2012.04.15 Sun
ジェイン・オースティンの時代の「婚活」と今 最終回 再録・注釈付テクスト
構成・註 川口恵子
‘KONKATSU’ or Marriage Hunting in the Age of Jane Austen and Japan Nowadays
Girls’ Talk: Chizuko Ueno and Keiko Kawaguchi
Annotated Text Version by Keiko Kawaguchi
(前回からの続き)
パロディか辛辣な皮肉屋か、ジェイン・オースティンの魅力をめぐる晩秋のガールズ・トークはさらに暴走!
上野:正妻は同じ階級の女をゲットし、性愛の対象になる身分の低い女は、愛人にするという使い分けをするのが、階級社会というもの
なんですけど。
川口:フランスは宮廷愛があって、愛人をもてる、ミッテラン大統領も愛人がいて、それが露呈しても引責という風にはならなかった。ヨーロッパのアッパークラスは、そういう社会と認識していましたが、イギリスはどうだったのか・・・
上野:フランスでは、結婚するということは、愛人をもつ資格ができることだっていいます。夫になるということは、コキュになることだ、と。
川口:コキュ、寝取られ男ですね。
上野:あれは、既婚者の間での不倫ゲームですよ。
川口:ゲーム・・・。
上野:身分の低い女を愛人にするというのはまた違う。
川口:ジェイン・オースティンの手紙には愛人の話はあまり出てこないように思いますが・・・でもそれは、破られたかもしれない、編集されたかもしれないですね、本になる時に。
上野:男に選ばれて婚活に成功すれば、女の指定席をゲットできるわけですね。ゲットできない女はどうやって生きたらいいかっていうと、ガヴァネス。
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川口:女家庭教師ですね。
上野:そう、家庭教師。
川口:<最後の砦>が家庭教師っていわれてましたよね。
上野:中産階級の教育のある娘の、たった一つの職業。だけど、ガヴァネスっていうのは、愛人すれすれですね。
川口:たしかに、そうなる環境は整ってますよね(笑い)。住み込みですし。
上野:そのガヴァネスから妻にのしあがったのが、ジェーン・エアです。
川口:そうですね、たしかに。
上野:ですよね。
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川口:ロチェスターの奥さんになるわけですね。狂気の妻をさしおいて。都合よくその妻は焼け死んでくれたわけですが。
上野:相手の男にハンディがあったからのしあがれたけれども、妻がいれば、愛人ポストです。
川口:ただあの場合は、最終的に、ロチェスターも、結局盲いて、目が見えなくなりましたよね。彼にも、ひとつハンディが加わった。
上野:そうなんです!
川口:そこが面白いですよね。やっぱりどこかでレベルが同じになる。傷ものになることで[i]。
上野:傷ものになることによって階層差を克服できるんですよね。男を盲いさせるってすごいなと思ったのは、これって、「冬ソナ」のヨンさまと同じだって。
川口:え、どうしてですか?
上野:だって、「冬ソナ」の最後は、ヨンさまが失明して、彼女と結ばれる。
川口:ああ、なるほど!
上野:男が失明するって、女にとって、最後の解決っていうか。つまり、一番きれいだったときの私をまぶたに焼きつけて、それ以後、どんな女も眼に入らないように、って。
川口:最高の、オンリー・ワンに自分がなれる。
上野:そう、それで、この人はもはや私なしには生きていけない。最終的な女の勝利ですよ。
川口:女の勝利・・・
上野:うまくできてるねえって感心しました。さすが「冬ソナ」は女の脚本家の作ったシナリオだと思いました。こういう話をしてると、だんだん性格悪くなるような気がしてきます(笑)。
川口:私、ジェントルマンの存在、どっかでたぶん、信じてますので。登場を待ちのぞみたいところです。結婚してるけど、待ってます。
上野:そうなんですか、ジェントルマンをゲットなさったんですか?
川口:あ、すみません、ゲットって遥か昔ですけど。(今日話題になった意味での)ジェントルマンでもなかったですし。
上野:それ以来、とりかえてないんでしょ。
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川口:とりかえてないです。(私のいう意味での)ジェントルマンにも成長させられなかったんですけど。まあ、でも少しずつ、ですね。
上野:よい素材をゲットしたけれども・・・
川口:調教じゃないですけれども、少しずつ学んでいってるかもしれない。
上野:ああ、そうですか。
川口:いつか、席をゆずってほしいです。あ、でも、上野さんは、理想のジェントルマンはいらないですか?
上野:私は、ジェントルマン妄想ないですから。
川口:「お二人さま」はいかがですか?
