新潟県の離島・佐渡島。尾畑酒造㈱は1892年創業の酒造蔵。小学校の廃校を「学校蔵」として再生させた尾畑酒造の活動を知ったのは、2024年2月21日に、AP虎ノ門会議室にて開催された「日本酒蔵ツーリズム推進協議会主催」の「令和6年新春酒蔵ツーリズムセミナー」でのこと。
国内での日本酒の出荷量は、年々減少傾向にある一方で、海外への輸出が伸びている。そのこともあり、文化庁や、観光庁なども海外輸出に力を入れている。海外での日本の食文化への嗜好が高まるなか、インバウンドでも、ツーリズムに繋ぐ実践の取組事例が紹介された。活動報告をされたうちのおひとりが尾畑酒造・専務取締役の尾畑留美子(おばた るみこ)さんだった。
「学校蔵」は、廃校となった小学校を佐渡市から借り受けたことから始まった。そこに酒蔵を造り、酒造りをするだけでなく、酒を学びたい人を海外から受け入れワークショップを実施。さらにカフェや宿泊施設、図書館なども作り、酒文化と地域を結ぶ国際的な学びの場へと再生させたのだ。
尾畑酒造は2003年から海外輸出をスタートさせ、現在15カ国への輸出を手がける。
尾畑留美子さんの活動に魅せられて佐渡島に向かった。
日本海最大の島・佐渡島。ユネスコ世界文化遺産に登録
佐渡島は、東京からだと新幹線で新潟まで約2時間。新潟駅からバスで新潟港まで約10分。佐渡汽船に乗船し、新潟港~両津港まで、ジェットフォイルで、所要67分で到着する。
佐渡島の人口は約5万人。面積854.81㎢、海岸線長280.8km。東京23区の1・45倍。日本海側で最大の島だ。江戸期に金の採掘で栄えた金山があり、その文化史跡が、2024年、ユネスコ世界文化遺産に登録された。そのことで、これまでにまして大きな注目を集めている。
島に着くと尾畑さんお勧めの「かぜ戯むるゲストハウスしまのかぜ」の高杉正哉夫妻が迎えに来てくださった。その日、島の回転寿司店で食事のおもてなし。一緒になった方は、ニューヨークから尾畑酒造の「学校蔵」のワークショップに来たという方だった。日本語もうまい。佐渡島のあと、いくつかの酒蔵を訪ねる予定だとのことだった。ニューヨークで、酒の販売を手掛けているとのこと。こんな熱心な方がいるのだと驚いた。
高杉正哉さんは、神奈川県から佐渡島に「地域起こし協力隊」で移住。その後、古民家を改装して住まい兼ゲストハウスを2020年に開業。奥さんは、地元の幼稚園の園長として働いている。
ゲストハウスのあるのは新潟県佐渡市真野。島の両津港から車で約30分。着いた港とは反対側にあり真野湾に面している。宿から尾畑酒造は、歩いてもすぐ。尾畑酒造は創業からの建物を使い、酒蔵と店舗・事務所があわせてあり、蔵内には試飲コーナーと見学コースも設けてある。そこで尾畑留美子さんと待ち合わせし学校蔵を案内いただいた。学校は小高い場所にあり、緑豊かで佐渡の海が一望できる。
「尾畑酒造で働くのは、私を入れて全体のスタッフ構成は27名。営業は2人。仕込みは本社で6人。学校蔵は営業する日としない日があります。学校蔵で多いと4人。事務所は私たちをいれないで4人。工場が8人ぐらい。売店が3人。それと社長と私がいます。学校蔵は兼務で来ています。学校蔵のカフェをやってるときはバイトさんも来ます。これだけやればいいという感じじゃない、あれもこれもやる。田舎ですから人がいないというのもあります。働くのは女性が58%。仕込みに一人います。あとは売店、事務所はほぼ女性です。工場も女性がいます」
廃校になった学校の景観に魅了され「学校蔵」として再生
学校の佇まいと周辺の景観のすばらしさに魅せられ使うことを願い出たのは、尾畑酒造株式会社の平島健(ひらしま たけし)代表取締役だ。実は平島さんは東京都出身。1964年生まれ。大学卒業後、㈱角川書店(当時)で、情報誌の編集者として働いていた。そのころ知り合ったのが、尾畑酒造株式会社の次女・尾畑留美子さん。現在の専務取締役だ。当時、留美子さんは、日本ヘラルド映画㈱で、映画の配給・宣伝を手掛けていた。その関係で平島さんと知り合った。留美子さんは、高校の頃まで、佐渡島にない文化や社会に憧れていた。魅せられたのが、映画から見える世界の広がり。大学を出て映画会社で働いたが、外に出たことで、やがて佐渡島の暮らしと環境の良さを再認識し、父親の病気をきっかけに故郷へ戻ることを決意する。それを知った平島さんは結婚を申し出た。こうして二人は、1995年、尾畑酒造株式会社に入社。酒造りに携わることとなる。2008年、平島健氏が、5代目蔵元に就任。現在の会社経営を担うこととなった。平島さん曰く「学校を使うことを思いついたのは僕ですが、運営は、二人で考えながらやっています」とのこと。
