日韓の「介護ヘルパーの離脱防ぐには、低賃金解決しないと」 [介護のジレンマ②]
2024.11.17 06:00 配信 女性新聞 申茶仁(シン・ダイン) 記者
[女性新聞 特別企画―介護のジレンマ:介護労働の価値を認めろ②]
日韓介護ヘルパー座談会《下》
韓国、超高齢化社会が目前に
低賃金のため、日韓の介護ヘルパーは現場を離れている
介護の危機は間違いなく訪れる未来だ。韓国は、2024年7月、65歳以上の高齢者人口が1,000万人を超え、超高齢社会が迫っている。急速な高齢化により、2028年には11万6,000人に達する介護人材が不足すると予測されている。先に超高齢社会に突入した日本でも介護人材の不足問題は例外ではない。日本は2040年に、約69万人の介護人材が不足すると予想されている。
しかし、日韓両国では、低賃金と劣悪な労働環境のため、介護人材は介護現場を離れている。2022年の実態調査(韓国保健社会研究院、長期療養実態調査)によると、訪問介護の給与を受け取っている韓国のヘルパは、一ヶ月平均72.7時間働き、87万ウォンの給与をもらった。通常の賃金労働者の労働時間である160時間に換算したら、一ヶ月の給与は190万ウォンに過ぎない。
2022年日本の介護労働安定センターの調査によると、日本の介護職の月収は平均20万2401円で、一般労働者の平均(31万2000円)より約10万円低い。2022年には、介護分野からの離職者が入職者を6万3,000人も上回る「離職超過」が初めて起きた。日本の介護保険法によれば、介護とは「歩行、排泄、食事、入浴などの日常生活に必要な支援を提供すること」を意味している。
2024年11月8日、女性新聞は公共運輸労働組合ソウル市社会サービス院支部と「日韓介護ヘルパー座談会」を共催した。介護ヘルパーにどのような環境で働きたいのかを聞き、介護の公共化の方法を具体的に模索するためだった。座談会はソウルの鍾路(ジョンロ)にある女性新聞社で、ZOOMを通じて開かれた。
座談会には日本の介護ヘルパーの国家賠償請求訴訟の原告である伊藤みどりさん、藤原るかさん、佐藤昌子さん、韓国のソウル市社会サービス院で訪問療養保護士として働いていたソン・ヘスクさん(57歳)、ソ・ムンヒさん(55歳)、キム・ヨングさん(53歳)が参加した。イ・ヘジン慶尚南道研究院研究委員が通訳を担当し、女性新聞の申茶仁記者が座長を務めた。
日韓の介護ヘルパーたちは、対談で「これまで介護は、誰でもすぐできる仕事という社会的認識の中、低く評価されてきた。その結果、誰もやりたがらない仕事になってしまった。賃金体系は、出来高制ではなく、号俸制のように基本給が保障できるよう構築すべきだ」と強調した。
以下は対談全文。
申記者: 介護労働の価値が低評価されている中、介護労働者として働き続けたいか。
韓国側: ソウル市社会サービス院のように公共で運営される施設でなければ、働きたくない。民間の介護施設は賃金がとても低い。従来の呼び出され型(on-call work)時給制と違って、ソウル市社会サービス院は、月給制を採用していた。ソウル市の生活賃金を基準に給与が算定されていたので、安定した給与が保障できていた。また、民間の施設で働いていた時は有給休暇が取れなかったが、ソウル市社会サービス院では有給休暇が取れていた。
日本側: 介護保険の導入前の日本では、介護労働は公務員が担当していた。私は介護保険が施行される前から公務員として介護労働に従事してきた。介護保険が始まった2000年、社会的に大きな話題となった。介護の社会化を通じて、それまで女性が担ってきた家族の看病や介護などから女性が解放されるという期待が高まっていた。
介護保険が導入されてから介護施設が民間市場に開放され、介護労働は公務員の仕事ではなくなった。公務員を続けたいなら他の職務に移動するしかなく、介護現場で働きたいなら公務員を辞めるしかなかった。当時、介護が人生にどれほど重要なのかを伝えたかったので、私は介護現場を選んだ。だが、今では利用者と労働者の両用で環境が悪化している。介護現場から起きている人権問題を知らせ、ケアの価値を訴えたいので、介護現場で働き続けたい。
申記者: 日本と韓国の訪問介護員は、サービスの利用時間や利用状況に応じて時給が決まっている。介護報酬制度は、介護労働者の労働権を十分に保障していると考えるか。賃金の基準はどう決めるべきか。
韓国側: 出来高払いの体系ではなく、月給制か号俸制にすべきだ。現在、民間の介護ヘルパーの時給は1時間あたり12,000ウォンから14,000ウォンとなっている。だが、この金額は介護報酬であって、実際に受け取る金額は異なる。日本と同じく、韓国も、移動時間や書類作成の時間などは労働時間に含まれない。また、利用等級(要介護度)によって働ける時間も違う。そのため、月給制や号俸制への移行が必要だと考えている。
ソウル市社会サービス院の場合、1日8時間の勤務だった。ソウル市社会サービス院が閉鎖される前、私たちの働いていた最後の月給(税金を差し引く前の金額)は約230万ウォンで、手取り額は205万ウォンだった。以前、ソウル市の社会福祉士たちは公務員に合わせて月給を引き上げるよう要求したことがあるが、その後、社会福祉士の給与は改善された。現在、社会福祉士の1号俸は月に約214万ウォン、9級公務員の1年目は月に約220万ウォンを受け取っている。介護職もそれぐらいの水準にしなければ、人々は働かないだろう。
