2011.02.25 Fri
今回は、つましい晩ごはんの思い出話です。
うちは現在私と連れ合いと大学院生の娘の3人暮らしですが、起床時間も食事の時間もほとんどばらばらで、大人のルームシェア状態です。晩ごはんも基本的に個人の都合に折り合いをつけることはありません。たまたま食事時間が一致しても、それぞれ勝手に作って、よかったらどうぞと勧めるくらいの身振りはありつつも、それ以上の共食は外食のときくらいです。そうか、私たちが外食に行くのは、たまには一緒にご飯を食べようかという気になったときなんだなと、こうして書いてみて今気がついた次第です。
私と連れ合いは学生、院生時代に寮で暮らしていて、今の生活は共有の台所と冷蔵庫のあった大学院生寮にいたときのようなものです。青春が出戻ってきたようで気楽な日々ではあります。
例えば昨日の晩ごはんは、私と娘が生協のレトルトで作ったちらし寿司と菜っ葉のじゃこ和えとかで、連れ合いは大好物のお好み焼きのイカ焼きを、それぞれ勝手にいただきました。
お好み焼きと言えば、まだ子どもが小さかった共食時代の晩ご飯のことを懐かしく思い出します。とはいえこのときも全員が揃ったわけではなく、連れ合いが入院していたときのその他3名の、懐かしくもほろ苦い晩ごはんです。
連れ合いは職場の健診を9年サボったあげくに、胃がん3期bの危ない手術をするはめになりました。5年生存率20数%という解説書の数字に心底びびりましたが、幸い7年を経て生き延びています。ところが、そのとき不運なことに、手術の合併症の膵液瘻(すいえきろう:膵臓の分泌液である膵液が一時的に漏れる状態)になってしまい、なんと3ヶ月の点滴オンリー絶飲食生活を強いられました。外野がうるさく、医療ミスだから司法解剖を要求せよと指示する人もいました。まだ生きてたんですがね。結果として3ヶ月で治ったのですが、その間はいつ治るか見通しの立たない日々です。私だったら点滴台を振り回して暴れただろうと思いますが、彼は人格が破綻することもなく穏やかに耐えておりました。まったく偉いもんです。退院するとき看護師さんに褒められました。
入院中のある日、晩ごはんに家でお好み焼きを焼いていました。豚肉とキャベツと市販のお好み焼き粉などを用いた、何の変哲もないフツウのお好み焼きですが、簡単なわりには子どもが喜ぶので、くたびれているときには便利です。お好み焼きは連れ合いの大好物です。ピザと揚げ物とお好み焼きなどの<粉もの>は彼の独壇場で、普段は私はあんまりやらないのですが、何しろ担当が入院中ですから、仕方なく(?)、きわめてシンプルな基本の豚のお好み焼きを焼いていました。すると今まさにお好み焼きが音を立てて焼け始めた瞬間に、めずらしく病院から電話がかかってくるではありませんか。香ばしい匂いを連想させる「ジューッ」という音が響き渡っていますが、相手は絶飲食状態な上に、お好み焼きは大好物です。電話の両側でしばらく無言が続き、その間お好み焼きは音を立てて焼け続け、ついに「・・・何食べてるん?」と聞かれてしまいました。あまりに気の毒で答えに窮していると、「・・・お好み焼きやな・・・」と沈んだ声でぽつりと自答しました。一体いつになったら再びお好み焼きが食べられるか見通しも立たなかったあのときほど、連れ合いに同情したことはありません。
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しかし彼は耐え忍ぶばかりの男ではなかった。数日後に巨大パッケージの荷物が届きました。何事かと思えば、それは連れ合いが入院中の病室から通販購入した大タコ焼き機でした。お好み焼きの次ぎにタコ焼きが好物である連れ合いは、退院したら玄人はだしのタコ焼きを焼いて、私のシロウトお好み焼きにリベンジ(?)しようと考えたのでした。
出所後めでたくタコ焼きを焼いてみましたが、新品のタコ焼き機はまだ油が馴染まず、リベンジは不調に終わりました。それにしても穏やかに耐え忍んでいたけど、対抗心は心に秘めていたのね。その後彼はお好み焼きに邁進し、タコ焼き機は油が馴染まないまま、ピザ窯、二種類の焼き肉鍋とともに押し入れの中に巨大な場所を占めて、私を悩ませています。
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