
先日のTV番組で、ある大学の工学部の女子枠と女性教授登用について伝えていました。今春から女子枠を設けたため、女子学生が工学部にいつもの年より多く入学した、と伝えて、新入生の女子学生たちの笑顔を映していました。その女子学生たちのロールモデルとなる女性の教授も登場して、学生たちに、自分の好きなことを見つけなさいと励ましていました。
この大学には保育所も設けられ、子育て中の院生や若い教員らしき人が子どもを預けに来る場面も映していました。そして男性の教授が、子育て中の女性は研究に専念できないから教授になれないというのでなく、子育てが終わったらもっと実力が発揮できる、子育て後の伸びしろが期待できる、それを見込んで、教授に昇進させると話していました。
女の子は、理系に進むと結婚できなくなるからやめたほうがいいと言われ、いい家庭の主婦になればいいのだから高い教育を受ける必要はないと四大志望を諦めさせられ、都立高校で女子の合格点をより高くされるなどなど、女子はさんざんハンデを背負わされてきたのですから、どんどん女子枠でも設けて今までの差別のしりぬぐいをしてくださいと言いたいところです。女子枠を男性差別とか不公平などと遠慮する必要は全くありません。
そして、子育て中の女性でも将来の伸びしろを見込んで教授にするというのも、もともと教授たちが大学院を出たばかりの教え子男性を各地の大学の専任のポストに送り込むのも、それぞれ伸びしろを見込んでのことでしょう。ですから、特に子育て中の女性に子育て後の伸びしろと言われるのも、なんだか恩着せがましく聞こえます。要するに、子育ての負担を女性だけに負わせるところを根本的に見直さないとその場しのぎになりかねません。そうではあっても、女性の教授がたくさん生まれるのは、それはそれでとてもいいことです。
工学部で学ぶ女子学生を増やし、そのモデルになる女性教授を増やすのが、その大学が他の大学に先駆けて取っている画期的な方針のようでした。その方針を推進する男性教授は、おおむね次のように語っていました。「意思決定の場に女性を多くすることが必要だ、女性の視点をもっと取り入れなければいけない、それをしないと国際戦略に勝てない。これは、いまや産業界からの要求でもある。」
それを聞いて、わたしは白けてしまいました。え?そういうことなんですか?「女性の視点」てなんですか? 女子学生や女性教授を増やすのは、国際戦略に勝つためなんですか?と。
意思決定の場に女性が多くいるようになることは大賛成です。しかし、「女性の視点」は困ります。日本に女性は6000万人います。それぞれ自分の視点は持っているでしょうが、それをまとめた「女性の視点」というようなものがあるのでしょうか。そのうちのどれを「女性の視点」というのでしょうか。
従来の男性中心の視点では国際戦略に勝てない、だから「女性の視点」が必要だというのでしょうが、そもそも従来の「男性の視点」のどこが足りないから勝てないのか、考え直した方がいいと思います。もちろん、今まで男性が主導してきたやりかたでは国際戦略に勝てないのはわかります。それを「男性の視点」だったから勝てない、「女性の視点」を加えたら勝てる、というのでしょうか。それでは全く解決になりません。同じことを繰り返すだけです。「男性の視点」とか「女性の視点」とかがあるはずはない。勝てないのは「男性の視点」というような男性全部を代表する視点のせいではなく、今まで産業界をリードしてきた男性たちの視点がよくないからなのです。それを改めて、勝てるようにするためには、この社会に生きる人々や自然にとって必要なもの、好ましいものをどう提供するかについての新たな戦略を立て直すことが必要です。その新しい戦略を立てるために従来の男性中心の硬直した頭では行き詰ってしまって、活路は見いだせない、だから新たな発想が期待できる女性の力がほしい、というならわかります。
そういう力を持った女性を育てるために女子枠を設け、女性教授を増やすというなら話はわかります。ですが、その女性たちにとって、そこで受ける教育や処遇が、個々の女性にとって、好きなこと・やりたいこと・生きがいであること・自分のことが自分で決められること、でないといけせん。行き詰った男性中心社会を立て直すために送り込まれる救世主であっては困ります。それだと、「日本の少子化を防ぐために子どもを生め」と言われることと同じになってしまいます。「国際戦略に勝つために女性を活用」するのでは、やはり女性は手段であり道具になってしまいます。道具だと、用がなくなったらポイと捨てられてしまいます。
女性が学びやすく、研究しやすい試みをしている先駆的な大学の紹介でした。学内に保育所を早くから設け、学童保育も実施している、確かに進んだ大学でした。そういう取り組みをしている大学の教授のことばに、ケチをつけたくないのですが、「国際戦略に勝てない」を掲げられると、いや、ちょっと待ってくださいと言わざるをえないのです。
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