2013.06.07 Fri
晩ごはん、なあに?
アーリオ・オリオ・ペペロンチーノ。何か呪文のようではないか。アーリオ・オリオ・ペペロンチーノ。もう一度舌先で転がしてみる。俗にいうペペロンチーノスパゲッティのことである。イタリア語でアーリオはガーリック、オリオはオイル、ペペロンチーノは唐辛子を意味する(らしい)。正式名称で材料はすべて出そろっているという、シンプル極まりない料理である。
ものの本によると、パスタの本場イタリアでは、レストランでだすような料理ではないらしい。そうかもしれない。あまりにシンプルすぎる。遠く離れた日本でもそう思われるのか、生ハムを載せたり、野菜をあしらってみたりするペペロンチーノメニューが、レストランにはよくある。しかしわたしは、断然「何もいらないシンプル派」である。
岡野さんは究極のカルボナーラに魅せられているようだけれど、わたしの場合、それはペペロンチーノである。材料も作り方もあまりに簡単であるがゆえに、かえってさじ加減が難しく、完璧にできたと思うことも少ない。
まず用意するものは、パスタ、ガーリック、オリーブオイル、唐辛子、塩。それだけである。国粋主義者ではないし、巷の中国バッシングに与するつもりはまったくないが、ニンニクはまず青森産がよい。安い中国産とは香りが全然違う。
ガーリックをひとかけから2かけ、薄くスライスして熱していないフライパンに載せる。潰す、刻むなどいろいろな流派があるが、わたしは断然スライス派である。そこにオリーブオイルをドボドボと、大さじ2杯程度注ぐ。
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このオリーブオイルは本来、エクストラヴァージンオイルなどを使用しない。エクストラヴァージンは、あくまで生食で味と香りを愉しむものである。とわかっているのだが、ガーリックの香りが立ち昇ってくるときのたまらない匂いが忘れられず、ついつい使ってしまうこともある。そのときには、高温にまで熱しすぎないように心掛ける。がしかし、中途半端な温度だとべたべたと油くさくなってしまう。ここは素直に普通のオリーブオイルを使って、最後にちょっとエクストラヴァージンオイルも香りづけに振りかけるというやり方がよいかもしれない。
ガーリックの温め方は難しい。熱していないフライパンにじっくり弱火で温めれば、10分たっても焦げない。ゆっくりと香りを引き出すのである。弱火の火の大きさはみえるかみえない程度のごく弱火。お湯を沸かしている途中、パスタをゆで始めるまえに、フライパンは火に掛ける。ここである程度ガーリックが温まったら、鷹の爪をいれる。ときにはさらにシンプルになしでもよい。最後に塩を振る。
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塩なんてどれも同じと思ったら大間違い。塩は料理の要というのは本当である。シンプルな料理であればあるほど、塩は大切。魚は海から採れた塩、肉は陸の塩を振りかけて、うまみをじっくりと引き出すのが合うとしみじみ思う。ここでは岩塩をチョイスする。
その頃ゆであがったパスタのゆで汁を混ぜる。ゆで汁に含まれている小麦粉で油が乳化するのが大切らしい。この乳化をひたすら大切にするひとを「乳化厨」と呼ぶインターネットスラングすらあるくらいだ。個人的にはあまり思い入れがないのだが。このときにはフライパンの火は止めておいた方がいいと思う。またフライパンに直接パスタを入れないで、皿の上であえる。真偽は定かではないが、イタリアに留学していたひとが「イタリア人は絶対にパスタを炒めない」と口癖のようにいっていたのを思い出し、彼女をトリビュートして、フライパンにはパスタを投入しないようにしているのだ。
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巷では9分ゆでるパスタが幅を利かせているが、わたしは絶対に6分のものでよいと思う。ソースがたくさん絡んで、圧倒的に美味しい。それにすぐできるし(笑)。安いディ・チェコ No.10 フェデリーニなんかを、4分ちょっと程ゆでて使うとアルデンテ。
こんなに簡単な作り方のペペロンチーノだが、簡単ゆえに、皆のこだわりは並大抵のものではないようだ。わたしも素人なのに、こんなところに書いてすみません。パスタの茹で加減、ガーリックの炒め加減、乳化の具合、さまざまなちょっとしたさじ加減で、美味しくできたり、できなかったり。美味しいときには、ソースもすすりたいくらい。満足のいくものは、5回に1回できたらいいほうだ。でもこのシンプルさが、「次こそは!」という気持ちを湧き立たせるのだ。
冷蔵庫のあり合わせで、なにもないときにでもできてしまうアーリオ・オリオ・ペペロンチーノ。東日本大震災のあとの食糧難を、何回これで乗り切ったことか。わたしにとっては震災の、ほろ苦い味でもある。
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シリーズ「晩ごはん、なあに?」は、WANの運営ボランティアに集う人々によるリレーエッセイです。
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