「学校蔵は、もともとは西三川小学校(明治13年=1880年創立)という、町の分校的な感じの場所になっています。少子化のため2010年に廃校になることが決まりました。それを知って、ここを残したいと佐渡市に申請をして2011年に佐渡市から借り受けて2014年から酒造りの場として稼働を始めています。酒造りは夏場におこなっており今年はタンク7本分仕込みます。使うものはオール佐渡産で『朱鷺の認証米』の『越淡麗』は山田錦と五百万石の交配種です。また棚田のコシヒカリも使っています。棚田は後継者がいないということで大変だと聞きまして、定期的にお米を購入することによって、微力ながら地域の貢献になればと思っています」と尾畑さん。
「朱鷺の認証米」とは、環境に配慮したお米のこと。島の田んぼに行くと朱鷺が飛びかう。これは朱鷺の餌となるカエルやドジョウなど、動物性のタンパク質が豊富な、生物多様性の環境があるから。このために、使用する農薬や化学肥料などを基準の半分以下の量にして官民一体の環境づくりがされている。2008年から「朱鷺と暮らす郷づくり認証制度」が始まり、米の売上の一部が環境づくりに寄付されている。
尾畑留美子さんの案内で、田んぼも案内していただく。佐渡市は、金山があったことで江戸時代から多くの人が住み、米作りもおこなわれてきた。現在、佐渡市の農家数は、4,647戸(販売農家数3,301戸、自給的農家1,346戸)となっている。耕地面積は709,914アール(a)。このうち田は639,596a、畑31,028a、樹園地39,290a。1農家の平均は210aとなっている(2020年 農林業センサス/佐渡市)。
「佐渡島には野性の朱鷺が500羽以上おります。ここは契約農家の相田さんの田んぼです。相田さんは朱鷺の認証制度に則っているだけなく、独特な牡蠣殻農法を実践しています。佐渡の湖で養殖した牡蠣の殻を使ってミネラル分を田んぼにひくのです。水は小佐渡山脈から、牡蠣は湖からですが、湖は汽水湖で海とつながっています。牡蠣殻に小佐渡山脈の水を通すことでミネラルが入って健康で高品質な米となります。茎も非常に太いので、相田さんのところの稲穂は秋の台風にも倒れずに踏ん張っているという感じです」
学校では特別授業を開講。島外からも多くの人が受講にやってくる
そして再び学校へ。学校を案内する尾畑留美子さんの解説は、よどみなく話もうまい。島外のイベントなどでも頻繁に紹介などをされているのだというのがよくわかる。「学校蔵」では、公開の授業もおこなわれている。
「さまざま人が集まるのが学校ですので、いろんな事業をしています。代表的なのが『学校蔵特別授業』。年に一度おこなっています。2014年酒造りを始めた時からスタートしています。きっかけは藻谷浩介さん( (株)日本総合研究所主席研究員)。廃校の活用のことをご報告するため、いよいよ来年から始めますとメールしたら『それはおめでたいので僕行きますよ』と言って下さった。当時(2014年)藻谷さんは『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く』(角川新書)を出版されて講演会も多くされていました。学校ですから講演会ではなく、授業にしようかな思いました。実際に授業スタイルでやったら面白くて、継続することになったという感じです」
「学校蔵」で始まった授業は、2024年で10回を迎えた。授業は年1回6月に開催。藻谷さんを含め有識者を招き、「佐渡から考える島国ニッポンの未来」をテーマにワークショップをおこなう。これまで養老孟司さん(東京大学名誉教授)、玄田有史さん(東京大学副学長)、出口治明さん(ライフネット生命保険株式会社創業者。立命館アジア太平洋大学元学長)、ウスビ・サコさん(京都精華大学 全学研究機構長)などをゲスト講師に迎え、島や地方や地域づくりをみんなで考え討議する。授業には、大人から学生まで幅広い層の約100名が参加している。参加費は無料だ。
「参加者は高校生から80代まで、佐渡の人と外の人が半分ずつぐらい。初めて参加する人と何度か来ているという人が半々ぐらい。その混じりぐあいが丁度クラス替えみたいな感じで、とても居心地のいい場になっています。授業テーマは『佐渡から考える島国ニッポンの未来』。自然・文化・歴史に多様性があって日本の縮図と言われている佐渡島は、同時に日本の課題が集中しているということでも日本の縮図。課題先進地は課題解決先進地になれる。アイデアを生み出し、大きな島国ニッポンの未来に活かそうと考えました」
