日本の第三波?
さて、日本では、本格的な第三波フェミニズムは起こらなかったという見解もありますが、海外で目立つある活動にたいし、日本ではそれらはなかった、という言い回しがしばしばなされることがあります。
たしかに、そういった気運が高まりにくかったという意味では有用な声であると感じますが、実際にその運動に関わった人たちに、あなたたちは力を持てなかったとジャッジする権威主義や、その主張や実践を「所詮こうに違いない(例えば消費社会的な一時期の流行など)」、というレイベリングを行う問題も孕んでいるのではないかと思います。また、その運動が実際には今ある何かと連続性を持つかもしれないという流れを不可視化したりつながれたかもしれない何かを分断したりする可能性もあります。そういう意味でも、第三波フェミニズムとひとくくりに論じることにももちろん注意は必要なものの、その時期に起こった新たなフェミニズムの傾向にもまた、それまでの第二波(と認識されたフェミニズム)との葛藤の中で、ある種の反発や、その他方での敬意、アップデートの模索などの調整があったことは記憶に残しておいてもよいのではと思います。
「今月のフェミ的」のインパクト
そんな、十分でなかったと言われてもよい、という前提のもとで、リスペクトや感謝も込め、記され残されたものとして第三波フェミニズムを少しふりかえると、私にとっての第三波はまず、『インパクション』誌(2014年に休刊)の連載(インパクト出版会)、「今月のフェミ的」でした。
99年より連載されたこのコーナーは、2007年に書籍にもなりました。そこでは、「執筆者それぞれの定義による『フェミ』であり、生活の中から問題化され、さまざまな実践を試みられている」(あくまで実践 獣フェミニスト集団FROG編,2007,『今月のフェミ的』pⅠ)フェミニズムが、さらには「『フェミとは思われてないけど、よくよく考えると実はすごくフェミ的!』」「リブやフェミニズムで既に議論されつくしたと言われ『議論終了』サインが点灯している話題」「フェミニズム的な結論が固定化しているものの実際には真っ向から取り組まれてこなかった問題、これまでのフェミニズムの議論からは抜け落ちていた視点や、「くだらない」と思われどこからも相手にされてこなかったコネタ」(前掲書pⅡ)が展開されていました。第三波フェミニズムとの関連については、以下のように書かれています。
個人差や民族性、文化による違いを意識したもの、実践的なもの、多様性を意識しながら共闘する基盤を模索していることなど、第三波フェミニズムの特徴と、「今月のフェミ的」との類似性はいくつもあげることができるでしょう。しかし、そうした分析よりも、もっと多くの人々が、自分の生活の中で持ち上がっているフェミ的問題を話したり解決法を探ったりできる場が必要です。
(前掲書pⅡ)
本のほうの目次からでも、「売春は フェミ的課題が うずまく場」「『恋愛枠』による関係阻害 はまらずにハメるには?」「美女問題 人生四方八方、藪だらけ。いかに拓くかけもの道」 「男女別トイレは、ジェンダー道場 」「 女が男を買う、女性向け性感マッサージの実際」など、いわゆる定番とは異なった、場合によってはその話題そのものが反フェミニズム的とされるような話題に溢れています。私自身も、お笑いについて等少し書かせていただいております。「今月のフェミ的」や、ラブピースクラブのサイトの各連載や読者投稿のコーナーは、フェミニズムの定番を崩す意味でも、多様な視点を持つきっかけという意味でも、それらがフェミニズムに触れる入り口であって本当によかったと思っております。

『駄フェミ屋』の思い出
私自身も即発され、2007年に『駄フェミ屋』というフェミニズムの同人誌を友人とともに作成しました(もう入手できない本でごめんなさい)。星の数ほどいるであろう、でも昼間の星が見えないように、なかなかそれぞれがその姿を確認できない、点在したフェミ的な人たち、そこにある何かを集めよう、といろんな人に話を聞き、作った本でした(駄フェミ屋、で検索したらその当時作ったサイトが、放置してたので広告だらけですが、まだあったので驚きました。編者の駄フェミ屋2号というのが私です)。ちなみに、この活動を「日本女性学研究会」の分科会にする、刊行費用に大阪府の男女共同参画のジャンプ基金を利用させていただく、というのは、教条主義的な(というわけではないですそう思われそうな)古いフェミ、行政に阿るようになった古いフェミ、と言われる中にも第二波の意義はあったという思いと、そこから第三波の連続性をそこに示せるかなという思いからでした。さて、『駄フェミ屋』で私は、このように語っていました。
