
シリーズIV 第8回はエルス・シュミッツ-ゴーア(Else Schmitz-Gohr) をお送りします。1901年にドイツのケルンに生まれ、同地で1987年に亡くなりました。姉妹にはバイオリニストで歌手だったRia、叔父には高名な指揮者のアルトゥール・ニキシュ(Arthur Nikisc、 1855-1892)がいました。
ケルンの音楽大学とベルリンのシュタイン音楽院で作曲とピアノを学びました。在学中はOtto Klauwell、Frits Hans Rehbold 、Franz Bölsche、James Kwast 各氏に師事します。
18歳ですでに頭角を現し、ケルンの大ホール・ギュルツェニヒ(Gürzenich)でデビューを果たします。その後22歳でメダルも授与されました。ドイツ国内をツアーで周り、現代作曲家の演奏に定評がありました。
とりわけ作曲家マックス・レーガー(Max Reger、1873-1916)の作品演奏や録音が評判を呼びました。師事した教授のひとりJames Kwast が、マックス・レーガーの友人だったところから薫陶を受け、研究と演奏に励みました。コンサートのプログラムにはレーガー作品を入れ、評判が評判を呼び、トルコやカナダにも演奏旅行をしました。彼女の演奏によるレーガー録音を出典に置いています。
1958年にはケルン音楽大学(現在はケルン音楽舞踏大学~Hochschule für Musik und Tanz Köln)のピアノ科講師として職を得て、1960年には教授となり、1966年まで務めました。57歳にして講師職、59歳から6年間の教授職、どんな背景が合ったのかが気になりましたが、あいにく資料は全く出てきませんでした。
数多くの弟子を教えましたが、その中にはDuoピアノ(ピアノ2重奏)として名を馳せた「コンタルスキー兄弟」の兄がいました。この兄弟はドイツ・グラモフォンの専属アーティストとして多数の録音が出ており、ポピュラー作品はもとより、シュトックハウゼン等、現代曲の作品初演にも世界を広げました。筆者も名前は耳にしていましたので、来日公演もあったのかもしれません。レベルの高いピアノ2重奏 として、とりわけ60〜70年代に海外ツアーも展開し、その名を馳せました。
なお、姉妹のヴァイオリ二ストRiaとは、エルスの作品を競演した録音のCD画像がありますので、ご覧ください。
叔父のニキシュはハンガリー生まれ、ハンガリー国立オペラ座の指揮者、カール・ライネッケの後継者としてライプツィヒのゲバントハウス管弦楽団の指揮者等を歴任した、良く知られた人物でした。あいにく、姪に当たるエルスとの関係は母方か父方かなど、詳細は出てきませんでした。

コンタルスキー兄弟

エルスとリア姉妹の演奏録音のCD

女性作曲家によるピアノ音楽
彼女に関しては、1900年代の大方を生きた方にも関わらず、原語ドイツ語でも情報が限られており、今年5月には勤務先だったケルン音楽舞踏大学に直接問合せをしましたが、何の情報もないという回答しか頂けませんでした。
作品は、Schott出版の楽譜「Piano Music by female composers」で初めて目にしました。19人の女性作曲家作品が網羅された曲集で、彼女の作品「左手のためのエレジー」が掲載されています。恐らく女性作曲家の中では数少ない左手のための作品を書いた作曲家として、また作品の質が高いことから選ばれたのでしょう。あいにく各曲の解説は何もありませんでした。
作品はその他、室内楽では「バイオリンとピアノのアレグロ・ト長調」「ピアノ三重奏アレグロモデラート」「ピアノ三重奏アンダンテ」「フルート二重奏曲」。オーケストラ作品は「序曲」。ピアノソロ作品は「組曲」「ファンタジー」等があります。

エルスの墓
ちなみに「左手のための〜」と題された男性作曲家の作品は、それなりの数があります。
戦争に従軍し右手の演奏が不可能となったピアニストのために書かれた作品に、ラベルの秀逸な作品のひとつ「左手のためのピアノ協奏曲」があります。他にも、スクリャービンのピアノソロ作品「プレリュードとノクターン」、ブゾーニ作曲ブラームス編曲「シャコンヌ」、また左手でも右手でも演奏が可能な1手の作品を残した作曲家もいます。
近年では邦人ピアニスト館野泉さんの委嘱作品として多くの邦人作曲家が作品を手掛けており、とりわけ、吉松隆氏の秀逸なピアノソロ作品「左手のための~アイノラ抒情曲集」は筆者が好んで弾いてきた作品でした。”アイノラ”はフィンランド語でアイノの家という意味で、在ハンガリーのフィンランド大使ご夫妻も、母国が誇る作曲家シベリウスの妻の名前を冠した美しい作品と大層お喜び頂き、公邸でのコンサートを開催いただきました。
エルスが学び、その後教授となったケルン音楽大学(Hochschule fresenius köln)は、ドイツ三大音楽大学のミュンヘン、ベルリン、ハノーヴァーに継ぐ難易度の音楽大学と言われています。
数々の女性作曲家の中でも傑出した活躍をしたスーパーウーマン、クララ・シューマンは、フランクフルト音楽大学の教授をつとめました。ベルリン、ハノーヴァー、シュトゥットガルトの各音楽大学のオファーもありましたが、多忙な彼女の条件を飲んだフランクフルト音楽大学で教鞭を取りました。
この度の作品演奏は1927年作曲の「左手のためのエレジー」。哀しみを湛えた、メランコリックな作品で、今後レパートリーに加えたいと思います。
出典
Else Schmitz - Gohr, Wikipedia ドイツ語を英語に翻訳。
Else Schmitz-Gohr - Wikipedia
Elseによるマックス・レーガー演奏 Else Schmitz-Gohr弹雷格作品_哔哩哔哩_bilibili
コンタルスキー兄弟 Aloys and Alfons Kontarsky - Wikipedia
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