コロナの時期はオンライン開催。2023年から対面開催に戻した。授業は1時間目から4時間目をおこなう。4時間目は佐渡の高校生が中心の生徒総会。
「今年(2024年)は、6月15日におこないました。藻谷さん、玄田さん、ウスビ・サコさんをお呼びして1時間目が「限界集落の限界」、2時間目が「関係人口の正体」、3時間目が「島国根性のススメ」、4時間目が生徒総会という形でおこないました。今年で十周年10回目になり、我ながら頑張ったなって思っています。この授業は決まった答えをもらうための授業というのではなく、大切なキーワードや同志と出会う場です」
特別授業は尾畑留美子さんの個人的なプロジェクト
参加費は無料とはいえ、現地集合現地解散。申し込みには、参加の理由をしっかり書くのが条件。つまり、佐渡島まで来て、これからの日本の未来を学びたいという、前向きな人たちが参加している。
「申し込みの理由を結構書いていただく。そういう意味では熱量の高い人がここに集まります。佐渡だけでなく、いろんな地域の方がいらっしゃる。佐渡島までわざわざ来てくださる方は、みんな何かモヤモヤ感がある方も多い。そういう人たちが一か所に集まって一緒に考えながら、授業の中で『これだっ!』と感じるキーワードを一つでも二つでも見つけていただけたら、それはもう成功だなと。キーワードが自分のモヤモヤの正体だって気がつくまで時間はかからない。そのモヤモヤの正体さえわかれば、後は多分自ずと道筋も見えてくると思います。10年目の今年は一回目から手伝ってくれた人たちが結構集まってくれて、同窓会みたいな場にもなりました。そういう再会の場所でもあるんです。この特別授業をとおして、いろんな人の『母校』になってきてる。そんな役割が特別授業にはあります」
「学校蔵」には図書館もある。親交のあったポプラ社の千葉均代表取締役(当時)が本をセレクトして寄贈。また他の出版社へも呼びかけて多くの本が揃い読書の場が生まれた。
「図書館は閑散としていたのですが、千葉社長から色々お声かけをいただき、いろんな出版社さんがここに本を寄贈してくださった。本屋さんがセレクトした本棚です。そうしたら、すごく素敵な図書室に生まれ変わりました。せっかくなんでソファーとかカーペットとか、私が勝手に用意して、居心地のいい場所になってきています」
「学校蔵」での酒造り
学校の旧理科室を断熱材で囲み、小型醸造機械を入れた。理科準備室が麹(こうじ)室となり、大型冷蔵庫も入った本格的な蔵となっている。これまでの酒蔵に加えて、「学校蔵」でも2014年から酒造りを始めた。酒蔵では酒造りは冬場におこなわれるが、2つ目の蔵となる学校蔵では、時期をずらし夏場に仕込みがおこなわれている。そのために冬場と同じ環境がつくられている。酒に使われる米は、佐渡産「越淡麗」をはじめ、佐渡産山田錦、昇竜棚田のコシヒカリなど。酒造りのエネルギーも佐渡産で、学校のプールとグラウンドだったところに太陽光パネルが設置されている。2020年5月、学校蔵は全国初の内閣府「日本酒特区」第一号として認定された。
「仕込み蔵自体は小さいけれどもすべての行程ができます。まずお米を洗います。お米を水につける浸漬(しんせき)。それから蒸し上げる蒸きょう(じょうきょう)。蒸し上がった米を掘り出しつつ、粗熱を取ります。それから室に引き込みます。麹菌をふって混ぜて、温度管理などをして48時間後に蒸米が麹になります。酒の酒母をつくります。そして大きなタンクで三段仕込みが始まります。発酵が進みます。
モロミが整ったら、伝統的な槽(ふね)という搾り機を使って搾ります。その後、ビン詰め。酒袋に残った酒粕は、フードロスをできるだけ減らしていこうということで、酒粕や麹・酵母、そこに地域食材を合わせた発酵メニューを、「学校蔵」のカフェで提供しています」
「『かなでる』というのが、この学校蔵で造っているお酒です。佐渡の山、田、川、海などの自然や海からハーモニーが生まれるというメッセージを込めて『かなでる』という名前にしてます。音楽用語なので、例えば、微発泡感のあるお酒にはPizzicatoという副題が付いていて、ちょっと口の中に生まれるあのシュワシュワ感を跳ねるという意味合いで表現しています」
酒造りには企業連携も生まれている
「私どもの活動に共鳴してくださった企業さんが、タンク1本一緒に造ることもあります。例えばNTTさん、沖電気さん、産経新聞さん、東急リゾートさんなど。お酒をきっかけに佐渡に長期滞在をしてもらい、佐渡を知っていただく機会になればいいなと思っています」
