
大人こそ読みたい『赤毛のアン』シリーズへの手引き
子どもの頃、高畑勲監督のアニメーション「赤毛のアン」を通じて、また、世界名作全集に収録されている『赤毛のアン』などを読んでアンの世界に触れた方も多いでしょう。あるいは思春期に、村岡花子訳のアン・シリーズを全巻読破したという長年のファンの方もいらっしゃるかもしれません。
第一巻の『赤毛のアン』は、親をなくした少女のアン・シャーリーが、プリンス・エドワード島でグリーン・ゲイブルズという農場をいとなむマシューとマリラ兄妹のもとにひきとられて、幸せに育つ5年間の物語です。孤児院から男の子をもらい受けるはずだったのに何の手違いか女の子がやってきて、最初こそうろたえるマリラもマシューも、やがてアンとの日々を通じて、そのかけがえのなさに満たされていく。親友のダイアナやアンの赤色の髪の毛を「にんじん」とからかうギルバートとの交友、学校での学び、少女から思春期を経てカラフルに彩られていく青春――そして愛する人との別れを描いたシーンはあまりに有名です。
まっすぐにのびていくアンの人生のその先に、さらに起伏に富んだ物語が紡がれるのがアン・シリーズです。アンとギルバートの家族、アンの人生を照らす幾人かのさまざまな人生、そして最終巻『アンの娘リラ』ではアンの娘リラの視点から、第一次世界大戦に三人の息子を送り出す銃後の母となったアンの姿とその時代が描かれます。
この長大な大河物語の日本初のシリーズ全文訳に挑み、2023年にその完結が話題を呼んだ作家・翻訳家の松本侑子さんによるシリーズの解説書が、『赤毛のアン論 八つの扉』です。原作に30年来向き合ってきた松本さんは、全八巻の筋を追いながら、物語冒頭に置かれた「エピグラフと献辞」、作中にちりばめられたシェイクスピアやポーの英文学作品からモンゴメリの巧みな物語技法を読み解き、背景にあるキリスト教やケルトと「アーサー王伝説」を解説し、プリンス・エドワード島の歴史とカナダの政治という視点を補いながら、より重層的な読み解きへと誘います。
アン・シリーズをこれから読もうという人はもちろん、すでに読んだという人にも発見と驚きのある一冊になっているはずです。
今年はモンゴメリ生誕150周年、来年春にはNHKで新作アニメ「アン・シャーリー」の放映スタートも発表されました。夜の長くなるこれからのシーズン。ぜひ本書を手引きに、「大人の文学」としてのアン・シリーズの魅力に触れていただけたらと思います。
◆書誌データ
書名:『赤毛のアン論 八つの扉』
著者:松本侑子
頁数:288頁
刊行日:2024/11/20
出版社:文藝春秋
定価:1265円(税込)
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