<てるてる Reading Circleとは?>
2012 年に女性学(「女性の女性のための女性による学問」)の第一人者である故井上輝子先生が和光大学を定年退職後「木曜研究会 」をスタート。2014年度に「GF読書会」と名称変更し、WANサイトの女性学講座コーナーに半期ごとの活動報告を掲載。2021年に井上先生が逝去された後は「てるてるReading Circle」として、オンラインで活動中。メンバーはさまざまなバックグラウンドの 30 ~ 70 代の女性たち。現在新メンバーを募集中。ご連絡はこちらまで:teruterurc@gmail.com
<書籍紹介>
本書はイスラエル人社会学者による「子どもを愛している。それでも、母でない人生を想う。」というテーマが、23人の母親へのインタビューにもとづいて書かれている。
この著作について知ったのは、2022・12・13NHK「クローズアップ現代」〝母親の後悔、その向こうに何が〟という番組だった。
「子どもは愛しているが、母親になって後悔している。決して子どもを産まなければよかった。」というものではない。子どもを愛しているけれど、母親であることを後悔してしまう。」という感情を取り上げていた。
最初に出版されたドイツでは、共感とともに大きな反発を呼ぶ。多くは「そのは感情は表に出すべきではない。」というものだった。
この放映は大変ショッキングなものであった。自分の胸の内にある忘れていた感情を思い起こさせた。この放映をきっかけに本書を知り、読書会で取り上げることになった。
本書の構成はおおまかに、著者の問題提起、インタビューした女性の話、考察というものである。学術的な内容であること、翻訳であることから読みやすいとはいえないところがある。だが、本書のロードマップとして〈はじめに〉で1~6章の簡単なガイダンスをしている。それと併せて読み進めていくと良い。
1章 女性が母親になることに対する、西洋の社会の出産前の社会的期待
2章 母性を統治する厳格な社会的ルールについて
3章 後悔という……母にとっては「道徳的に許されない」感情について
4章 子どもを持つことで女性が「欠如した状態」から「完全な状態」変容するという社会的な保証
5章 公の場で母である後悔を話すことにまつわる緊張関係の検証
6章 母になるという選択を却下しないときに、母になった後悔が示唆する2つの意味合いについて
<読書会を終えて>
読書会では、それぞれの章の報告のあと、意見交換がされましたが、ショッキングな「母親になって後悔している」というタイトル、内容に、最初はとまどいがありましたが、メンバーそれぞれの「母」の体験を語りあった。その中で少し本書の内容に近づけたと思う。
「後悔するという感情」を持ったことはないという意見、生活の中で母親であることを引き受けざるを得ず忸たる思いをしたという意見などが出た。それぞれの人生体験を交えて有意義な時間を持てた。
ここで思い出すのは、NHK朝ドラ「虎に翼」のあるエピソードである。主人公が妊娠したとき、恩師が「母親としての自分を第一にしなければならない。」という趣旨のことを言う。主人公は強く反発するが、やむを得ずやっと手に入れた弁護士という仕事を辞めることになる。
母親になることは、女性の他の属性を捨てることになり、捨てないまでも母親という仮面の後ろに追いやられてしまう。翼を折られてしまうのである。
「母親になって後悔している」は母親としてではなく、女性が「一人の人間として尊重して欲しい」という叫びではないだろうか。
◆ 書籍データ
署名 母親になって後悔してる
著者 オルナ・ドーナト 訳者 鹿田昌美
頁数 304頁
出版社 株式会社新潮社
発行日 2022・3・25
定価 2200円
2025.01.10 Fri
カテゴリー:わたしのイチオシ