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『チョコレートドーナツ』 実話をモチーフに紡がれた3人の愛、魂の歌 中村奈津子

2015.06.21 Sun

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1970年代のアメリカ、カリフォルニア。ドラァグクイーンとしてステージで踊りながら、その日暮らしをしているルディは、ある夜、彼のショーを見に来ていた弁護士のポールと恋に落ちる。自分がゲイであることをカミングアウトして生きるルディと、仕事を失うことを怖れ、ゲイであることを隠して生きてきたポール。互いが、互いにとってかけがえのない存在だと気付いている二人の関係は、ときに激しくぶつかり合うけれども、いつも受容と優しさに満ちている。

一方、ルディがポールと出会ってすぐのある日、ルディのアパートの隣に住んでいた薬物依存症の女性が、男と共に深夜、子どもを置いて出かけたまま、警察に捕まってしまう。荒んだ部屋に一人残され、人形を抱きしめていたその子は、ダウン症のマルコ。孤独に立ちすくむ彼の姿を見た瞬間、ルディはマルコを自分が引き取ろうと決意し、無鉄砲にも彼をその部屋から連れ出してしまう。そこから、ささやかな3人の暮らしと、家族になるための闘いが始まることになるが・・・。

直情的だけれども、愛情に溢れているルディの振る舞いは心地よい。「カミングアウト」とは、自分以外の誰かや、社会に対する気持ちの前に、自分自身との信頼関係が不可欠だ。ポールやマルコへ向けられるルディの率直な愛情表現や、他者に対するオープンさ、セクシュアル・マイノリティへのあからさまな偏見や差別に毅然と対峙する姿は、ときに、うらやましいほどわたしの心に響いた。

「ベット・ミドラーのような歌手になりたい」と、自分の未来を夢に描くルディは、ポールの支えによって、その夢へ向けて一歩ずつ歩き出す。ルディが、映画のラストに歌い上げるボブ・ディランの「I shall be released」。人形を抱えたマルコが、街のあちこちを一人さまようシーンと重なるその歌は圧巻。実話をモチーフにして紡がれたストーリーの、このラストを、あなたはどう受け止めるだろうか。公式ウェブサイトはこちら








カテゴリー:新作映画評・エッセイ / DVD紹介

タグ:LGBT / 映画 / ゲイ / 中村奈津子