「女らしさ」には反発するけど「フェミ嫌い」な女性が増加していて、彼女らの存在がフェミニズムの目的を後退させる。と言われていたりします。そうすると、フェミニズムのおかげで自由を獲得できたのに恩知らずだ、とか、彼女らはフェミニズムを部分的にしか見てない、とか、いや偏ったフェミニズムのイメージを作り出したのはメディアの責任だ、などの議論になりがちです。日本におけるフェミニズムが、ちょっとアカデミズムや行政に傾きがちだったのも、誇張されたフェミニストのイメージがメディアで流布されていたのも、社会を問い直すという動き自体が面倒くさがられる風潮がある、というのも、おそらく事実だと思います。そして、もっと議論していかないといけない問題だと思います。
★中略
その後、私は、日本女性学研究会の会員になったり、『女性学年報』の編集などにかかわりながら、「フェミニスト」の方々にぼちぼちお会いする機会も多くなり、そこで気付いたことは、ああ、やっぱりフェミっていろいろだなあ、ということでした。たしかに、いわゆる、フェミってこういうもの、という今まで抱いていたイメージに一致するところも多々あるとは感じましたが(いい意味で!)、そんなことより、フェミって「人の数だけ」。その思いがリアルな確信になったとき、もう一つの疑問が起こりました。たしかに、女性学の研究会だから、フェミニストがいるのは当たり前。
でも、フェミニストって、他にもいろんなところにいるんじゃないか。もしかしたら、私と同じように、自分はフェミだけど、他のフェミニストってどういう人たちなんだろう、と思ってるかもしれない。とか。なかなか、大学のジェンダー系の研究科や活動などに関わっていないと、今の社会ではフェミニスト同士が出会うことって少ないのかな、と思います。
★中略
この本を作るにあたり、一つ思っていたことがあります。それは、いろんなフェミの方々の思いを載せさせていただくわけだから、おそらく、お互いの主張がかみあわないところが出てくるかもしれない。でも、それは否定や調整することなく、そのままにしておきたい、ということでした。フェミニズムってもともと、相反する考え方や立場の人々が絡み合って作り上げられてきたものだと思うので、そういった生フェミをできるだけ尊重したいな、という気分です。まあ、結果的に、そんなに相反することもなく、いろんなフェミが共存できる本になったのでは、と思います。
(駄フェミ屋.com編,2007,『駄フェミ屋』p2-3)
そのころからあんまり成長してへんなあ、と思う今日この頃ですが、その後、いろんな活動にぼそぼそ関わりつつ(波的には第4波?「怒りたい女子会」(2015~)などにも参加させていただいております)、怠け者の魂百まで、柔軟で、自分も他者も尊重できるような、そのために社会のしくみに目を向けられるような、そんなフェミニズムは不可能かもしれないし、自分自身の不十分さや有害さを浮かび上がらせるものでもある。でも目指していく意義はある。そんな気持ちで今もいますが、上記の後半の述べた、さまざまなフェミを優劣つけることなく尊重したい気持ちは、その少し前に『女性学年報』27号(日本女性学研究会)の編集長を引き受けた際にも、表紙に無理やりにでも全論文のタイトルを同じ文字の大きさで載せる、という変なこだわりとしても噴出しておりました。ちなみにその時の全体テーマにフェミニズムは「不燃ゴミ」とつけたのですが、フェミニズムをゴミ扱いするなんて、割と不評でして、でも私も若かったもんで、社会に差別があるからフェミニズムは必要で、そういう意味では、宝物なんかじゃなくっていつかは捨て去れるべきゴミで、でも簡単に社会は変わらないから不燃ゴミ、という半ば強引な気持ちで進めてしまいました(当時の『女性学年報』はたしか編集長が優先的にテーマを決められたような・・)。
・・さて、つらつらとフェミニズムの思い出について書き綴ってきましたが、こういったものも、別のこういったものもフェミニズムなんじゃないか、フェミニズム的だと言われるものの中にもフェミニズム的でないものもある、その逆もあるかもしれない、そのあたりを、それぞれの人が自分を主語に語れるようになることがフェミニズムの財産であるのではと思います。今回もまた、きれいごとのひとつを語るにとどまってしまいましたが、次回はフェミニズムという知についての思いを書かせていただければと思います。
※ちなみにWANでも駄フェミ屋関連で14年前にこんな記事も載せてもらってました。第三波的!と思って実施した「フェミニストのコスプレ」企画というのがあったのですが、それにたいしてもいろんな意見がありました。
【特集・装うことから考える・その2】キラキラよりギラギラ-「ファッション」は誰のため? 荒木菜穂
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