導者たちの活動に光を当てました。彼女たちは戦時中に、稼得労働と世代の再生産との両立をおこなう既婚女性の労働環境の問題点を指摘していたのです。
 しかしながら、戦時期における既婚女性労働者の労働環境への配慮は不十分なままでした。ただし、戦時期における研究成果や、女性労働者保護に奔走した赤松などの女性指導者の想いが、戦後、労働基準法のいわゆる「生理休暇」として結実することとなります。戦時期に進展した月経に関する調査研究が、平和を希求するという性格のものではなかったことは否めません。ただし、働かなければ生きていけない女性労働者を厳しい労働環境から保護しようと、女性の健康問題を主張した研究者がいたのです。そのような研究者や、赤松などの女性指導者たちの活動が戦後の「生理休暇」に繋がっています。
 赤松は敗戦直後の労働基準法制定時、既に、生理休暇だけに頼らない、女性労働者が健康に配慮されながら働ける未来を展望していました。しかし、未だ現代日本において、女性労働者に対する健康への配慮は十分ではありません。本書は、戦時期の歴史研究ではありますが、現代的な女性労働者の労働と生活の課題を照射しています。本書がジェンダー平等な労働環境を目指す試みの一助となればと願います。(ほりかわ・ゆうり)

◆書誌データ
書名 :戦時期日本の働く女たち ーージェンダー平等な労働環境を目指して
著者 :堀川祐里
頁数 :244頁
刊行日: 2022/2/28
出版社:晃洋書房
定価 :4,950円(税込)