「学校蔵」の画期的なことは、1週間の「酒蔵ワークショップ」を開催していること。実際の仕込みを現場で学ぶことができる。海外から参加する人があり、国際交流の場となっている。これは尾畑さんが海外に出かけるうちに、実際、酒造りを体験してみたいという人がいることがわかったことからスタートした。海外とのつながりは2002年にホームページを英語で立ち上げたのが始まり。
「アメリカの人からメールが来て、輸出までに一年かけて準備をしました。彼は輸入ライセンスを持っていない人だったので、輸出をするために何が必要かをお互い学びながらやった。アメリカの後は韓国、台湾、シンガポールと広がった。でも、実はその後、いっぺん全部なくなりました。そんな簡単じゃなかった。輸出をする時に気をつけましょうと書いてあるようなことを全部やってしまいました。途方に暮れました。けれど、その後、他の会社からお酒を輸出したいという声がかかってくるようになりました。今思うと、それは最初のパートナーとのつながりがどこかであったりするんですよ。なので何ごともやったことの積み重ねが次につながるのだなと思いました。今は伸びてきてます」
今では、海外に出かけイベントでプロモーションもおこなっている。海外のインポーター(輸入業者)と一緒に協力している。(「日本酒をめぐる状況」農林水産省 令和6年6月)
学校の教室には、酒造りのプロセスが紹介されている
「教室の壁には、お酒造りについてプロセスが書いてあります。体験プログラムの時に入学式で学んでもらう。それで終わると酒造りに入っていただく。テイスティングの授業もありますし、田んぼに行ったりもします。そして1週間蔵人と過ごしてもらって卒業式を迎える。参加の方は、遠いところに来て1週間滞在することもあり、酒の知識がある人がたいていいらっしゃる。ですが本で読むのと、実際に自分の手を使ってものづくりをするのと、まるで違うわけじゃないですか。それを体験していただく」
参加料は10万円(2024年現在)。食事と宿泊は別。したがって参加者は、近隣の旅館やゲストハウスに泊まる。長期滞在することで、地域の人たちとのつながりが自然と生まれるという流れにもなっている。
「1週間滞在していると街中でご飯も食べるし地元の人と触れ合う機会もある。この写真はある年の5組目の人たち。卒業した4組目の人たちがお酒を絞る時に、また来るって言ってまた来て町の人も加わって一緒に飲んでる図です。非常にリピーターが多いんですね」
2024年で19カ国150人以上の卒業生が生まれた。2022年には同窓会を結成
「この学校蔵で、いろんな国と、世界とつながっていくというのが体験プログラムができたことによって実現しました。学校蔵に集まるだけでなく、自分がヨーロッパとかに出張に行った時に隣の国の人がわざわざ来てくれて一緒にご飯食べたりとか。あるいは何年か前のクラスメイト達の例では、日本からアメリカまで会いに行った人がいるのですが、イギリスのクラスメイトもオンラインでつないで一緒に酒を飲んでミニクラス会をおこなったりとか。世界にコミュニティが広がっています。同窓会をすることによって同じクラスメイトだけでなく、違う年の参加者たちともつながる。素敵な機会になっています」
体験プログラムから、さらに理論や知識を深めるアドバンストコースも生まれた。
「体験プログラムは2015年からトライアルが始まっているんですけど、これも長くやってる間に進化しています。2023年、北米酒造協会とコラボレーションしたアドバンストクラスを実施し、北米から4名の外国人醸造家が参加しました。体験だけではなく、座学や機械の勉強などもおこないました」
大学連携のプロジェクトも「学校蔵」ではおこなわれている
「もともと音楽室だったところは、今は、東京大学未来ビジョン研究センターと芝浦工業大学の地域共創基盤センターのサテライト研究室になっています。東京大学の未来ビジョン研究センターは、エネルギーの循環から持続可能な社会をどう実現するか。芝浦工業大学は人の循環から持続可能な社会をどうやって実現するかということを研究しています。学校蔵がおこなっていることも、まさに資源もエネルギーも人も循環させるサステナブル・ブルワリーというところなので目指す方向も一緒。そもそも佐渡島が目指しているものも同じ方向です。佐渡島の小さくとも具体的なモデルとなればと思いながら、プロジェクトを進めています」 (脱炭素先行地域(環境省))