日本側: 2020年度に介護ヘルパーの年収について、私たちが独自に実施した調査の結果によると「100万円以下」と答えた割合は47%に達した。310万円以上は全体の8%に過ぎない。多くの介護労働者は生活が厳しい低賃金で働いているのが現状だ。
訪問介護員は、利用者の自宅に入って働いた時間だけ労働時間と計算される。移動時間が長くかかっても、急にサービスが取り消されても、補償はない。地方の小規模な介護事業所では、片道40㎞を超える利用者の自宅まで通わなければならないこともある。福島県のような地域では、一日往復100㎞以上を移動しながら働いている介護ヘルパーもいる。固定給がないという現状は、深刻な問題だ。
韓国側: 韓国では、介護労働の価値を認めさせるため、訴訟を起こすという考えが今までなかった。日本で訴訟を起こしたきっかけは何だったのか。訴訟を通じて達成したい目的は何か。
日本側: 長い間、介護ヘルパーとして働いてきたが、介護労働は正当に評価されていないと感じていた。介護労働は誰でもすぐできる仕事だと見なされ、社会全体にそのような低評価が広がっている。とても悔しかった。介護労働は価値のある仕事だということを、どう伝えるべきか悩んだ。
待機時間、サービスの取り消しが発生した際に賃金が支払われないことなどは、私たちの仕事が正当に評価されていない証拠である。だから、これに対し、認定と評価を改めていけば、現在の賃金より1.5倍は多く受け取れると考えた。このようなことを社会にアピールするために訴訟を起こした。控訴審では棄却されたが、介護ヘルパー、介護労働者の労働環境、また、介護労働の価値を、多くの人に伝えることには成功したと考えている。
韓国側: 移動距離を聞いて驚いた。韓国の事業所では、それほど遠く離れているところに住んでいる利用者には、対応していない。
日本側: 日本には10人未満の小規模な事業所が多い。こうした事業所は営利を目的とするというより、地域密着型である。地域で介護のニーズが高まり、力を合わせて介護をしようという地域運動の流れから誕生した。NPO(非営利活動法人)が多くの介護事業所を設立してきた。だが、国が定める介護報酬に基づいて事業所を運営するのはますます困難になり、多くの事業所が赤字を抱えたり、廃業が相次いでいる。
東京商工リサーチによると、今月の11月1日まで、2024年の介護事業者の倒産件数は144件であり、介護保険の施行以来、最も多い件数となった。この件数の中で、訪問介護事業所は71件と、もっとも倒産が多い。支援を強化しなければ、介護サービスを受けられない地域が増えるだろう。
日本側: 日本の介護保険制度では、掃除、洗濯、料理などを支援する生活援助を45分以内で行うべきだとしている。政府が介護労働を簡単な労働として扱っていることは明らかだ。恥ずかしいことだ。ところで、韓国では、サービス種類に情緒的ケアというものがあると聞き、羨ましかった。これはどのように進められているのか。韓国も日本のように、介護が簡単な労働と見なされているのだろうか。
韓国側: 45分以内で掃除、料理、洗濯が全部できるのか。韓国では生活援助を「日常支援サービス」というが、90分に設定されている。日本側の話にあるように、話し相手となったり、励ましたりする「情緒支援サービス」も設けられているが、実際には約20分程度で行われている。それも、机に座って対話するというより、食事の準備をしたり、洗濯をしながら話し合う形が一般的だ。
韓国も介護を簡単な労働だと考える傾向がある。介護は誰でもすぐできる仕事だと見なされているようだ。2024年3月、韓国銀行は、介護費用の負担を軽くするために、介護分野に「最低賃金の差等適用」(最低賃金を下回る賃金の導入)を提案する報告書を出した。この報告書(「ケアサービス人力難・費用負担緩和」報告書)では「生産性の低い部門に、内国人の労働力が集中するのは、経済全体の資源配分の観点からも効率的だとは言い難い」と書き「ケア労働は生産性が低い労働」と表現している。
日本側: 韓国の老人長期療養保険制度では、介護福祉士の給与が上がれば、利用者の負担も増えるような、介護福祉士と利用者の対立構造になっているのか。
韓国側: 利用者と介護福祉士が対立しているのではなく、施設(経営者側)と療養保護士が対立していると言えるだろう。自己負担金はあるが、それが療養保護士の給与と直結しているとは、社会であまり考えていないようだ。国民健康保険公団から利用者のサービス時間が決められる。つまり個人ごとに利用可能なサービス時間が定められており、それを超えるサービス時間を利用する場合には、自己負担となる。
韓国では、民間施設が全体の90%を超えている。療養保護士の人件費は施設によって異なる。また、民間施設で療養保護士に支給される賃金は、介護報酬と実際に提供されたサービス時間によって決める。問題は、介護報酬が上がっても、それが介護福祉士の賃金の上昇に直接つながるとは限らないことである。療養保護士、中間管理職などを含め、施設のすべてのスタッフに支給する賃金の総額のみ定められており、療養保護士の1時間あたりの賃金は決められていない。
3編に続く
元記事URL:https://www.womennews.co.kr/news/articleView.html?idxno=254385
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*女性新聞社より翻訳および転載の許諾を得ています。
写真提供:公共運輸労組、申茶仁、WAN
翻訳:金ディディ
1編 https://wan.or.jp/article/show/11618