上野:男に幻想をもってないですから。
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川口:では、最後に、ジェイン・オースティンとお姉さんのキャサンドラの関係について一言お伝えしたいのですが。ジェインもお姉さんも二人とも結婚はしませんでしたが、本当に二人支えあって、結婚したほかの兄弟たちの家族も含めて、親戚同士のつきあいもとても濃くて、まあいってみれば、アッパークラス同士ですけど、その中でも、こまやかな人間関係をとても大事にして、その中で、女同士、助け合っているのがよくわかります。私はやはり、女同士の支えあい、助け合いというのはとても大事だと思います。婚活も大事かもしれませんが。
上野:「セックス・アンド・ザ・シティ」でも、ガールズ・トークが全開ですね。ていうより、ウィメンズ・ロッカールーム・トークですよね。女の子同士、ベッドルームのうちあけ話をしてるっていう。ああいうの、女の子大好きですから。 男は男同士で、『源氏物語』の「雨夜の品定め」のように女の品定めをしているかもしれないけれども、女は女でやっているよっていうね。そういうのが、オースティンの時代にちゃんと描かれていて、女の内幕を書いちゃったっていうのが面白いかもしれない。
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川口:オースティンはパロディとして面白がって書いていますよね。
上野:やっぱり、オースティンは皮肉屋で、辛辣です。
川口:かわいらしいところもありますよね。手紙にも、帽子の話とか、はちみつ酒のこととか書いて、かわいいところがあります。
上野:オースティンの手紙は読んだことないんですが、どうして樋口一葉を思い出したかっていうと、樋口一葉の日記って、ほんとうに性格の悪さが全開なんですよ。自分のところに出入りする若い男の文士たちを、どんなに辛辣な目で見ているかっていう。
川口:オースティンは、手紙のほうが、可愛いらしいです。茶目っけがあって[ii]。 みなさんもぜひ読んでください。『ジェイン・オースティンの手 紙』、岩波文庫から出ています。
上野:今日は、川口さんと私のロマンチック度の違いがはっきり表れた対談でしたね(笑)。
川口:はいっ(大汗!) そうかもしれません(冷や汗!)。
上野:こういうそそる映画ですから、どうぞ皆さん方もこのあと会場を出たら、ガールズ・トーク、ボーイズ・トークを楽しんでください。
司会:上野千鶴子さん、川口恵子さんでした。どうもありがとうございました 。(拍手)
(2011年11月25日(金曜)、9pmより東京・ユナイテッドシネマ豊洲スクリーン2にて)
トーク終了後、イベントの仕掛け人・IVCの上山口恵美さんを交え、ガールズ・トークはさらに炸裂・爆走したのでした。本番中は上野さんの鋭い舌鋒にたじたじとなっていただけに、楽屋トークが一番リラックスできて楽しかったです。姪の結婚式用に買ったおニューのフリフリブラウスを着てったせいか一目でロマンチストの役割をふられ、私もまたその役割に過剰適応した気がする対談でした。ああでも、深層心理はそうかも・・・ (川口)
[i] シャーロット・ブロンテの『ジェーン・エア』では、ロチェスターが盲目になることでハンディを負う以外に、最後に、貧しいジェインに叔母の遺産が入るという話が加わることで、階層差のバランスがかろうじて保たれる設定になっている。
[ii] 受け取った方が枚数に応じてお金を払う当時の郵便制度や、受け取った人が手紙を読んで聞かせる習慣もあってか、親しい家族や友人にあてたジェインの手紙には、常に、読み手を楽しませようとするエンタテイメント精神があふれている。イギリスならではのアンダーステイトメント、残酷な機知、自虐の入り混じったユーモア交じりの文章には、もちろん、皮肉や辛辣な人間観察も交じっているが、そこには、やはり、書き手の、明るく、人生に対して肯定的な態度が息づいているように思われる。貧困にあえいだ一葉とは違って、舞踏会やディナー、お茶会、ロンドンでの芝居見物などを楽しむだけの、余裕あるジェントリ階級に属していたことや、快楽主義的なリージェンシー時代に生きていた時代の雰囲気も影響しているのかもしれない。何より、ジェインは、一葉のように孤独ではなく、生涯にわたり支えあった心の通じ合う姉や、一緒に住むようになった独身の親友もおり、結婚した兄弟と彼らの家族との仲もよく、頻繁に行き来をし、人間関係に恵まれていた。 『高慢と偏見』のエリザベスは、オースティンのお気に入りのヒロインだが、そのエリザベスの性格を表すのに、作品中、’playfulness’(プレイフルネス、茶目っ気)と記しているのはこの点で、興味深い。オースティン自身の性格を表しているようにも思えるからだ。
[iii]司会は、今回発売されたDVDボックス中の『説きふせられて』でウェントワース役の日本語吹き替えを担当した俳優の三上哲さん。ちなみに、この作品でウェントワース役を演じている俳優は、今回、イチオシのイケメンである。
カテゴリー:新作映画評・エッセイ / DVD紹介 / 特集・シリーズ
タグ:非婚・結婚・離婚 / 上野千鶴子 / 川口恵子 / ジェイン・オースティン
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