その他、芝浦工業大学工学建築学部建築学科の蟹沢ゼミが主宰する「佐渡木匠塾」が2011年より尾畑酒造と連携。学生が夏休みに2〜3週間滞在し、椅子、机、棚、調度品などの作品を学校で生みだした。
「『癒しバー』というのがあります。こちらはもとは資料室でした。部屋の半分が佐渡木匠塾の第一回目の作品。断熱をテーマにし、冬はちょっと暖かくて夏はちょっと涼しいというような場所になります。ここから庭にある桜の木が見えます。桜は外で見るのもいいけど教室から眺める桜が一番きれいだなと思います」
「一週間の体験プログラムのうち、2日目の夜だけ学校蔵の宿泊エリアに皆さん泊まっていただいて、夜の作業をおこなってもらっています。棚、ハイテーブルとハイチェアは芝浦工大さんの作品となります。部屋にはお風呂もあります。簡易宿泊の免許を取ったので、体験期間以外の時期は連携大学、連携企業、大学の卒業生、学校蔵の卒業生など、会員制的に有料でご利用いただけるようになっています。
学校に宿泊施設があるといいねという話はずっとしていましたが、お金もかかるし場所がない。無理だよねって諦めていました。でも、ちょうどコロナ禍の時に、廊下を歩いていたら、ランチルームが広いことにふと気が付きました。チョークを持ってバアっと線を引いたら、ここに4つ部屋ができるね!と。
学校蔵には電気自動車のレンタカーも一台、入れてあります」
二階の廊下一角には「角打ち」(かくうち=そこで買った酒を飲む場)がある。芝浦工大の作品だ。
「こちらは関係者のみ立ち入りができるエリアになります。フォトジェニックで、写真スポットにもなっています。一般の人は入れません。廊下の角を曲がったところにあります。関係者、あるいは体験者で宿泊の方が入れます。机とか奥のカウンターとか、芝浦工大の作品です」
「学校蔵」には、2022年にカフェもオープンした。それまでは、酒造りが始まると学校蔵の玄関はいつもは閉めたままにしていた。それではもったいないという思いから、出会いの場としてカフェを設けた。
校長室はキッチンに改装された。大きなオーブンもある。プロのシェフが来ても使えるようにもした。今後、料理のワークショップも構想に入れている。
今後の展開として企業と連携した研究の場を創る構想もある
「2023年秋から企業さんにご利用いただくようなスペースを作ろうと準備をしています。今、東京の企業さんが契約をしてくださっています。今後は、3つから5つくらいの企業さんが使っていただけるといいなと思っています。どこでもできるからここで、ではなくて、ここでしか浮かばないアイデアっていうのもあると思うので、それを求めて来ていただくっていうことです。それから当社はサステナビリティ(持続可能性)を大事にして、今後ゼロカーボンを目指していきたい。自立自走できるということを目標にしていますので、そういうことに関心がある、あるいは研究をしているような企業さんが集まって、皆さんと一緒に学ぶことによって化学反応が生まれていくようなとことをしたいと思っています」
「酒造りと学校は一見関係ないようにも見えるけれども、非常に親和性が高いと思います。二つは似通っていて、例えばお酒造りも、学校の教育も、効率とか生産性では語れるものではないものを生み出しています。地域のランドマークとして、いついってもそこにあるという安心感があり、それが地域の支えになっていることもあります。学校が卒業生の母校であるように、酒蔵というのも地域に昔からあって、人をつないできました。学校藏も誰かにとって心の支えにちょっとなっていければいいなと思います」
「これから目指しているのは、自立自走できるエリア作り。その中で酒蔵としては、ゼロカーボン・ブルワリーを目指したいと考えています。非常に難易度が高いですが、掲げた目標に向かって近づいていく中で、いろんな違う景色も見えるだろうし、何かアイデアが浮かぶんじゃないかと思っています。まずはその山に登るのだという決意が大事ですね」
尾畑酒造
https://www.obata-shuzo.com/home/
●お知らせ。この連載から本が生まれました。
『ニッポンはおいしい! 食と農から未来は変わる。地域に豊かさをもたらす女性たちの活躍』
金丸弘美著 理工図書出版(2024年9月13日発売)https://x.gd/gunBM
上野千鶴子さん推薦(社会学者・東大名誉教授)「女性がつくる日本農業の未来!」
書籍紹介記事
WANマーケット https://wan.or.jp/article/show/11483
WAN女の本屋 https://wan.or.jp/article/show/11480